雨に弱い大谷石の外装材をどう守る?宇都宮美術館の大谷石外壁の雨対策が凄い!

目次
美術館に企画展を観に行ったはずが…建物の「ある工夫」に感動して凝視しました
11/30(日)、宇都宮美術館で「ライシテから見るフランス美術―信仰の光と理性の光」を観てきました。
集中して観た後はとても疲れます。帰りがけに少し休憩しようと、受付前のベンチに座って、中庭の芝生と背後の森の緑をぼんやり眺めていました。
ふと建物の「ある工夫」に目が留まりました。
大谷石外壁材の、雨に対する劣化対策が素晴らしいことに、気が付いたのです。
新しい企画展があると、ほぼ毎回来ているので、何十回も訪れている宇都宮美術館ですが、初めて気が付きました。
大谷石は、雨に弱く劣化しやすい建材のため、建物の外装に使う場合は、雨に濡らさない工夫が必要なのです。
何十回も通っている私が気付かないほど、違和感なく自然に設計されており、それも凄いと思いました。
さらに「宇都宮美術館のX」の写真を見て、「庇の中央を凹ませて、軒樋のような形状になっており、より建物が傷まない工夫がされていること」に気が付いて、さらに驚きました。そのディティールは、写真をお借りして、このブログに掲載しています。
その納まりが、ある意味、展覧会よりも素晴らしかったので、ブログを書きます。
建築業界用語の「納まり:おさまり」とは、建築部材同士の接合部分の見た目や機能がきちんと整っている状態を指します。
大谷石の特徴とは?

大谷石(おおやいし)は、栃木県宇都宮市大谷町周辺で採掘される凝灰岩で、古くから塀や外壁、内装材などに広く使われてきました。
この石の魅力は、柔らかいために加工しやすく、柔らかさから由来する独特の風合いがあること。そして耐火性にも優れています。そして比較的軽い石材のため運搬しやすく、関東一円はもちろん、それ以外にも運ばれて使われて来ました。
一方で吸水性が高く、雨水にさらされることで、劣化しやすいという弱点も持っています。
特に冬、雨水が石の内部に入り込むと、冬の凍結で体積が増えることで、表面が剥離・崩壊することがあります。
細目と言われる目の詰まった大谷石を選別し、表面を研磨・カット仕上げして、孔(あな)や凹凸を減らし、最後に撥水材を塗布して水の侵入を抑えても、庇や軒を設置して、大谷石を雨水に濡れないような形状にしない限り、時間が経つと大谷石外装材は傷むと思います。
これが大谷石外装材を外部で使いにくい理由です。
宇都宮美術館の大谷石外壁材の雨対策が凄い!


宇都宮美術館の外壁には、大谷石がふんだんに使われています。特に受付前からは、中庭の大谷石外壁材を間近に見ることが出来ます。
宇都宮美術館の開館は、1997年なので今年で築28年です。しかし、大谷石外壁材は、ほとんど劣化しているように見えません。その理由が以下の工夫です。
- 石の柱型上部に、薄い鉄の庇(ひさし)が取り付けられている
この薄い金属庇(陶器かも?)が直接的に雨を遮り、大谷石に雨が掛かるのを防いでいます。ドブ付け亜鉛メッキで錆対策が施されており?、デザイン性も良いです。厚さ1センチ程度で、目立たない形状になっており、大谷石の存在感を邪魔せず、むしろ引き立てています。庇中央に軒樋のような凹みがあり、水を集めることで強い流れで排水され、より外壁を汚さない工夫がされているのが凄いと思いました。 - 屋根の軒(のき)も深く出ている
屋根も軒(のき)が出ており、建物の構造自体で、大谷石外壁材に直接雨が当たらないよう設計されているのもポイントです。 - コストと意匠のバランスが秀逸
庇はオリジナルで製作されたものと思われますが、決して過剰な装飾ではなく、長く使うことを前提として、公共建築としてはコストも抑えられているように思います。ただし、一般住宅にはコストが高すぎます。
また、宇都宮美術館の一般駐車場から、美術館入口までの歩道には大谷石が敷石として配置されています。自宅の新築やリフォームで大谷石を使いたい方で、まじかで見たことが無い方は見ておくと良いでしょう。
私以外で、宇都宮美術館の大谷石外壁材の雨対策の素晴らしさに気が付いて、発信している人は居るのか?
検索したところ、宇都宮美術館の公式Xとインスタグラムで、今年1月18日に発信していました。この写真の方が、庇の出の状況が詳しく分かります。
庇中央に軒樋のような凹みが付いており、より大谷石外壁を汚さないようになっているのも、このXを見て初めて知りました。
庇上の雨水を集めて、1か所で水が排水されるような形状にして、より外壁を汚さない。これには驚きました。次に行った時に近くで確認します。
https://www.instagram.com/p/DE9noajK_Xk/
大谷石の劣化事例


ここで、大谷石の劣化事例を紹介します。
写真は、当社近くの擁壁の大谷石です。大谷石がえぐれており、大谷石の粉が地面に落ちています。触ると粉が落ちる状態です。大谷石に水がしみ込み、凍結・融解を繰り返すことで内部から壊されていくためだと思います。大谷石の表面を壊すように劣化が進んでいる状態。
大谷石に染み込んだ水が、すぐに乾くようなら、ここまでの劣化にはならないと思います。しかし、擁壁として使われている古い大谷石は土に接しているため、程度の差はあれど、水分を含み劣化することが多いです。
宇都宮美術館の設計者は誰?

宇都宮美術館の建物は平成9年(1997年)に開館し、設計は岡田新一設計事務所が担当しています。施工は大林組などが関わりました。
なぜ大谷石は外装に向かないと感じるのか?
大谷石は宇都宮を代表する建材で、古くから塀や擁壁・外壁材として使われてきました。しかし、雨掛かりの状態では劣化が進みやすく、外装材としては一定のリスクがあります。
私は工務店として、実際に現場で何度も、既存大谷石の劣化に直面してきました。
そのため、外壁材として大谷石を扱う際には、雨水対策が非常に重要だと感じています。
庇や軒を出して、外装大谷石を雨から守れる状況であれば、外装材として使えます。しかし、それ以外の場合は、以下の用途をおすすめしています。
- 内装材としての利用
- 庭の敷石など、劣化しても大きな問題になりにくい用途
展覧会「ライシテから見るフランス美術」について

今回訪れた展覧会のタイトルにもある「ライシテ」とは、フランスの非常に重要な価値観である、政教分離を意味する概念です。
この展覧会では、宗教と個人の狭間で揺れ動いたフランス美術を、光と陰影をテーマに展示しており、芸術だけでなく文化背景への理解も深まる内容でした。
この企画展は今月12月21日(日)まで開催されています。
https://u-moa.jp/exhibition/exhibition.html
まとめ
宇都宮美術館の大谷石外壁は、設計段階から雨対策が丁寧に施されており、長年の劣化を最小限に抑えています。ディティールを含めて凄いと思いました。
また、庇と軒の、雨から外壁を守る効果。「庇と軒を出す大切さ」を再認識しました。
昨今の住宅の中には、軒や庇が無いキューブ型の家も数多く見受けられます。そのような家の外壁は、大谷石外壁でなくとも、雨により傷みやすくなり、かつ漏水も起きやすいです。
大谷石という地域素材の扱い方について考えるきっかけとなった1日であり、素材と環境をどう調和させるか、改めて考えさせられました。
大谷石について書いたブログ
大谷石関連のブログの一部を掲載します。よかったらご覧ください。
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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