2018-12-07
住宅探訪

「永田先生を偲ぶ~ゆるがないデザインを学ぶ~」住宅巡礼バスツアーが素晴らしすぎた

12/4と12/5は長野県と山梨県に赴き、4人の有名建築家が建てた5軒の住宅を巡る、住宅巡礼バスツアーに参加してきました。

このツアーは、5年前にお亡くなりになった永田昌民(ながたまさひと)さんを偲んで企画・開催され、永田さん、横内敏人(よこうちとしひと)さん、伊礼智(いれいさとし)さん、堀部安嗣(ほりべやすし)さんの設計した住宅を見学し、ゆるがないデザインを学ぶというもの。

住宅の見学だけではなく、建築家のレクチャーも付き、かつ一緒にお酒も飲めるという有難いツアーでした。4人の共通点は、東京芸術大学の出身、もしくは出身者のお弟子さんであることです。

勿論、永田さんのこの本は持っています。

 

今回の住宅巡礼バスツアーの特に素晴らしいと感じたのは次の3点
  1. 小さくして鞄に入れて持ち帰りたくなるような、普遍性の高い珠玉の住宅ばかりを見学でき、各建築家の作風を垣間見ることが出来た。一般の人が暮らす住宅は、普通は見学することはできないので大変貴重な経験。
  2. 懇親会で横内敏人さん と話しができて、お書きになった文章の感想が伝えられて、かつ貴重な話を聞けたこと。バスの中や懇親会、ホテルの部屋で建築な好きな同業者の方とお話しできたこと。
  3. ツアー企画運営者の素晴らしすぎる仕切りとリーズナブルな参加費。全国各地の240名の設計者、施工者が集まり、バス5台で2日かけて5軒の住宅を見学したが、見学及びパネルディスカッション、懇親会及び2次回の運営が非常にスムーズで全くストレスを感じなかった。

これも企画・運営者であり全ての住宅を施工した小澤建築工房さん、会を運営して頂いた協同組合もくよう連さん 環境創機株式会社さん の「段取りと仕切り」のお陰。これだけの住宅が見学出来て、宿泊費と食費、懇親会費も込みで3万円。私も新住協の関東支部という組織で事務局という裏方をやっているが、研修会準備は30人程度の参加者でも時間が掛るので、普段の仕事と一緒にやるのは大変なのです。240名で2日間に渡るイベントは、多数のスタッフで分担しても、事前準備等が大変だったと思います。申し込みしてからの、当日までの案内も、とても分かり易かったです。

 

2日間で見学した珠玉の住宅5軒とタイムスケジュール

■12/4(火)

集合11:00 ロイヤルホテル八ヶ岳 (朝7時に家を出て高速を乗り継いで3時間半で到着)

11:00~17:00 建物見学2軒

甲斐大泉の家:設計 堀部安嗣 

安曇野の家 : 設計 永田昌民

17:30 ~ 19:00 ディスカッション 『永田先生を偲ぶ』

益子義弘さん、横内敏人さん、伊礼智さん、堀部安嗣さん 、司会:秋山東一(あきやまとういち)さんによるパネルディスカッション。秋山さんの司会が大らかで面白かったですw。

19:15 ~ 21:15 懇親会

21:15~23:30 懇親会場の隣で缶ビール2次回

23:30 大浴場でお風呂

24:00 就寝

 

■12/5(水)

9:00 ~ 11:00 伊礼さん、堀部さん、横内さんによる講演

11:00 ~ 15:00 建物見学 3軒

北杜(ほくと)の家

北杜の家:設計 堀部安嗣

甲府の家:設計 伊礼智

八ヶ岳の家:設計 横内敏人

15:00 ロイヤルホテル八ヶ岳解散

18:30 高速で帰宅

 

日本の住宅デザインの2大源流、住宅設計における「ホワイト」と「ブラウン」

木のブラウンが目立つ外観

配布された資料にあった横内敏人さんが書いた「地域主義の家」と「ミニマルな家」を、「ブラウン」と「ホワイト」として対比させた文章が、現在の日本の住宅デザインの2大源流を、分かり易く区分しているので引用します。

「(地域主義の)建築は地域の気候風土や歴史、文化によってさまざまな特徴的な形を持つべきだという考え方である。それは今日の日本の住宅建築においては木造の伝統の継承、環境への配慮と適応、自然素材への傾倒などの考えに繋がっていて、当然ながらその建築の姿はある種の保守的な雰囲気を持つものとなる。

 

一方でミニマリズムとは、近代主義の美学の根幹である無装飾・単純化、抽象化といった概念を極端に先鋭化させたもの。彼らは環境的配慮にはあまり興味を示さず、ひたすら建築的美学を追求するために、(地域に関係なく)どこでも庇のない箱型の建築を造ってはなんでも白く塗ってしまうのが特徴なので私は彼らを「ホワイト」と呼ぶことにしている。それに対して前述した地域主義の一派は、その土着的な印象から「ブラウン」と呼んでいる。

 

このミニマリズムと地域主義、つまりホワイトとブラウンは、あらゆる面で対立的である。つまり前衛に対する後衛、アートに対するクラフト、抽象に対する具象、観念重視に対する経験重視、グローバリズムに対するローカリズム、近代の科学技術への信奉に対する自然への畏敬などである。そしてこの2つの考え方の違いやそれに伴う建築的表現の違いは、90年代以後今日に至るまでの間に特に住宅建築のジャンルにおいては、きわめて明確になりつつあるように思う」

素人の方がこの文章を読むと、少し分かりにくいかもしれないので私なりに解説してみる。

「地域主義の家」は、分かり易く言うと、勾配の付いた軒の出た屋根を持つ、雨に対して屋根を傘として対応している住宅。かつ外壁や内装で木材等の自然素材が表に出た手作り感のある住宅。これがブラウン。

「ミニマルな家」とは、抽象性と新規性の高い、例えば四角い白い箱のような住宅である。「ミニマルな家」は、今までに無い何らかの新しさが最重要視される住宅で、劣化対策やメンテナンスの「しやすさ」よりも、抽象化と今までにない形態が価値とされる。外壁が雨に濡れようが屋根の庇は出さないのが基本。庇を出す場合も記号のように抽象化される。これがホワイト。

ミニマルな家である「ホワイト」を志向する設計者は、だいたい50歳くらいまでに淘汰されて、ほんの一握りしか生き残れないという現実がある。何故なら新規性の高い、他に無い住宅が欲しい施主は、若くて生きの良い設計者に依頼しがちになるからだ。歳を経てホワイトで生き残るには若いうちにスターになるしか道がない。今更ブラウンには戻れないのだ。

一方「ブラウン」を志向する設計者は地味な後衛だが、一番の特徴が自然の摂理、例えば雨や劣化に逆らわない普遍性で、自然素材の経年変化も味(あじ)として味方にできる。日本の原風景でもある普遍性と自然素材の好きな施主候補は、日本全国にたくさん居ることもあり、設計を勉強していけば年齢を重ねると共に良くなると考える。

現在建築されている日本の住宅は、大きく分けてこの「ホワイト」か「ブラウン」のどちらかの範囲に属している。

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

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