【読書感想文】新米建築士の教科書は「住宅設計者として食っていくための具体的方法」が書いてある本
大きな本屋には「建築士になるための本」や「建築設計事務所を運営する本」が5~6冊並んでいる。
それらと比較して、この「新米建築士の教科書」の特徴は、仕事で使える内容が非常に具体的に書いてあることだ。
建築士としての日々の作業の方法や解決策が、カラーの写真とスケッチで分かり易く描かれていることはもちろん、顧客への説明に使える文章も多い。
情緒論は一切なく、最後まで具体的。
実際に「建築士として独立し食っていく」為には、情緒論でなく具体的方法が知りたい。新米建築士の教科書は、具体的方法が分かり易く書かれているから、建築設計事務所として独立する人はもちろん、工務店の経営者や設計者にも非常に参考になる。
オーガニックスタジオ新潟の相模さんのブログのブックレビューを参考にこの本を買った。相模さんと被らないように、特に印象に残った点を3つだけ箇条書きにしてみる。
「過去事例の収集」で知識を磨く P12
優れた建築家は、過去事例を引用して整理し設計することが上手いということが書かれている。優れた建築家は過去事例マニアだ。
思っていたことが明快な文章で書かれているので、霧の晴れた思い。
建築設計の分野では、デザイナーには不可欠な「美的センス」さえ、「知識」でカバーできるからです。
優れた過去の建築の実例から解決策を引き出し、自分なりに応用することができれば、「天性のセンス」がなくても一向に困りません。
明らかにセンスの問題と思われている。プロポーション感覚や色彩感覚でさえ、過去事例の知識で補えるものなのです。
設計事務所で一番重要となるのは知識の蓄積です。名だたる建築家は間違いなく建築マニアだと言ってよいでしょう。
とあり、建築家 安藤忠雄さんが過去事例をしっかり研究した上で設計していることが書かれている。情報のまとめ方もエバーノートで行うとか、具体的。
間取りの前に外観を決めるP136と開口部は「風孔」でなく「間戸」でつくるP140
一般的な工務店やハウスメーカーの設計手法や窓のデザインだと、格好の悪い外観になってしまうということが書かれている。
工務店やハウスメーカーの設計手順は、「間取り→窓→屋根→構造」だが、理想的な設計手順は「外観→空間→骨組み→間取り」
設計事務所と工務店・ハウスメーカーを比較した時に最も差が出るのが窓です。
間取りを決めてから窓を決めるというのが、工務店・ハウスメーカーの設計法だと思いますが、機能的な要求を満たした上で整った外観を作ろうと思うなら、間取りに先立って窓を考えるようにすべきだと思います。
専業の設計事務所の建築士でも、格好よく整理された窓に出来ている人は少ないから、窓のデザインを含む格好の良い外観が造れて、かつ他人に無い愛すべき個性を持つのが「建築家」の最低条件なのだろう。
第一印象は「色と素材」で8割決まるP160
家具と建具は必ず造れ(P160)は、ハウスメーカーが造っている量産型住宅に対する、工務店・設計事務所の手造り住宅の違いや優位性が分かり易く書かれている。たとえばこうだ。
「洋服」であればブランド品の偽物を好んで着る人はいないと思いますが、なぜか数万倍高価な「住宅」だと、タイル風サイディング、木目シート張りの建具、合板フローリングといった偽物が幅を利かせているわけです。
と、新建材という偽物建材で造られているハウスメーカー住宅の魅力の無さが、分かり易く書かれている。また、無垢材や造作建具を使っている工務店でも、色には無頓着だとして具体的記述があり勉強になった。
工務店は、内装の色で失敗することが嫌なので、木部は全部クリアオイルを塗りがちだ。色の付け方の参考になったのがP164。
ナチュラル系が好きということなら、木枠、木建具、家具はクリアオイル仕上げとし、柱梁は、白系の拭き取り塗装とするのが良いでしょう。
ハウスメーカーと差別化するため、柱梁だけあらわしとしたデザインを採用する工務店がよくありますが、特一等程度の節のある構造体をクリアオイル仕上げとしてしまうと、野趣あふれる表現になりやすいので注意してください。
全てクリアオイルにしてしまうと、ダサくなることもあるということだ。
黒髪理論。アクセントとして黒っぽい要素を置くとしまります。私たち日本人は黒い髪が特徴なので、黒っぽい色が入ると目に馴染むからかもしれません。
このように、分かり易く「建築士として食ってくための具体的方法」が書かれているのでおススメしたい。
「間取りの方程式」も、特に30坪程度の都市型住宅の間取りや意匠を考えるには非常に参考になるので、プランするときは必ず目を通す本だ。
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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