2025-09-06
Q1.0住宅 宇都宮小幡の家(宇都宮市)
冷暖房・換気システム
高断熱・高気密住宅

Q1.0住宅 「小幡の家」夏の温湿度実測結果── 下屋があって、吹き抜けが端にある住宅でも、室温を均一に近づけた高断熱住宅の実例 ──

概要(調査目的・期間・実測結果)

Q1.0住宅「小幡の家」の真夏の温湿度変化を実測し、「どれくらい快適な室内環境になっているのか」を確認しました。実測することで、良い点を再確認できるだけでなく、さらに快適にするための改善ポイントも見つけやすくなります。

2025年7月19日(土)~8月30日(土)の42日間、真夏の温湿度を実測しました。

その中でも特に暑かった1日、8月23日を選び、室内各所の温湿度推移をグラフ化しました。測定期間中の全てをグラフ化するのではなく、暑かった1日のみを抽出し、情報を分かりやすく単純化して、詳細に分析を行いました。

実測結果を初めに書いておきます。

  • 居室(床下を除く)の平均室温:26.1℃
  • 居室(床下を除く)の平均絶対湿度:14.1 g/m³

いずれも一般的に快適とされる夏の温湿度です。冬の実測結果と同様に、快適な状態となっていました。

この住宅は、総2階ではなく「下屋があり、かつ吹抜け位置も家の端」にあるので、高断熱高気密住宅の類型と言える「総二階で吹抜けが中央にある家」と比べて、温湿度は均一にしづらい環境です。

しかし、以下に書いた工夫により、ほぼ温度差のない住宅になりました。湿度も許容値だと思います。何より、簡単に普遍的方法で温湿度管理が出来ていることが大切だと思います。見てみましょう。

下屋のある住宅・吹抜けが端にある住宅が、室温を均一にしづらい理由

下屋のある住宅は、総二階に比べて温湿度を均一にしずらいが、工夫により温湿度をほぼ均一化した

室温を均一にするなら、平面が真四角の総二階にするのがベストです。その理由として、上下階が揃うシンプルな形のため、空気の流れや断熱・気密の性能を安定させやすく、冷暖房が家全体に均一に届きやすいからです。

しかし、このお宅では「1階で全てが完結する」という間取りによる快適性を重視した為、水まわりや個室などの生活機能がすべて1階に集約し、1階が2階より広い、下屋のある住宅になりました。

下屋があると、総二階と比べて内外観が複雑になり、外皮面積も広くなり熱の出入りも多くなります。総二階と比べて、下屋のある家は空気が滞留しやすい室内形状のため、冷暖気が家の隅の部屋に届きにくいのです。

また、「吹抜け」も日射取得しやすい東端に配置したので、建物中央に「吹抜け」がある場合に比べると、冷暖気を家の隅々まで届けにくく、室温を均一にしづらい環境でした。

しかし、下記グラフのように家全体の平均室温は26.2℃で、各部屋の温度差は、26℃±1℃以内に納まる温度差の少ない家になりました。

なぜ「8月23日」を選んでグラフ化したのか?

42日間の測定データから、もっとも終日外気温が高かった8月23日を抽出し、1日の温湿度変化を分析しました。

この日を選んだ理由は、一日中晴れて雷雨もなく、外気温が22時まで30℃を超えていた、終日猛暑日だった為です。

下記の「室内各所の温湿度グラフ」の項を見て頂くと、外気温は9時くらいから上がり、12時半に39.1℃となり、この日の最高気温を記録しました。夕方18時でも34℃、22時にまだ30.9℃、深夜23時45分でも28.8℃の猛暑日でした。

一番暑さが厳しい1日のみを抽出することで単純化して、視覚的に分かりやすくお伝えします。一番暑さの厳しい1日を選んでおけば、その他の日は環境が良く、楽に過ごせていると分かるからです。

測定条件

  1. 測定期間:2025年7月19日 09:00~8月30日 09:00(42日間)
  2. グラフ化抽出日:8月23日 0:00~24:00(1日間)
  3. 天候:晴れ、雨なし。最高外気温39.1℃(12:30)、最低気温25.6℃(05:30)
  4. 在宅人数:2人
  5. 延床面積:103.54㎡
  6. 温熱性能:Q値0.92W/㎡K、UA値0.29W/㎡K、C値0.4cm²/m²(断熱・気密)
  7. 設置温湿度計:スイッチボット温湿度計 ×7箇所
  8. ドア:居室・トイレ含め常時開放
  9. 日射遮蔽:電動外付ブラインド・手動シャッター・ハニカムサーモスクリーンなど多層的に対応
  10. 冷房エアコン:2台(ダイニング吹き抜け前、1階西側個室)運転条件あり
  11. 冷房範囲補足:床下エアコンは暖房専用のため冷房には未使用
  12. 送風機:各種ファン・送風器を24時間稼働(床下、シーリングファン、パイプファンなど)

日射遮蔽の状況

東面。日射遮蔽材、電動外付ブラインド

夏、涼しく過ごすためには、窓からの日射熱を遮ることが大切です。これを日射遮蔽(にっしゃしゃへい)と言います。

  • 東・南のFIX窓に電動外付ブラインド×3か所、南の引き違い窓に手動シャッター設置×2か所。シャッターで日射遮蔽したのは2階腰窓1か所のみ。掃き出し窓はシャッターを降ろさず、ハニカムサーモスクリーンで日射遮蔽した
  • 窓内側にはすべてハニカムサーモスクリーンを装備
  • 電動外付ブラインド×3か所とシャッター1か所で日射遮蔽して、他の窓はハニカムで日射遮蔽すると、エアコンがサーモオフしてしまうことがある。そのため晴れた日は、終日東側2階の外付電動ブラインドを開けて、日射取得する時間を確保した。あえて日射取得してエアコンを連続運転させることで、なるべく湿度を下げる工夫もしている

※サーモオフとは、設定温度に達してエアコンの冷暖房運転が一時的に止まっている状態のことです。室温が上がった、または下がった時に、自動的にコンプレッサーが再稼働しエアコンが運転します。

エアコン運転状況

1階西側個室棚上(オレンジ)、就寝前の19時~21時まで毎日タイマー設定で冷房した。室温下がったことが分かる

各部屋の温度は、26℃±1℃の範囲内で、推移していることが分かります。

冷房用エアコンは下記の2台を使用しました。エアコンは10年くらいで壊れるので、壁掛けエアコンが良いと考えています。

  1. 吹き抜け前ダイニング(2階):10畳用 壁掛けエアコン、設定24℃、微風運転、24時間運転
  2. 1階西側個室:6畳用 エアコン、毎日就寝前にタイマー起動で設定24℃、2時間運転、昼間個室に居て、暑い時は冷房することもあった
  3. 床下エアコン:暖房専用で、冷房には非使用

1階西側個室にエアコン設置した理由:吹き抜けから冷気が届きにくい、家の一番端の部屋。南隣家の影になり、日差しの入りにくい部屋である。完成して2階吹抜けエアコンを付けてみたら、その個室は他室より約1℃高温だった為、急遽追加で小さなエアコンを設置した。エアコンの配管穴とコンセントは設計時に計画済。上記グラフのオレンジ色が1階西側個室、19時~21時までの2時間、タイマーで冷房が入り室温が下がっているのが分かる。

送風機の運転状況

写真中央絵画の上が送風機、キッチン左が24時間運転していた2階壁掛けエアコン、天井シーリングファン

室内の空気を継続的に循環させるため、各部に送風機を設置しました。

  1. 各個室床下ブースターファン:24時間微弱運転×各部屋1台 合計2台
  2. 吹き抜け天井シーリングファン:24時間運転×1台
  3. 壁付け送風機(ダイキン WPF08WS‑W):1・2階各1台、夏モード24時間運転
  4. パイプファン(1階東側、2階作業室):各1台、24時間運転
ブースターファン

温湿度計の設置位置

外部用 防水温湿度計。南面
2階仏壇置き場 カウンター上温湿度計。このような温湿度計を計7台設置
1階西側個室棚上

温湿度を測定した7箇所は以下の通り

  1. 外部(南側1階掃き出し前)
  2. 1階ダイニング ニッチ内
  3. 1階西側個室 棚上
  4. 1階トイレ カウンター上
  5. 2階納戸 棚上
  6. 2階仏壇置き場 カウンター上
  7. 1階脱衣室 床下

室内各所の温湿度グラフ

1階ダイニングニッチ内。吹抜けのある部屋
1階西側個室棚上。1階の一番端で、吹抜けから一番遠い部屋
1階トイレカウンター。ドアを開けておいても冷気は入りにくい
2階納戸棚上。2階の一番端の部屋。
2階仏壇置き場カウンター。2階に設置した冷房用エアコンの隣。一番平均室温が低い
1階脱衣室床下。床下の温湿度も測った。

室内6か所の各温湿度グラフを見ると、大きく変わらないことが分かると思います。背景の黄色が日照時間です。日照時間は、気象庁の宇都宮市の日照時間を使いグラフ化しました。

日差しと共に、青い色の外気温は9時くらいから上がり、12時半に39.1℃となり、この日の最高気温を記録。18時に34℃、22時にまだ30.9℃、深夜23時45分でも28.8℃の猛暑日でした。

一方、オレンジ色の室温は、外気の影響を受けずに、26℃くらいで一定になっています。湿度も、大きな変化がなく安定していました。

一日の平均室温について

1階脱衣室床下平均室温26.2℃は、家全体の平均室温と同一
  1. 室内6箇所の平均室温は26.2℃。
  2. 居室5箇所の平均室温(1階脱衣室床下除く):26.1℃
  3. 最低は2階仏壇置き場25.3℃(平均室温26.2℃-0.9℃)、最高は1階西側個室26.7℃(平均室温26.2℃+0.5℃)の差に収まっており、温度ムラは±1℃以内。
  4. 2階仏壇置き場カウンター上の平均室温が25.3℃。この場所が、平均室温-0.9℃と低い理由は、近くに24時間連続運転している壁掛けエアコン(10畳用)があるから。
  5. 吹抜けに面しており冷気が降りてくる、1階ダイニングニッチ内も比較的室温は低い
  6. 1階西側個室の平均室温が26.7℃。この場所が平均室温+0.5℃と高い理由は、冷気の降りてくる吹き抜けから、一番遠い部屋で家の端にあるからです。この部屋は別記したように、就寝前の2時間はタイマーで冷房している。また、昼間この部屋に居て、暑い時は冷房している
  7. 1階脱衣室床下の平均室温は、建物全ての平均室温と同じ26.2℃。冷たい空気は重くなり、床面付近に溜まっており、1階床下にも床ガラリを介して冷気が落ちているため室温が均一に近くなっている。床下室温が平均室温と同じになったその他の理由として、換気システムが床面排気であること。床面排気の場合、1階床下に配管を介して室内の冷気が通っている。その2つが、1階床下室温が平均室温と近い理由と考えている。
  8. 上記7の内容から、床下空気をブースターファンで1階床上に上げることは、空気を循環させて、温湿度を均一に近づけることに繋がると考えている。

室温を、ほぼ均一に出来た理由?

  1. 高い断熱・気密性能:性能値は上記測定条件を参照
  2. エアコン冷房したこと:上記エアコン運転状況を参照
  3. 吹抜けを含んだ開放的な間取り
  4. トイレドアを含んだ全てのドアを、基本的に終日開け放して生活していること
  5. しっかり日射遮蔽していること
  6. 各種送風機で室内の空気を動かしていること

湿度について

一般に、夏期の快適な環境は「室温26〜27℃くらい、絶対湿度12〜15g/m³くらい」とされます。本住宅は居室平均室温 26.1℃、居室平均湿度は14.1g/m³でその範囲に収まっています。

上記のグラフを見ると、水廻り(脱衣室床下の緑とトイレのグレー)は湿度がやや高め。水廻り2か所の湿度が高い理由は、エアコンの冷気が届きにくいことと、水蒸気源があることが、湿度が高い理由と考えています。

冷気が届きにくい=温度が下がりにくい
エアコンの風が届きにくい場所は、周囲よりも気温が少し高めになります。水廻り(脱衣室床下の緑とトイレのグレー)は、上記の棒グラフ「1日の平均室温」を見て頂くと、室温が高めであることが分かります。温度が高いと相対湿度は下がるはずですが、実際には「湿気がこもりやすい」要因が重なるため、湿度が高く感じられます。

●空気の滞留が発生する
冷気が届かない場所は風の流れも弱く、空気が動きにくくなります。換気や対流が少ないと、湿気がたまったまま抜けにくくなるため、結果的に湿度が高めになります。

湿度を下げるために、エアコンを除湿運転をしたり、エアコンの設定温度を下げたり、いろいろやってみましたが、「冷房24℃設定」が良いようです。

キチンと日射遮蔽しているため、エアコンがサーモオフしてしまうことがあるので、午前中、東側2階のブラインドを開けるなどして、あえて日射熱を入れて、エアコンがサーモオフしない工夫をして、なるべく湿度を下げる工夫もしています。

絶対湿度の快適範囲(夏)

一般的に、人が快適と感じやすい 夏の絶対湿度は12〜15g/m³程度 とされています。

  • 12g/m³前後 → やや乾燥気味でカラッと感じる
  • 14〜15g/m³ → 蒸し暑さを感じにくく、多くの人に快適
  • 16g/m³以上 → 蒸し暑さを感じやすくなる

当住宅の夏の温湿度「平均室温26.1℃・平均絶対湿度14.1g/m³」の快適性

  • 当住宅の「26.1℃・絶対湿度14.1g/m³」という条件は、快適範囲に収まる。
  • この状態だと、
    • 湿度(相対湿度換算でおよそ55〜60%前後)
    • 室温も低すぎず高すぎず
    • 室温26.1℃・絶対湿度14.1g/m³は、夏の快適範囲に入っていると言えます。
      特に高断熱住宅では温湿度が安定するため、この数値なら多くの方が「快適」と感じる環境だと思います。
    • 難しい方法でなく、簡単で継続可能な工夫で、温湿度は快適範囲に入っていると思います。

各箇所の絶対湿度の平均値

脱衣室床下の温湿度計。脱衣室床下は冷気が届きにくく、隣に浴室もあるので湿度は高め

1階脱衣室床下を除いて、居室のみの絶対湿度の平均値は14.1g/m³。1階脱衣室床下を除いた居室の平均室温は26.1℃で、一般的には快適な温湿度と言えます。

以下は各箇所の絶対湿度の平均値です。エアコンの冷気が届きやすい所は、湿度が低めになっています。

・1階ダイニング14g/m³

・1階西側個室 14.6g/m³

・1階トイレ 15.2g/m³

・2階納戸棚上 13.5g/m³

・2階仏壇置き場カウンター上 13.1g/m³

・1階脱衣室床下 16.4g/m³

まとめ

以下のことを実行したことで、Q1.0住宅「小幡の家」の夏の温湿度を快適範囲に収めることが出来ました。施主が簡単で安全にメンテナンスできる事も大切にしています。

  1. 高断熱高気密性能:Q値0.92W/㎡K、UA値0.29W/㎡K、C値0.4cm²/m²程度の性能
  2. 電動外付けブラインド・シャッター・ハニカムサーモスクリーンで多層的な日射遮蔽
  3. 下屋のある住宅とはいえ、なるべく平面が四角形の総二階に近い形とした
  4. 吹抜けを含んだ、ワンルームに近い開放的な間取りとしたこと
  5. ドアは出来るだけ開けて、ワンルームに近くして生活
  6. 各種送風機を付けて、なるべく冷気を移動させる。空気を循環させる
  7. エアコンは10年くらいで壊れるので、更新しやすい壁掛けエアコンとしている
  8. 施主が定期的に掃除する換気システムは、脚立を使わず安全簡単に掃除できるモノとしている
  9. エアコンは冷房用の壁掛けエアコン1台、暖房用の床下エアコン1台の合計2台以上が良い。壊れた場合に片方が使えるため、1台のみで冷暖房することにこだわらない方が良いと考える。
  10. 下屋のある住宅の場合は、この住宅のように、冷房用として、もう1台小さなエアコンを設置すると、室温を均一に近づけやすい。2台のエアコン台数にこだわるよりも、そこに1台増やしたほうが、簡単に室温を均一に近づけやすく、かつ暮らしやすい
  11. 温湿度を均一に近く保つため、住宅の温熱的快適性は、断熱・気密・日射遮蔽・空調・換気が、三位一体ならぬ五位一体で構成されます。そのうち施主が継続的に操作とメンテナンスをする日射遮蔽・空調・換気は、新築時に安全・簡単に、操作及び清掃できる仕様にしてあります。

冬の温湿度実測結果はこちら

冬も夏と同じように、快適な状態になっています。

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

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