高断熱住宅にエアコンは2台以上必要?真夏のエアコン故障で再認識した“バックアップ冷房”の重要性

一般的な住宅では、各部屋に1台ずつエアコンを設置するのが一般的です。しかし、一定レベル以上の高断熱・高気密住宅では、新築時に家全体をカバーできるよう、1〜2台のエアコンのみを設置するケースが増えています。これは、断熱・気密性能の高さゆえに、少ない台数でも冷暖房が可能で、ランニングコストも最小限に抑えられるためです。
とはいえ、エアコン1台だけに頼るのはリスクもあります。特に猛暑の時期に故障が起きれば、修理や交換まで冷房なしの生活を強いられ、健康を害する可能性もあります。
本記事では、実際にQ1.0住宅で冷房用エアコンが真夏に故障し、暖房用として設置していた床下エアコンを、冷房として使用した事例をご紹介します。今回の体験から「高断熱住宅こそ、エアコンは2台以上必要」と再認識しました。
目次
真夏に冷房用エアコンが故障。代わりに暖房用の床下エアコンを冷房運転
2025年7月8日、Q1.0住宅宇都宮の家で、2階に設置された冷房用の壁掛けエアコンが故障しました。
このお宅では、新築時に、冷房用として2階の壁掛けエアコン1台(10畳用)と、暖房用として1階の床下エアコン1台(14畳用の床置エアコン)の合計2台を設置していました。
この建物の断熱性能は次の通りです。
- Q値(熱損失係数):1.02 W/㎡K
- UA値(外皮平均熱貫流率):0.3 W/㎡K
- C値(隙間相当面積):0.5 ㎠/㎡
7月8日から10日の約2日間、2階エアコンが使えない状況でしたが、1階の床下エアコンを冷房運転したことで、住まい手は健康を損なうことなく快適に過ごすことができました。本来は暖房専用に設置したエアコンでしたが、緊急時の“バックアップ冷房”として非常に役立ちました。
バックアップ冷房時の温湿度については、このブログの下の方に温湿度計の写真があります。

エアコン故障時でも、暖房用の床下エアコンで冷房して、涼しく快適な空間を実現出来ていた




在宅日の7/10(木)、エアコン業者と一緒に、故障の原因調査に伺いました。
私は「エアコンが壊れている=室内は蒸し暑い」と予想していました。エアコンの代わりに、扇風機を回していると思っていたからです。
しかし、玄関ドアを開けて驚きました。室内は思いのほか涼しく、快適そのものでした。
その理由は、1階床下エアコンを設定温度22℃で冷房して、冷気を床下に送り込んだうえで、1階床ガラリの上に設置したサーキュレーターを上向きにして、冷気を2階へ持ち上げる工夫をしていたからです。これは、ご主人のアイデアでした。
床下エアコンから出た冷気は、床下→床上→サーキュレーターによって吹抜けに上がり→2階→階段→1階という経路で循環していました。実際に住まわれている施主の体感として「階段から冷気が降りている」とのことでした。
また、冷気の循環だけでなく、夏の必須要素である「日射遮蔽」も、例年通り、しっかりと行っていたことも、室温上昇を抑えた要因でした。
7/10のエアコン故障の原因調査の後、仮対応として、故障している既存エアコンに冷媒ガスを補充。7月26日に新しいエアコンに交換するとまでの16日間は、再び2階の既存エアコンで冷房を継続しました。
床下エアコンでの冷房は、故障した7/8~既存エアコンにガス補充した7/10までの2日間だけ行いました。
エアコンが故障した7/8から、新規エアコンに交換した7/26までは、18日間でした。今回は、不幸中の幸いで、床下エアコンと故障したエアコンで冷房出来ました。しかし、真夏にエアコンが故障すると、どの業界も人手不足なこともあり、18日間程度はエアコンが使えないことも考えられます。エアコン1台のみの設置は、行わないほうが良いと実感しました。
真夏の冷房用エアコン故障時にも“日射遮蔽”が大きな助けになった

当社では、新築時からすべての住宅で「窓の日射遮蔽」を標準仕様としています。夏の強い日差しを遮ることで、冷房効率を大きく高めるためです。
特に効果的なのは、窓の“外側”で日射を遮ること。そのため、外付けロールスクリーンや、ワイヤレスリモコンで操作可能な外付元気電動ブラインドを採用しています。
また、外付けロールスクリーンや、外付け電動ブラインドを、形状やコスト面から付けにくい、小さな縦すべり出し窓などには、室内側にハニカムサーモブラインドを設置し、日射遮蔽と断熱性能を両立しています。これらの日射遮蔽が、今回の夏のエアコン故障時にも、室内環境の安定に寄与しました。
ちなみに当社では、全ての窓の室内側に、ハニカムサーモスクリーンを標準仕様で設置し、冬の窓の断熱性と、夏の日射遮蔽を強化しています。
断熱性と気密性が高い住宅は、窓の日射遮蔽を行い冷房することで、少ないエアコン台数でも、室内の温度管理がしやすいです。エアコン等の住宅設備は、今回のように思わぬ故障をしますが、断熱材は故障しません。
新築や大規模リフォーム時、断熱材を大量に入れて、しっかり気密工事しておくと、コストは掛かりますが、ずっと使えるということで、コスパが良いです。住宅設備は裏切ることがありますが、断熱気密工事は裏切らないという印象です。
床下エアコン冷房時の温湿度と床下の結露リスク


上の写真は、床下エアコンで冷房中の、室内外4箇所の温湿度です。施主が普段から設置している温湿度計を拝見しました。
LDK・外のガレージ・2階カウンター上・床下の4か所の温湿度が表示されています。残念ながら、この写真の撮影時には、床下の温湿度が表示されていませんでした。
床下エアコンで冷房した場合の、床下の結露についてですが、仮に、この時の温湿度を、床下温度22℃(床下エアコン冷房の設定温度)、相対湿度50%(この時の2階の相対湿度)とすると、結露が始まる露点温度は11℃です。
床下エアコンは床置きエアコンであり、エアコンの吹き出し口近くに木材と断熱材は無く、床下で結露していた可能性は少ないと思います。
温湿度計を見ると、LDKの温度26.4℃、相対湿度47%の場合は絶対湿度 11.6 g/m³、2階の温度26.1℃、相対湿度50%の場合は、絶対湿度 11.7 g/m³。両者の差はわずか0.1g/m³程度です。
吹抜けにより、家全体がワンルーム化されていることもあり、1.2階は、ほぼ同等の温湿度と考えて良い状態です。
断熱気密性能が高く、かつキチンと日射遮蔽で来ていると、夏にエアコンが故障した場合でも、バックアップ冷房により、普段の状態に近づけやすいと感じました。
床下は基礎底版全面にも、50mmの断熱材を貼っています。

冷房は命綱。だからこそエアコンは2台以上必要
冬にエアコンが壊れても、電気ストーブ・こたつ・ホットカーペット・電気毛布・湯たんぽ・カイロ・換気に気を使えば灯油ストーブの使用も可能です。
冬のエアコン暖房の代替品はたくさんあります。
また、一定の性能以上の高断熱高気密住宅は、窓からの日射熱を暖房機代わりとしており、かつ一般住宅よりも、室内の熱を放熱しずらい。そのため、断熱性能や立地によって違いはありますが、一般住宅よりも、エアコン暖房に頼らずに暮らしているのが実情です。
しかし、夏の冷房設備は、エアコンしかありません。今回の故障を通して、「冷房=命を守る装置」であることを再認識しました。
だからこそ、1台が壊れても、もう1台でバックアップできるよう、エアコンは2台以上の設置が必要だと実感しました。
故障の経緯と対応、新規エアコンへの交換


7/8、施主から「2階のエアコンが冷えない」と連絡を受けました。風は出るが冷風が出ず、リモコンにもエラーは表示されていませんでした。
7/10、エアコン業者と調査を行った結果、室内機で冷媒ガスの漏れを確認。応急処置としてガスを補充し、既存エアコンを、とりあえず使えるようにしました。
後日、部品交換見積と、新規エアコン交換見積の2種類を提出。施主は、保証が付く新規エアコンへの交換を選択し、7/26、新規エアコンに交換をしました。
交換対象となったのは、日立のRAS-MJ28H。新築から6年での故障は想定よりも早く、保証(本体1年、冷媒回路5年)も切れていたため、心苦しく感じました。
実はこのエアコン、2年前にも室外機の熱交換器からのガス漏れで冷風が出なくなり、その際は保証期間内だった為、無償交換しています。今回の故障は別部位の室内機からのガス漏れでした。

設備の早期故障に備えて、延長保証の検討を
今回の経験から、設備機器の延長保証の重要性も感じました。
一般的な住宅設備機器の保証期間は1~2年。万が一に備え、施主に対して最長10年の保証が付帯する「住宅設備機器延長サービス」の提案も、今後積極的に行う必要があると考えています。

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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