2023-08-04
Q1.0住宅 宇都宮昭和の家(宇都宮市)
インテリア・家具・収納
高断熱・高気密住宅

高断熱住宅を建てると、LDKの収納が少なくなり、室内が片付かなくなるのは本当なのか?

今日のブログは、高断熱住宅と収納の関係について書きます。結論から書くと、高断熱住宅の場合、LDKに収納が少なめになりやすい3つの理由があります。だから高断熱住宅こそ、設計段階で意識して収納や造り付け家具を計画しておくことが大切です。そうしないと、住んでから温熱環境は快適だけど、室内が散らかった家になる可能性があるので注意が必要です。

高断熱住宅を建てると、自然と収納が少なめになってしまうのは本当なのか?

SNS上では、高断熱住宅を建てた施主達が自宅の温熱的快適性を語っています。もちろん、とても快適なのだと思います。しかし私は写真見て違和感を感じていました。違和感の原因は直ぐに分かりました。それはLDK廻りに収納が少ないと思われるお宅が、少なくなかったからです。室内が片付かないお宅が、結構ありそうだと感じていました。

そう感じていたところ。私のところに「超高断熱住宅を建てたので、温熱環境は快適であるが、LDKの収納が少なく、散らかっている!」ので、「見に来てアドバイスを頂けないか?」というメールが来ました。最初はお断りしたのですが、「どうしてもお願いしたい!」と言われて、了承しました。

状況を聞いた上で、LDKの収納を含む数枚の写真と図面を送って頂いてから、それを見て1日かけてレポートを書いて、翌日お宅に伺い、有償でアドバイスをしてきました。新築時の収納の少なさは、リフォームをすれば多少は良くなるかもしれないですが、根本的に解決して住みやすい家にするのは、現実的には難しいと思いました。理由は、間取りや部屋の広さまで変更する必要があるからです。

引渡し後1年程度は、施主も、「冬は室内のどこでも暖かく快適で、夏も涼しく、1年を通じて光熱費も低く抑えられた」という温熱的快適性が、今までの住まいと全く違うために満足し、不満が出にくい。しかし住み始めてから1年以上経つと、生活も落ち着く上に、快適と省エネなのが日常になるので、収納の少なさや使い難さ、間取りの不満が出てくるのだろうと、栃木の明智小五郎は推理していますw。

そのお宅に限ったことではありませんが、LDK廻りが片付かない理由は以下のようなことだと感じました。

高断熱住宅を建てると、収納が少なめになってしまう3つの理由

高断熱住宅は、南窓を冬の日射取得をする暖房窓と考えて大きくするので、LDKの収納は設けにくくなります。

1) 1つ目は、高断熱住宅は、冬場日射取得するための大きな暖房窓を南面に配置することが殆どで、南面は窓だらけになってしまうので、収納を設けにくくなります。かつその窓は、大きな床までの履き出し窓やFIX窓で、幅も広い。そうなると、窓に隣接する東西面の南側にも収納は設けにくい。だから、高断熱住宅のLDKの南面及び隣接する東西壁の一部には、収納や家具が少なめになることが避けられない。

2) 2つ目は予算の問題です。一般的には「高断熱住宅=最低でも付加断熱住宅で、Q値だと1.0前後の住宅」になります。付加断熱の住宅の場合、開口部も含めた断熱気密の建材費と施工手間が一般的な住宅よりも高くなります。外壁の下地を二重に造って断熱材を壁に合計210mm厚さ以上入れたり、天井や屋根に400mm以上の断熱材を吹いたり、入念に隙間を塞ぎ、気密試験を行うのが普通です。そうすると、ザックリですが普通の家を2軒分建てるくらいの手間が掛かります。

だから高断熱住宅にすると、収納や家具等の仕上げ材まで予算が廻りにくい。適切に収納や家具が設置されていないと、室内が片付かない住宅になります。温熱環境が快適な高断熱住宅で、かつ造作収納や造作家具が適切に設置された使いやすい住宅は、それなりの値段の家だと思って間違いありません。

3) 3つ目は、造り手側の特性と予算の複合的理由から、収納や家具の打合せが、「ぼんやりと」としか行われていない可能性があることです。そもそも、個人的な意見として、設計開始前に、設計者が既存のお宅を訪問して、施主の生活と、収納の中身を確認して話をしないと、具体例を見ていないので、収納計画が「しずらく、良く分からない」と思います。

どのくらいの割合の造り手が、設計前に既存住宅を訪問して施主と話し合いをしているのか分かりませんが、少なくとも私は、要望書と持ち込み家具等のリストとその寸法からの情報だけでは、収納計画を含むプランニングができないので、既存住宅の訪問は必須です。

人の生活は新築住宅に住んでもあまり変わらないので、施主が既存住宅で便利に使っている点や、これだけは嫌だと感じている生活面での特徴を知っておくことは、設計する上で重要だと感じています。

また、高断熱住宅を建てる施主の方は断熱気密のことで一杯となり、収納や家具のことまで頭が回っていない可能性がある。もしくは高断熱住宅を建てるだけで、ギリギリな予算の為、収納は最低限で良いと考えているのかもしれない。

対して造り手側は、収納や家具まで打合せをして、それを実際に造るのは、設計及び施工管理で、かなりの手間と予算が掛かるので、そこまで計画してしまうと、完全に予算オーバーとなり、計画自体も無くなってしまうかもしれない。と考えて設計時に、あまり収納や家具の話をしないのかもしれない。うっすらと、「ここに棚!」くらいの「ぼんやりと」した感じで。・・・結果として収納が少なめになる。

もしくは、そもそも、全ての工務店や住宅会社が頻繁に造作収納や造作家具を造っているわけではない。理由はとても手間が掛って面倒だからだ。具体例として、小さな収納1つを造る場合でも、順番としては、施主との打合せ→図面作成→再打合せ→施主の承認→見積→金額確定→材料拾い→材料発注→大工制作→建具建て込み→塗装と「11工程」にもなり、既製品収納のパンフレットを施主に見せて決めて→組み立てるだけの「2工程」と比べると、かなりの違いになる。

特に小さな家の場合は、室内が狭くなるので、収納計画は特に大切になる。小さな家こそ、適切に収納を設けないと、散らかってしまい、うまく暮らせなくなる。小さな家は、収納率?(床面積に対する収納の面積)が多くなりがちなので、特に設計者と現場監督にとっては、数多くの収納や家具を、上記のような11工程で造り管理するのは、大変手間の掛かる作業量になります。工程が増える程、トラブルも増えるので、設計段階で収納や家具を提案するのは、面倒だと考えても不思議ではありませんし、造作収納や造作家具を造った経験がないと上手く出来ない可能性もあります。

上記した3つは、あくまでも宇都宮のコナン君と言われている私の見立てです。

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

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