2021-11-04
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住宅事故から学ぶ、「消費者が新築住宅の依頼時に注意すべき建物の形」

住宅保証機構(株)から送られてくる、まもりすまいメールマガジンは、住宅のプロ向けのメールマガジンである。

「このような外観の住宅は事故が多い」「この材料を使った住宅は注意が必要」「軒の出寸法は300mm以上必要だが、その理由はこれ!」など、「この事故の原因はコレ」という形で、住宅のプロにはもちろん、これから家を建てる人やリフォームを行う人にも、とても参考になる具体例が掲載されている。分かりやすいイラストと表が掲載され、文章も読みやすいのだ。

実は住宅は、主に屋根形状によって雨漏りしやすかったり、傷みやすかったりするので、出来れば避けたほうが良い外観がある。宇都宮市でもよく建てられている、ある屋根形状にした場合は、屋根と外壁はとても傷みやすくなるのだが、「消費者の殆どはそれを知らないで、何となく良さそうだからと家を建てている」。

だから、ネット上に住宅保証機構が出している「これから新築住宅を建てる消費者に向けた、具体的有益情報」が無いかを探したところ、分かりやすくまとまったものがありました。

なぜ事故が起こりやすいカタチなのかという理由も、分かりやすく書かれているので、できればこの外観にはしないほうが良いという裏付けになると思う。

紹介します。

住宅保証機構とは?

新築住宅の建設業者は、供給した住宅に対する保険契約を「瑕疵担保責任保険法人」との間で締結する義務がある。

住宅保証機構は、瑕疵担保責任保険法人の1つなので、住宅の不具合(保険事故)が起きた時に、保険金を支払う立場の会社である。そのため、住宅事故事例の実態をどこよりも把握している会社の1つであり、かつこうすれば不具合は少なくなるという具体例を情報発信している。

住宅の不具合が少なくなるということは、「長持ちする住宅になるということ」と、ほぼ同じ意味である。

以下に添付する資料は、ネット上にあった住宅保証機構が出している、消費者向け資料である。主な内容を取り上げて、私が知っている独自情報をコメントします。

住宅保証機構 

外観が真四角に見える陸屋根(ろくやね)は、切妻屋根の約3倍雨漏りしやすい

陸屋根は雨漏りしやすい
陸屋根が雨漏りしやすい理由

陸屋根では「屋根」の事故リスクが高い。 理由 [陸屋根の一般的特徴] 屋根部の水勾配、パラペットの高さや納まり、排水溝及びドレインの適切な設置と、日常の清掃等が重要である。 こうした不安要素の多い工法であり、かつ、その処置が不十分なために事故リスクが高くなったと考えられる。 [気象要素の影響] 陸屋根において、多雪や強風を伴う降雨時に雨水が滞留し、水処理が十分に行われない場合もあり、そのため に屋根の雨水のリスクが高くなったものと想定される。無落雪屋根では、多量の載雪によるドレイン回りの変形や 沈み等の不具合、凍結融解による屋根の傷み、すが漏れ等の現象により、屋根の雨水浸入のリスクが高くなった ものと考えられる。また、屋根部で発生した事象が壁の雨漏れ事故として顕在化した場合もあると考えられる。

屋根勾配の緩い陸屋根は、雨が降った時に屋根材表面の「水キレ」が悪くなるので、屋根面が湿ったままになる時間が長くなる。そうなると当然屋根材の傷みは早くなる。また、外観が真四角のキューブ(CUBE)型に見える家は、軒の出(外壁面からの屋根の出)が無い、もしくは少ないので、当然外壁に掛かる雨の量も多くなり、壁も傷みやすくなるのは、当然のことだ。

キューブ型の外観の家は、事故が多めになることは勿論だが、外壁や屋根が傷みやすくなり、メンテナンス回数が多めになることからも、出来れば建てないほうが良いことが分かる。 キューブ型の外観の家は、 屋根のラインが見えない外観となり、誰でも簡単にシンプルな外観が造れることから人気がある。

私は格好が良いとは思わないのだが、キューブ型の家は全国展開している、複数の住宅FC(フランチャイズ)の看板商品のようで、それをマネした住宅会社も多く、宇都宮市でもよく見かける外観である。しかし、キューブ型の家を造る時は、上記のように雨漏りとメンテナンスコストの増加に注意が必要である。

意外にも、6~7寸の急勾配の屋根が雨漏りしやすい理由

意外にも勾配の大きな屋根は雨漏りしやすい

勾配の大きな屋根では、軒の出が小さいものが多く、更に軒の実寸に比して軒の出は小さくなる。その結果、雨がかりとなる壁面や軒下の開口面の面積が大きくなる。また、屋根を流れる雨水の速度が速くなり、樋が十分に水を受け切れず軒先や外壁などへの漏れが生じる場合もあると想定される。切妻屋根などで屋根勾配が大きくなると、一般に棟部の高さが上がり、雨がかりとなる壁面(妻壁)が大きくなる。 その場合小屋裏収納や窓が設けられる場合も多いと想定される。また、妻壁に小屋裏換気孔も設けられる。 それらにより壁や外壁開口部の雨水浸入のリスクが高くなったと考えられる。

意外にも、勾配の急な屋根は、壁から雨漏りがしやすいという実態が掲載されている。私も、これには気が付かなかったが、説明文を読むと納得である。以下に内容を整理する。

屋根勾配が急であると、屋根面は水キレが良くなるから、当然、屋根は傷みにくくなる。しかし、切妻屋根などで屋根勾配が大きくなると、一般に棟部(屋根の頂点)の高さが上がり、雨がかりとなる壁面(妻壁:つまかべ・外観で3角形に見える壁)が大きくなり、そこに小屋裏換気口等の開口が設けられると、その壁は屋根が被りにくくなるので、雨が掛かりやすくなり、雨水の侵入リスクが高くなる。

また、勾配の大きな屋根は、外観デザインや敷地との関係や、2階の縦すべり出し窓を開いた時に軒天にぶつかってしまうことなどから、軒の出が小さくなる傾向がある。そこに、急勾配により落下速度を増した屋根からの雨水が落ちてくると、軒樋が雨水を受け止めきれない。すると軒の出は小さめで、軒樋と外壁の距離が近いため、軒樋から溢れた雨水は、定期的に外壁に掛かりやすく外壁は傷みやすくなり、そこから漏水しやすい。

急勾配屋根の住宅では、屋根が雨漏りしやすいのではなく、壁が雨漏りしやすくなるのだ。

できれば天窓は設けないほうが良い理由

天窓が3倍雨漏りしやすい理由

天窓がついている住宅は、屋根からの雨水浸入事故の発生 リスクが高くなっています。 理由 ・勾配屋根の雨水受けとなる天窓周囲の防水施工が不十分 (製造所指定の施工方法を十分に反映していない、天窓の水 上側の排水措置の不備、たる木や下地材の配置の不良など) なためと考えられます。 対応 天窓をつける場合は、メーカの製品としメーカの施工要領書に 従って関連業者に施工させるようにし、現場施工はしないこ ととします。(「まもりすまい保険設計施工基準・同解説)を参 照)

最初に言っておくが、天窓は屋根に穴が開いているのと同じ状態であるから、雨漏りしやすいのは当然である。できれば天窓は設けないほうが無難。

採光が確保できなくて、仕方なく天窓を設ける場合は、以下に注意する。

実際の現場では、天窓本体を取り付けるのは大工の仕事であることが多く、天窓廻りの付属水切りは、屋根材を葺く板金業者の仕事になる。職人に総じて言えることだが、施工要領書を見ずに、今までの経験から施工を行うことが多い。だから、現場監督は天窓の施工時に、絶対に「施工要領書通りに行わせる」ことが重要となる。

天窓の大工と板金業者の施工は、何としても「マニュアル通り」に施工させなければ、雨漏りの原因となることが多いからだ。

また、創業したばかりの専業の設計事務所に依頼する場合も注意が必要。彼らは天窓からの漏水等、自分の懐が痛む、もしくはクレームで時間が取られるような苦い思いをした経験が無いため(もしくは施工者の責任にできるため)、天窓から印象的な採光を取り込みたいという欲求などから、むやみやたらと多数の天窓を設けたい人も居る。だから設計前に「必要の無い場合には、天窓を付けないで欲しい」と要望し、「どうしても設置の必要のある場合は、最小限の個数と大きさにする」ことが重要である。

天窓をマニュアル通りに施工しても雨漏りする場合がある

ただし、マニュアル通りに施工した場合でも、開閉型の天窓の場合は、雨漏りすることがある。春と秋には、天窓を空けて通風させると気持ちの良い風が吹くので、開ける住まい手が多い。天窓を閉めた後で、雨漏りをしたことがあった。

私は屋根に登り、天窓を空けてもらい開閉部のパッキンを水拭き清掃したら、雨漏りはおさまっている。推測だが、天窓を開いた時にゴミや昆虫が開閉部のパッキンに挟まり、隙間となって漏水したのではないかと考えている。ガラス面と網戸の間には、小さなゴミや昆虫の死骸があった。

ただし、ハッキリと漏水原因が分かったのではなく推測だ。天窓は屋根に付いているので、簡単に見に行けない。原因を確認するのがとても難しい箇所に付いていることも、出来れば天窓を付けたくない原因の1つである。

頂側窓(ちょうそくまど)・ドーマー窓は、5倍雨漏りしやすいので注意が必要

頂側窓とドーマー窓
頂側窓とドーマー窓 は5倍雨漏りしやすい

頂側窓とドーマー窓 は、それらが無い屋根と比較して、5倍雨漏りしやすい 。私も何度か頂側窓 の廻りからの漏水に対するリフォームをした経験がある。写真でも分かるように、 頂側窓 には屋根が被りにくくなるから、雨と日射を浴びやすくなり、外壁と窓廻りのシーリング等の劣化が早くなるのだ。

また、頂側窓とドーマー窓 も屋根上の窓なので、簡単に確認できない窓である。それが漏水に気が付くこと、及び対策の「しにくさ」に繋がっている。ただし重力換気が、しやすいという利点のある窓である。

軒ゼロ住宅は辞めたほうが無難!軒の出寸法は、300mm以上が望ましい理由

軒ゼロ住宅とはこれ。

軒の出寸法が、100mm未満では、「屋根」、「壁」、 「外壁開口部」での事故リスクが高い。また、200~ 300mmでは「外壁開口部」での事故リスクが高い。 理由 [雨の当たり方] 軒の出が小さい場合、雨の遮蔽効果が低く、雨がかりとなる壁面の面積が大きくなり、壁や外壁開口部の 事故リスクが高くなったと考えられる。 [雨水の流れ方] 風の影響などで軒裏に雨水が回り込んだ際に、軒の 出が小さいために軒裏と外壁の取り合い部に雨水が 到達することがあると考えられる。

宇都宮市でも多い、軒ゼロ住宅。軒ゼロ住宅でかつ、前述した「陸屋根」になっているものは、外壁だけでなく、屋根材も傷みやすい住宅である。

街中の狭小敷地で建てる住宅は、敷地が極端に狭くなるため、軒ゼロもしくはそれに近い形態になる場合もある。それは物理的に仕方がない。しかし、それ以外では、軒の出寸法は、300mm以上が望ましいということだ。

モルタル外壁は、窯業系サイディング外壁に対して、2.7倍雨漏りしやすい

モルタル外壁はサイディングの2.7倍雨漏りしやすい

モルタル塗りの住宅の場合、外壁、開口部 (窓)からの雨水浸入事故の発生リスクが高く なっています。 ・モルタル塗り外壁の以下のような施工、工法、 経年劣化に関する状況が、事故の発生に関係し ていると考えられます。 [モルタル塗り外壁の下地、防水施工] ・モルタル塗り外壁では、下地ラス施工の不良 (継目部の重ね寸法不足、隅部や建具取り合い 部における補強用ラスの重ね張りの不足など)、 サッシ回りの防水紙の納まり上の問題等の施工 の複雑さや難しさがあり、壁や外壁開口部の雨水浸入のリスクが高くなると考えられます。施 工上の十分な配慮が必要です。 [モルタル塗り外壁の通気措置] ・モルタル塗り外壁では通気措置の講じられていない住宅が多く、外壁から浸入した雨水が排出されずに躯体を傷めたり、雨漏れとして現れることがあると考えられます。また、ラ ス下の防水紙に透湿性のものを使う例があり、 それも漏水や結露の発生原因となっています。 [モルタル塗り外壁の経年劣化] ・経年による寒暖の繰り返しや強い日射などに より、モルタルのひび割れ、目地シーリング の破断や剥離が発生し、壁や外壁開口部の雨 水浸入のリスクが高くなると考えられます。 対策 外壁仕上げ材ではモルタル塗り(湿式)は避け るようにするか、施工に十分注意する。

モルタル外壁は窯業系サイディング外壁に対して、2.7倍程度雨漏りしやすい

モルタル外壁の場合は複雑な形とせず、窓の数を最小限として、軒の出を確保するなど対策して、施工に十分注意する。

窯業系サイディングはおススメしないが、雨漏りはしずらい外壁材である理由

これが窯業系サイてディング。新築の8割程度がこれで建てられている。

新築住宅の外壁材のシェア80%を占める窯業系サイディングは、基本的に初期コストは安めであるが、10~15年程度に1度、繰り返し足場を架けて、シーリングと塗装が必要な、メンテナンスコストは割高にならざるを得ない、塗膜に頼った外壁材である。だからおススメはしない。

ただし、窯業系サイディングは雨漏りしにくい外壁材である。窯業系サイディング自体が「塗装済の板」であり、それを貼って目地をシーリングして完成いうシンプルな造りである。モルタル外壁材のように、現場でラスと言われるモルタルを付着させる金網を外壁全面に貼ったり、現場で粉(モルタル系外壁材)に水を混ぜて練るような、複雑な工程が無く劣化しなければヒビ割れ入りにくいのが、雨漏りしにくい理由の1つ。

だから1次防水としてローコストで効率的に作用するので、シーリングがキチンとしてあれば漏水しずらい。外壁材下の透湿防水シートがキチンと貼られていなくても、窯業系サイディングの1次防水効果で、室内には漏水しないことが多いようだ。

リフォーム工事で窯業系サイディングを剥がした時の透湿防水シート。無数の穴が開いており、防水の効果は無かったが、漏水してはいなかった。

上記の写真は、以前私が窯業系サイディングの全面貼り替えリフォームした時の、窯業系サイディング下地の透湿防水シート。新築時に、透湿防水シートが表裏逆に貼られており、ほぼ全ての透湿防水シートに無数の穴が開いていた。

しかし、外壁面からの漏水は無かった。その理由は、軒が出ていたことと、窯業系サイディング自体が、1次防水として効いていたと考えている。

真四角で軒ゼロな、キューブ型のローコスト住宅が雨漏りしていないのも、窯業系サイディング自体の防水効果が大きいと想像している。だから窯業系サイディングは、築15年程度までは、見た目以外は優秀な外壁材である。

しかし窯業系サイディングは塗膜に頼った外壁材であるから、15年程度ごとに足場を架けて、繰り返しの塗装が必要になる。

万一、リフォーム費用を捻出できない等、周期的な塗装を怠り、雨水が塗膜を破って基材を痛めた場合、その時期には新築時に使った窯業系サイディングは廃盤になっていることが殆どである。窯業系サイディングは新商品がでるのが早く、廃盤になるのも早いからだ。廃盤になると、傷んだ一部分のみの貼り替えが出来ない。基本的に貼り替えの必要の無い部分も全て剥がして、建物全ての外壁材の貼り替えが必要になる。それが上記した状態だ。

初期コストは安めで、初期の防水性能も高めだが、定期的な塗装工事が必要であり、その時期を逃すと一転して、全面貼り替えという、高コストな外壁材になる。

そのことは造り手側は消費者には黙っている。ローコスト新築住宅の仕様が成立しなくなるので、新築住宅を建てられる人が少なくなるし、新築で窯業系サイデングを使わなくなると、定期的な外壁塗装リフォームも発生しなくなるからだ。

外壁塗装リフォームに費用を掛けたくないなら、新築時の外壁材は、メンテナンス回数を少なくできる、この3種類から選ぶべき!

ブログに添付した資料のリンク先はこちら

事例から学ぶ、住宅トラブルとその実態

ちなみに、このブログは消費者の不安を煽っているわけでは無い。上記した形の住宅を造るときは、特に注意深く設計施工する必要があるということだ。

今日のブログに書いたような漏水事故等の確率が高い外観にする場合は、注意が必要であるということであり、注意すべき形態の組み合わせは、より注意が必要である。またその場合、どうしても屋根や外壁は傷みやすくなるから、メンテナンスコストも多めになるのは自然なことだ。

造り手側は、同じような外観の家を、同じような材料で造ることが多いので、消費者は上のリンクを依頼先を選ぶ時の参考にするのが良いと思う。

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

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