Q1.0住宅 小幡の家、冬の温湿度 実測結果【総二階でなく、かつ建物の半分以上が日陰になる環境で、室温を均一に近づけた高断熱住宅】

2025年3月2日から3月14日までの12日間、Q1.0住宅小幡の家の、冬の温湿度を実測しました。
その中で、特に寒かった3月8日のデータを使って、部屋ごとの温度差などをグラフにまとめ、なぜそのような結果になったのかを詳しく分析しました。
結論から言えば、家全体の平均室温は22.2℃と非常に快適で、各部屋の温度差もほとんどない、暖かい住まいになっていました。
安心できる結果となり、ほっとしました。
なぜなら、Q1.0住宅小幡の家は断熱・気密性能こそ高いものの、周囲の環境や間取りの制約から、温度ムラが出やすい条件だったからです。
その条件とは、南側の隣家が近く、家の半分以上が日陰となり十分に日射取得ができない。また、総二階ではなく下屋があり、吹抜け位置も建物の中央でなく端だった為、暖かい空気が建物全体に届きにくいというものでした。
超高断熱住宅の多くが、シンプルな四角形の総二階になっている理由の1つは、室温を均一にしやすい為です。暖かい空気は軽くなり上昇するので、シンプルな四角形の総二階として、吹抜けを真ん中に設けた方が、吹抜けや階段を通して、暖気は家の隅々まで行きわたりやすいのです。
一方、「下屋のある住宅」は、1階の一部が張り出していて、2階がその上に乗っていない部分がある為、家の形が複雑になり、暖気は2階及び、家の隅々まで届きにくくなります。
この住宅のように、施主から平屋に近い2階建てを要望されても、温度ムラを無くすと言う点では、総二階のほうが良いのです。
また総二階は、外壁面積が少なくなるため、断熱性能を上げやすく、かつ建築コストも安くなり、施工も単純になり間違いも少なくなるので、性能・コスト・施工安定性でも優れています。
しかしこの住宅では、以下の計画を実行することにより、「総二階でない、下屋のある住宅」で、かつ「日陰になる住宅」でも、将来に渡りローコストで、暖かく温度差の少ない家にすることができました。
なるべく機械に頼らず、かつ隠蔽される配管が少ないことで、簡便に機械交換とメンテナンスができることを目指しています。
- 断熱性と気密性の高い住宅にすること
- 吹抜けを含んだ開放的な間取り
- 少しでも日射熱を確保できるように、南隣家との配置をずらし、日射熱を確保出来るダイニングと吹抜けを設けたこと
- 暖気の移動方法その1。床下エアコンの暖気は、ブースターファンを含んだ「1階床ガラリ」で室内に上げて、日射熱による暖気と共に、吹抜けで2階に移動させました
- 暖気の移動方法その2。2階に上げた暖気は、吹抜け天井のシーリングファンを上向きで廻すことで攪拌。各所にある24時間換気システムの排気口と、一番遠い個室のパイプファン(壁付のシンプルな送風機)により、2階の各部屋にも届けて、暖かく温度差の少ない家にすることができました
- 全てのドアを開け放す、開放的な暮らし方
目次
一番寒かった日の温湿度をグラフ化して分析
2025年3月2日から14日までの12日間、住宅内外の7か所で温湿度を実測しました。その中から、外気温が最も低かった3月8日のデータを抽出し、1日の温湿度変化をグラフ化して分析しています。
12日間のデータの中からあえて1日のみを選び、グラフにまとめたのは、複雑な情報をできるだけシンプルにして、分かりやすく伝えるためです。1番気温の低い日を抽出することで、より断熱性能や暖房の効き方が明確になります。
この日は曇りやみぞれの多い、寒い1日でしたが、午前11時から13時の2時間程度のみ、晴れ間もありました。
測定条件
- 測定期間:2025年3月2日14時〜3月14日9時(12日間)
- グラフ作成日:2025年3月8日
- 天候:曇り〜雪。外気温は最低気温-2.2℃(未明) 最高気温6.7℃(正午)
- 延床床面積:103.54㎡
- 温熱性能:Q値0.92W/㎡K、UA値0.29W/㎡K、C値0.4cm²/m²※断熱・気密性能の数値です
- 居住人数:2人
建物周辺環境と間取りの特徴

Q1.0住宅小幡の家は、宇都宮市の中心部に近い住宅密集地にあり、東と北は道路で、東の向かい側は公園予定地。南隣家との距離は1.2m未満で非常に近接しており、南面の半分以上は日陰になっています。敷地は区画整理地域内で、現在、周辺家屋や道路は工事中です。
南隣家も建替え前だった為、重ならないように想定した上で、建物配置を決めました。南隣家と重ならないと想定した、南東の角に3畳の吹抜けを設け、1階ダイニングとつなげて日射熱を確保しています。建物は総二階ではなく、下屋のある住宅です。吹抜けも建物の中央でないため、暖気が全体に巡りにくい間取りでした。

日射取得と日射遮蔽の工夫

南隣家の影になる部分が多いため、日射熱を取得しづらい敷地条件でしたが、日射熱を確保できる位置にダイニングと吹抜けを配置しました。
ちなみに、夏の日射遮蔽は、南・東面の窓には外付電動ブラインドとシャッターを適宜設置。窓の外側で日射遮蔽しています。また、全窓の室内側に断熱ブラインド(ハニカムサーモスクリーン)を設置して、冬の断熱性と夏の遮熱性を確保しています。

温湿度計の設置場所(計7か所)

スイッチボット温湿度計を次の7か所に設置しました。
- 外部(郵便ポスト内)※外部のみ、温湿度計の不調でデータ不完全のため、宇都宮市気象台のデータを使用
- 1階ダイニングニッチ
- 1階西側個室
- 1階トイレ
- 2階納戸
- 2階仏壇置き場
- 1階脱衣室床下
温湿度計の設置状況写真です。写真は3か所ですが、このように7か所設置しました。



床下エアコン暖房と稼働時間

測定期間中に使用した暖房は、1階ダイニングの床下エアコン1台(10畳用)のみです。
- 床下エアコン設定温度:22℃。
- 床下エアコン稼働時間:17時〜翌朝6時の約13時間稼働
晴れの日は、暖房せずに日射熱のみで過ごすこともありました。
※エアコンは、1階ダイニング床下エアコン1台、1階個室壁付けエアコン1台(夏用 6畳用)、2階吹抜け前のエアコン1台(夏用 10畳用)の計3台設置しています。
※1階個室壁付けエアコン1台(夏用 6畳用)は、猛暑日の補助的使用です
暖気の移動方法(床下エアコンの暖気を、ブースターファンで床上に送風)


この住宅は、建物が総二階ではなく、吹抜けも建物中央ではないため、暖気の移動が難しい間取りです。そのため、以下の工夫を行いました。
- 1階床面に7か所の床ガラリを設置
- そのうち、床下エアコンから遠い、1階個室の2か所に、ブースターファンを設置(床下暖気をファンにより床上に送風)
- 他5か所の床ガラリからは、自然対流で床下暖気を上昇
- 家中のドアは基本的に開放
- 吹抜けのシーリングファンを終日稼働(下に写真あり)
- 吹抜けから一番遠い、2階納戸の壁に付けた、小型パイプファンも終日稼働
床下エアコンから、ブースターファンを設置した、1階個室2部屋の床ガラリの中央までは、それぞれ直線距離で、6.5m・9.3mと離れています。しかし、ブースターファンを弱運転で廻すことで、床下から暖気が感上がり、床下エアコンから離れていても、暖かい室内となりました。
※ブースターファンとは、床下や小屋裏などをチャンバー空間として、そこに暖気や冷気を送り、そこから、ブースターファンにより送風して、部屋全体の温度を、できるだけ均一にする送風機のことです。「チャンバー空間」とは、空気や音、熱などをコントロールするために作られた、囲われた空間のこと。今回の場合は1階床下がチャンバー空間となり、床下エアコンの暖気が溜まった空間のことです。

ブースターファンのことは、以下のブログに書きました。
下屋のある住宅にした理由と、計画時の温湿度の想定
室内各所の温湿度の均一性を考えると、日陰にならない敷地が理想で、建物の理想は真四角な、塩梅良く東西に長い総二階で、中央に吹抜けがある間取りです。総二階は、外壁面積も減るため施工性にも優れますし、建築コストも減らすことが出来ます。その上、総二階はシンプルなので、下屋のある住宅や凹凸のある建物と比べて、施工が単純で間違いも少なくなります。
しかし、この住宅は1階を広くした下屋のある住宅として、間取りによる使いやすさ・快適性も重視しました。 2階よりも1階が広くなる「下屋のある住宅」にした理由は、将来、足腰が悪くなっても、平屋のように1階のみで快適に暮らしたいという要望があったからです。
南隣家との距離が1.2m未満で、南面の過半が日陰。こうした条件から、温熱的に理想な、矩形の総二階で、かつ日射取得できる住宅と比べると、室温が均一になりにくいことは想定していました。
この住宅は、温熱性能による快適性と間取りによる使いやすさを、下屋のある住宅で、かつ建物の半分以上が日陰になるという難しい条件下で、両立させるのがテーマでした。
結果として上手く行ったと思います。
加湿の方法

加湿には2つの方法を採用しました。
- 風呂の残り湯の湿気を、朝〜夕方まで脱衣室のサーキュレーターで居室側に送風
- 吹抜けに近い1階ダイニングで、加湿器を朝〜夕方まで弱運転


室内各箇所の温湿度グラフについて
各箇所とも、温度・湿度ともに大きな変化がなく、非常に安定していました。
グラフの黄色い山形が日照時間です。11時から13時の2時間程度しか晴れていないことが分かります。
※外気温は、温湿度計を外部の郵便ポスト内に置きましたが、データ不完全のため、宇都宮市気象台のデータを使用しました。3/8 宇都宮市の気象データ






「室温」グラフについて

上記の折れ線グラフでは、変化があるように見えますが、実際の温度差は小さく、最大でも2℃程度です。
緑の線が、1階脱衣室の床下です。床下エアコンを点けた17時くらいから上がり始めて、エアコンを停めた翌朝6時くらいから下がっているのが分かります。9時から10時くらいまで、一時的に上昇しているのは、その時間だけ床下エアコンを点けたから、かもしれません。
日射熱が入りやすい、濃い青線の1階ダイニングニッチ内(1階)と紫色の2階仏壇置き場カウンター上の温度は、晴れ間の時間帯11時から13時と共に、上昇しているのが分かります。
「1日の平均室温」グラフについて

上記は、各箇所の平均室温です。
1階西側個室:21.3℃と、2階納戸:21.5℃ は、他よりやや低い結果でした。 これは両部屋共、建物の西端で床下エアコンから遠く、暖気が届きにくく、かつ日射熱も入りにくい日陰の場所だからと考えられます。
それでも、1階脱衣室床下温度を入れた平均室温22.2℃との差は、最大0.9℃(22.2℃-21.3℃=0.9℃)であり、家全体として温度は、ほぼ均一です。
1番平均室温の高い23.2℃は、1階脱衣室床下の温度で、床下エアコンの暖気の影響です。
1階脱衣室床下を入れない、居住部分のみ5か所の平均室温は22℃です。1階脱衣室床下を入れた平均室温22.2℃と、あまり変わりがありません。
居住空間でない、1階脱衣室床下の温度を測ってグラフに入れた理由は、この住宅の暖房は、床下エアコンのみであり、床下エアコンが室温に大きく影響を与えている為です。
また、床下エアコンは快適性も大きく、床暖房と違い無垢フローリングを採用できる上に、床面がほんのりと暖かいのは快適です。実は床暖房は温度が高すぎて、快適性では床下エアコンに劣ると思います。
室温が、ほぼ均一である理由は?
- 高い断熱・気密性能
- 吹抜けを含んだ開放的な間取り
- 全てのドアを、終日開け放して生活していること
- 限定的だが、南面からの日射熱取得が出来ており、その熱を、吹抜け部の自然な上昇気流や換気システムの排気によって、各部屋に移動出来ていること
- 床下エアコンにより、1階床全面が暖かく、その熱を上記同様、各部屋に移動出来ていること
- 床下エアコンの暖気を1階床上に吹き出すブースターファンを、床下エアコンから遠い、1階個室2部屋の床ガラリに設けたこと。ブースターファンを付けていなければ、個室2部屋の温度は、より低くなっていたと思います。
- 吹抜け天井のシーリングファンで暖気を攪拌したこと。2階の吹抜けから遠い個室の壁に、パイプファンを設けて昼間は運転したこと。
室内6か所の平均室温は、グラフの吹き出しにある22.2℃です。一番温度が高い、1階脱衣室床下の平均室温23.2℃と、一番平均室温が低い1階西側個室21.3℃との差は、1.9℃です。
居住部分でない1階脱衣室床下を除き、生活の場で一番平均室温が高いのは、1階ダイニングニッチ内の22.9℃です。一番室温が低いのは1階西側個室棚上の21.3℃で、その差は1.6℃です。
南隣家が近接して、充分に日射取得出来ない環境です。かつ総二階ではない下屋のある間取りであり、吹抜け位置も建物中央ではありません。
そのような室温を均一にしづらい環境で、冬の寒い1日の、家全体の平均室温は22.2℃、床下を含まない居住空間のみの平均室温は22℃です。
温熱設計と施工は上手く行ったと思います。
湿度グラフについて


絶対湿度はおおむね9g/㎥前後で安定。加湿器を強く運転すれば10g程度になります。しかし、加湿器への給水の頻度が増えるなど、管理が面倒になるため、現状の湿度が塩梅の良い状態と考えています。
住まい手の感想と温湿度の目安

- 設計段階から「暖かい家になるだろう」と思っていたが、実際に住んでみて、その暖かさをしっかり実感している。
- 換気システム「澄家」の壁付リモコンに表示される温度が22℃だと快適に感じ、その温度を目安にしていた。※この温度は1階・2階の各部屋の排気口から、換気システム「澄家」によって排気された空気を、床下の換気本体部で測定したものです。実測値の平均室温22.2℃とほぼ一致しています。※施主は、温湿度計「みはりん坊」を4か所(1.2階2か所ずつ)に置いて、温湿度管理をしています。
- 1.2階の壁に、1台ずつ付けたアシストサーキュレーター(ダイキンMPF08WS-W)は、夏に涼しい風を送るには効果があった。しかし、冬の暖気を送るにはあまり効果が無く、夏のみ使用している
空気清浄機(エアドッグ)を使う場合は、加湿器との相性に注意


当初はハイブリッド式加湿器を使用していましたが、水道水のミネラルやカルキ成分がエアドッグ内部に白い結晶として付着してしまいました。これは、エアドッグと、ハイブリッド式加湿器(超音波式含む)や超音波式加湿器との相性の問題です。
現在は、スチーム式加湿器に変更。スチーム式なら、水道水中のミネラルなどを気化前に除去でき、エアドッグに悪影響を及ぼしません。
またエアドッグを、次亜塩素酸噴霧機やアロマ噴霧機と併用すると、同様に白い結晶が生じるため、使用する場合は、注意が必要とのことです。
下記のエアドッグの取り扱い説明書には、超音波加湿器・次亜塩素酸水・アロマ噴霧器と併用しないように書いてあります。


有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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