2021-04-05
Q1.0住宅小山の家(小山市)

Q1.0住宅 小山の家

栃木県の南部、小山市の住宅街に建つ予定のQ1.0住宅です。総2階に下屋の付いたシンプルな外観の延床面積31坪。老後は1階のみでも生活が出来るプランとなっています。

小さめなQ1.0住宅をおススメする理由

小さく質の高い家を造ることが、将来に渡って施主のメリットになると考えて、小さなQ1.0住宅を設計・施工することを基本にしています。小さな家は掃除が楽で、外装面積も小さくなるので将来のリフォーム費用も安く、冷暖房の効きも良い。特にQ1.0住宅のような超高断熱住宅は、家全体の温度差が無くなるため、どこも寒くないし暑くもないので、自然に各部屋の稼働率が増して広く使えます。

極端な話、冬でも廊下や納戸でも寝られるため、部屋の用途を兼ねやすく、小さな家でも大きく暮らせます。もちろん、室内のどこでも暖かいので身体が楽。暖かさの恩恵は高齢になるほど有難味が増します。この住宅でも床下エアコンと壁掛けエアコンの1台ずつで、全館冷暖房し快適な室内を実現します。これからは、身の丈にあった30坪以下くらいの小さめなQ1.0住宅で豊かに暮らすことを目指す時代だと思います。

Q1.0住宅の外観と配置

敷地南側は17m程度道路に接していますが、そのうちの10m以上が道路対面の2階建てアパートに被っており、敷地の日射取得に影響を与えています。日当たりソフトを使うことで、建物の配置と平面プラン及び窓の位置を決めて、なるべく日射取得できるようにしました。

軒の出た外観で、日本的な普遍性が外観から伝わるようにしています。胴長な外観に、軒の出の少ない片流れ屋根を載せた高断熱住宅の類型を設計するのではなく、飽きの来ない普遍性を感じさせる外観にすることも大切にしています。

感情を呼び起こす独特の雰囲気のことを「情緒」と言います。私はおっさんになったせいか、「日本的情緒のようなもの」に魅力を感じるようになりました。ですから高性能住宅にするだけでなく、日本的情緒を感じさせる外観にすることと、シンプルで長く使えるインテリアにすることも重要だと思っています。私と同じように「日本的情緒のようなもの」に魅力を感じる 方もいらっしゃるのではないでしょうか?

また当社では、軒ゼロ等と呼ばれている、軒の出の無い外観や、軒の出の少ない外観は基本的には造らないようにしています。理由は外壁の劣化と漏水の恐れが高くなるからです。他社で建てた住まいも含めて、リフォーム工事を請け負っているので分かるのですが、軒の出が少ないと、長年外壁に雨が掛かりやすく、そうなると当然外壁は傷みやすい。結果として外装リフォームの頻度は多くなりがちです。

軒の出の無い住宅は漏水もしやすくなるので、新築時に外装下地の設計と施工管理もより綿密に行う必要がある。当社で軒の出の少ない住宅を設計するのは、極端に敷地が狭く、軒が出せない場合のみです。

小さめな家には用途を兼用できる造作家具と建具が不可欠

小さな家で快適に暮らすには、コツが要ります。室内も狭くなるので、造作家具と建具にして、1つの収納に用途を兼ねて小さな家でもコックピット感覚で使い易くするのも、片付きやすくするコツだと考えています。例えば玄関収納は靴だけでなく、コートと傘も収納できると玄関が片付きやすいので、そんな収納を定番としています。逆に、玄関に年中、傘や大量の靴が出ていると、室内が片付いているようには見えず、狭く感じてしまいます。

小さな家では人と家具や建具までの距離が近くなるので、その印象も強くなる。だから、ホームセンターで売っているカラーボックスと同じ造りの、既製品の木目プリント建材は使わないようにしています。カラーボックス建材を使わない理由は、意匠性だけでなく、耐久性と持続性の面でも劣るから。簡単に説明すると、そうした建材は廃盤になると、部品交換できなくなるので、修理が難しい。 具体的には木目プリントは経年すると不格好に変色することがある上に、剥がれてしまうことがあり修理できない。また、可能性としては低いが床上浸水した場合、MDF基材の新建材は膨れて変形してしまい、ほぼ使えなくなるようだ。

逆に造作家具や建具は、修理が効いて長く使えるので、新築時やリフォーム時に値段が高くても、長い目でみるとお得である。台風19号で床上浸水の被害にあった施主宅及び当社の造作建具は基材が無垢材の為か、未だ問題なく使われている。家具と建具の材料を同一にしたりしてなるべく統一感を出して、違和感を無くすことも重要だと考えている。

そのためには、施主の収納面の現況と要望を整理し、飽きが来ないようにシンプルに設計する必要がある。収納の要である、造作家具と建具は、そのままインテリアになるので暮らしの中での印象が大きい。家具と建具はいつも目にして触れるので、造り手と住まい手の意匠面での相性が一番出る部分です。

小さな家でも収納が適切なら、コックピットのような使い易い家にすることも可能です。今回も、要望書に持ち込み家具とその寸法を書いて頂いてから、現在のお宅を訪問させて頂き、現況と要望を整理して、「収納多め」な「片付く室内」を目指しています。

家を建てる時は、様々な会社を検討すると思うが、意中の会社が建てる住宅に魅力を感じたら、よく室内を見てみよう。収納が少なめだと暮らしにくいし、一部に既製品のドアや家具を使っていると、統一感が無くなり室内がチグハグな印象になる。スペック上の仕様と値段だけに頭の中が占領されてしまうと、収納の数と内部の棚の使い勝手まで頭が回らない人が多い。収納について「実際に暮らしてどうなのか?」と想像することが必要だ。

当社のインテリアは、施主から「無骨だね(半分誉め言葉だと受け取っている)」と言われることもあるのですが、「格好を付けない使い易さ」という機能美を念頭に、シンプルに造っています。共感して頂けたら幸いです。

小さな家に乾太くんを設置する場合の設置台と天井高さ

今回、ガス衣類乾燥機として評判の良い 乾太くん を使う予定。小さな家で乾太くんを使う場合は、室内が狭めになることから、洗濯機の上に乾太くんを設置する場合が多くなると思う。

その場合、乾太くんの専用設置台を購入するか、設置台を造作するかであるが、洗面化粧台との隙間が40㎝程度取れれば、そこが衣類を折りたたむスペースとして使えるので、洗面化粧台と一体の造作で乾太くんの設置台を造ると、使い易いことが分かった。

どちらにしても、天井高さは2400mmの場合、洗濯パンは高さ60mm程度のモノしか使えない。洗濯パンの排水溝を、洗濯機を移動しなくても掃除できるという理由で、最近使うことが多い、高さ120mm程度の「嵩上げタイプの洗濯パン」を使う場合は、天井高さ2400mm以上の高さが必要だ。

小さな家で引き戸を多用する理由

小さな家では特に引き戸を多用する。 その理由は、引き戸を開けておくと、部屋同士が繋がり、開き戸のように扉が邪魔にならないからだ。小さな家でも部屋同士が繋がっているように感じると、室内は広く感じる。この住宅は、1.2階共に全く廊下が無いプランであり、「引き戸」が、部屋から部屋へと、空間が連続展開するためのアイテムになっている。

今回も収納扉を除くと、開き戸は子供部屋の入口のみである。ただし、引き戸が多いとスイッチやコンセントが遠くなる場合が多いのがデメリットだ。

しかし、部屋同士が効果的に繋がるメリットの方が大きいので引き戸を多用する。引き戸は開き戸に比べて、建具枠の長さが倍になるので、当然値段は高くなる。値段が安めの住宅は引き戸を極力減らしているのはもちろん、収納の数も減らしているのが特徴だ。そうなると部屋同士が繋がりにくく、室内が片付けにくい。収納の数と使い勝手は住宅の造り手でさえ、意識してよく室内を観察しないと分からない点である。

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

この記事をシェアする
コメント