Q1.0住宅 小山の家
新しい日本的普遍性が伝わる29.6坪の家
コンセプト
敷地は、栃木県小山市の静かな住宅地にあります。南側道路で敷地は17m程度道路に接していますが、そのうちの10m以上が道路対面の2階建てアパートと被っており、敷地の日射取得に影響を与えています。
そのため、建物の配置・平面プラン・吹き抜け窓の位置を検討して、建物を東西に長くすることで、なるべく長時間、日射取得できるようにしました。
アプローチ導線は、隣接するご実家の導線と反対にして、適度な距離感を保つように計画。
冬は日射を最大限取得した上で、床下エアコン1台のみで暖かく、夏は外付電動ブラインドと外付シェードで日射遮蔽をして、2階ホールの壁掛けエアコン1台のみで涼しい室内になります。
いつものように、適切に収納が確保された小さめな家になりました。
この住宅から、火災の被害が抑えられる可能性が高く、火災保険料と地震保険料が大幅に安くなる「省令準耐火」を標準仕様にしています。
外観
できれば杉板外壁材を使いたい、洗濯物を外で干したいという要望があり、外観に反映されました。
室内→デッキ→庭と繋いだ空間の上に、軒(のき)が被ることで、建物に陰影が出来ます。地元八溝産の杉板外壁材に表れる陰影は、時間と共に変化し、地域性を反映しながら、家と庭が違和感なく一体になる要素の1つになっています。
1階南の軒を等間隔に柱が支え、ウッドデッキの軒下空間を造ることで、雨に濡れにくい物干し場としました。
初期プランは総二階で、1階に個室は無かったのですが、仕事などに使いたいということで、下屋としてプラスされ、より落ち着いた雰囲気の外観になりました。
当社では、窯業系サイディングの胴長な外観に、軒の出の少ない片流れ屋根を載せた、安っぽい高断熱住宅の類型を設計するのではなく、飽きの来ない普遍的外観にすることを大切にしています。
また外壁材を長持ちさせたいので、軒を出して、できるだけ外壁に雨が当たらない外観にしています。
内観
プランと収納計画は、いつものように以下の5つを行いました。
1.引き戸を多用して部屋同士を繋げ、空間を連続させて、小さな家でも広がりを造る。
2.複数の用途を兼用する造作家具と、収納を適切に設けて片付く室内を目指すこと。
3.吹抜けを設けて、1階床と2階天井まで視線が届くようにして、視覚的広がりを造る。
4.天井には極力照明を付けないことで、広く感じて交換も楽。
5.冷気と暖気が行き来する、大きなダクトの用途も兼ねる吹抜けを造る。
小さめな家で快適に暮らすには、収納計画のコツが要ります。人の生活は新築後も大きく変わらないことが多く、既存の生活には工夫があります。そのため、設計契約後に要望書を書いて頂いて、新築前の住まいに訪問します。住まい方や収納の使い方を見て対話し、新築後、必要十分な収納計画をして、片付く室内を実現するお手伝いを致します。
造作家具と建具の室内に占める面積は大きく、そのままインテリアになるので、暮らしの中での印象が大きい。かつ家具と建具は、いつも見て触る存在なので、造り手と住まい手の「機能と意匠の相性」が一番出る部分です。特に小さな家は、人と内装の距離が近くなるので、印象も強くなります。小さな家でも収納が適切なら、コックピットのようにコンパクトで使い易い家にすることも可能。
内外部共に、既製品の仕上げ建材は極力使っていないため、廃盤になる可能性が低く、修理が効いて長く使えることが多いです。既製品の新建材を極力排除して、使い勝手の良い室内にすることは、内外装リフォーム工事の回数を減らすことに繋がります。
冬の温湿度データと考察
冬の寒い1日の温湿度データの考察です。
施主のKさんに、2023年11月3日から2024年2月11日までの、冬の101日間の温湿度データを頂きました。
101日間のうち、比較的外気温の低かった2023年12月25日の温湿度データを採用して、各部屋の温湿度の変化をグラフにしました。
外気温の変化と共に、室温や湿度が変化するのが分かると思います。
外気温は、当日の小山市のアメダスデータを用いました。
時間は、12/25の深夜12時から翌日までの1日間です。
室内の計測箇所は、1階がキッチンとリビングの2か所、2階はホールと寝室の2か所の合計4か所。
結論を先に書くと、各所の室温は20度を下回らない、暖かい室内になっています。しかし、室温が上がりすぎてしまった特徴的な部屋もあります。
■2023年12月25日の床下エアコンの稼働状況について
施主に「2023年12月25日は終日、床下エアコンは付けていましたか?付けていたら何度設定でしたか?」と尋ねたところ、以下の回答を頂きました。
終日、床下エアコンは付けていないと思います。温度設定は26度(運転ボタンを押してみたら26度だったため)
以下は推測です。
(床下エアコンの稼働状態については)前後5日間のデータを見ると、朝5時から室温が上昇し始めているので、タイマーを設定して朝5時から動かしていたと思います。
どのタイミングでエアコンを切っているかは、覚えていませんが、大体14~15時が室温のピーク(24~25度位)で、そこから翌朝の5時までは、室温は(ゆっくりと)さがり続けています。
グラフを見る限り、夜間に室温が上昇していることは、あまりないので、夜間に(床下)エアコンを付けていなかったと推測できます。ちなみに20度を切ったのは、(前後5日間で)1回、19.9度。
とのことでした。
■外気温データ
12月25日の外気温データは小山市のアメダスデータを引用しました。外気温データも取って頂いたのですが、計測データがおかしかったので、アメダスデータを使いました。
外気温は各グラフの水色ラインで、深夜1時に-1.8度。その後下がり続けて、朝8時までは零下になっています。その後は、日照時間と共に、上昇しているのが分かります。
アメダスデータによると、この日の小山市は晴れ。当日の外気温は、それ以降は少しずつ上がり、午後1時40分には11.9度と、その日の最高気温となり、以降は徐々に下がっています。
上記表で赤で囲った日照時間も見てください。9時から16時までの各時間帯、直射日光が地表を照らしていることが分かります。
■1階キッチン室温
室温は各グラフの上から2段目のオレンジライン。常に20度以上に保たれているのが分かります。
具体的な室温の変化は、深夜1時には21.9度、最も外気温の下がった早朝6時には21.4度と、深夜から朝まで、キッチンの室温は、ほぼ変わっていません。
それ以降は、外気温が上がると共に室温も上がり、朝8時40分には22度、お昼前の11時半には23度、午後1時には24度、一番室温が高くなったのは、午後2時半の24.8度。それ以降は、少しずつ下がって、午後8時に23.4度、翌日は22.4度です。
終日、暖かいキッチンになっているのが分かります。計測器の設置場所はキッチン背面家具の上部にマグネット付け。計測器の設置高さは各箇所約1M。
■キッチンの相対湿度
相対湿度とは、空気の水蒸気含有量を表す尺度で、空気が持てる最大水蒸気量に対する現在の水蒸気量の割合をパーセントで表したもの。一般的に単に湿度というときは「相対湿度」のことを指し、天気予報などで聞かれる湿度50%は、相対湿度です。空気は温度によって含む水蒸気の量が変わるので、同じ相対湿度でも、実際の水分量は気温によって変わります。
相対湿度は各グラフの一番上、灰色です。キッチンの相対湿度は52%~43%になっています。冬は暖房するため屋外と屋内の温度差が大きく、室温が上がるほど湿度は下がります。
■キッチンの絶対湿度
絶対湿度とは、縦横高さ1メートルの空間に含まれる水蒸気の重さが何グラムかを示しています。つまり、絶対湿度は空気中に含まれる水蒸気の自体の量を表しています。絶対湿度は、夏でも冬でも11 g/㎡前後を目指すと快適に過ごせると言われています。
絶対湿度は各グラフの緑色です。
キッチンの絶対湿度は、10 g/㎡前後になっているのが分かります。一番高いのが、午前10時半くらいの11.65g/㎡、低いのが、午前3時くらいの8.98 g/㎡
■1階リビング室温
リビングは家の中で滞在時間の長い部屋です。室温のオレンジラインを見てください。リビングも、常に20度以上に保たれているのが分かります。
具体的な室温の変化は、深夜1時には22.4度、最も外気温の下がった早朝6時には22度と、深夜から朝まで、リビングの気温は、ほぼ変わっていません。
それ以降は、外気温が上がると共に、室温も上がり、朝8時40分には22.9度、お昼前の11時半には24.1度、午後1時には25.2度、一番室温が高くなったのは、午後3時半の25.4度。それ以降は、少しずつ下がって、午後8時に23.7度、翌日は22.8度です。終日、暖かいリビングになっているのが分かります。
計測器の設置場所は、ニッチ脇本棚の上から3段目
■1階リビングの相対湿度
キッチンの相対湿度と、54%~43%。キッチンとあまり変わりません。
■1階リビングの絶対湿度
10 g/㎡前後、キッチンの絶対湿度と、あまり変わりません。
■2階ホール室温
吹抜けに面した2階ホールの室温の変化は特徴的です。終日20度を超えていますが、午後3時半くらいからの40分間程度、一時的に30度を超えてしまっている時間帯があります。
暖かい空気は上昇するので、冬場も2階は1階よりも室温が高めになる時間帯があります。
具体的な室温の変化は、深夜1時には21.9度、最も外気温の下がった早朝6時には21.5度と、深夜から朝まで、2階ホールの気温は、ほぼ変わっていません。
それ以降は外気温が上がると共に、室温も上がり、朝8時40分には21.8度、お昼前の11時半には23.6度、午後1時には25.8度。午後2時は26.9度、午後3時は27.6度。
3時22分に30.1度と、初めて30度を超えて、一番室温が高くなったのは、午後3時40分の31.9度。午後4時3分に30.1度なっています。この日は、40分間程度、30度を超える時間帯がありました。
それ以降は、少しずつ下がって、午後8時に24.2度、翌日は23.1度です。
この吹抜けに面した2階ホールの室温変化の特徴は、午後外気温が上がると共に、吹抜けが煙突のようになって、暖かい空気が上昇する煙突効果で、室温が30度を超えたのだと思います。
2階ホールは、午後3時から4時の1時間くらいは、暑すぎて窓を開けるような状態になっていたと思われます。冬のオーバーヒートと言える状態です。
冬の室温を上げないようにするには、夏と同じように、南面の大きな窓を日射遮蔽することが効果的だと思います。具体的には、お昼前後くらいから、吹抜けに面した1階の外付ロールスクリーンと2階の外付電動ブラインドを降ろすことで日射遮蔽をすれば、30度を超えるようなことにはならなかったと思われます。各窓には日射遮蔽設備は設置してあるので、施主に提案して、日射遮蔽をやってもらおうと思います。
計測器の設置場所は、ホール本棚の一番上
■2階ホールの相対湿度
午後3時半くらいに、37%まで下がっています。室温が30度を超えたことが原因です。
■2階ホールの絶対湿度
空気中の水蒸気量が一定の条件(絶対湿度が一定の時)では、室温を上げると相対湿度は低下し、逆に室温を下げると相対湿度は上昇する反比例の関係にあります。
たとえば、温度5℃、湿度50%の空気を、加湿なしで温度を20℃まで上げると、相対湿度は低下するということです。
■2階寝室
寝室は2階ホールに面して、2階の西側に位置します。寝室は、睡眠を取るため、リビング以上に滞在時間が長い部屋なので室温は重要です。
この部屋も終日20度を超えていますが、吹抜けに面した2階ホールの影響を受けて、午後の3時から5時は1階よりも室温が高くなっています。
具体的な室温の変化は、深夜1時には22度、最も外気温の下がった早朝6時には21.1度と、深夜から朝まで、2階寝室の温度は、ほぼ変わっていません。
それ以降は、外気温が上がると共に、室温も少し上がり、午前10時30分には22度、お昼前の11時半には23.2度、午後1時には25.2度、一番室温が高くなったのは、午後3時半の27.6度。午後4時43分まで27度台が続いて、それ以降は、少しずつ下がって、午後8時に24.5度、翌日は23.8度です。
計測器の設置場所は、壁掛けテレビの金具にマグネット付け
■2階寝室の相対湿度
2階寝室の相対湿度は、58%~47%。
■2階寝室の絶対湿度
2階寝室の絶対湿度は、10 g/㎡前後から12 g/㎡くらいになっているのが分かります。一番高いのが、午後2時くらいの12.59g/㎡、低いのが、午前6時くらいの10.5g/㎡
■まとめ
冬、とても暖かい室内が実現できている。
ただし、2階ホールの室温は一時間弱とは言え、30度を超える、冬のオーバーヒート状態になっていた。1か所のみ、かつ1時間弱の時間であるが、これは冬でも暑すぎる。
この家の場合、冬のオーバーヒートになってしまった場合は、1階南面の吹抜けに面した大きな引き違い窓と、階段の窓を開ければ、重力換気での通風となり、風が通りやすく室温は下がりやすいはずである。
冬のオーバーヒートをさせたくない場合は、あらかじめお昼前くらいから、南面の吹抜けに面した、大きな1.2階窓の外側で、夏と同じように日射遮蔽するのが良いと思う。
当社が造る家は、Q1.0住宅レベル3程度と断熱性能が高い上に、気密試験も実施して高断熱高気密を実証。その上で、新築時に窓の日射遮蔽装置も、ほぼ完璧に設置している。だから、日射による室温上昇の制御は、普通の家よりも、冬も夏も格段に「しやすい」はずである。
施主に光熱費と夏の温湿度データも頂けるように、お願いしているところです。
年間光熱費を大公開
お客様にご協力頂き、小山市で建てたQ1.0住宅小山の家の、年間光熱費を公開致します。
冷暖房は、家全体で、暖房用の床下エアコン1台と、ほぼ冷房用の壁掛けエアコン1台の合計2台のみ。
上記の表は、買電(消費電力)、売電(太陽光)、買電と売電の収支を表にしたものです。
一番右側のグリーンの累計を見て頂くと、2023年1月~2024年7月の19か月間は、売電(太陽光)が買電(消費電力)を32,159円上回っており、電気代の収支はプラスになっています。
2023年1月~3月は、買電(消費電力)金額が大きく、文字どおり赤字になっていますが、これは、引き渡し後の最初の冬だったので、床下の基礎コンクリートが乾いていないことから、3か月間床下エアコンを連続運転してもらったからです。
2024年1月~3月も、冬のエアコン暖房により、買電(消費電力)が、売電(太陽光)を上回っていますが、2024年の冬は引き渡し後2年目で、床下の基礎コンクリートは、より乾燥が進んでおり、床下エアコンを連続運転していないので、収支は大きく改善して、電気代が掛からなくなっています。今後の冬のエアコンの使い方は、2024年と同じようになると思いますので、電気代が掛かりにくい家だと言えます。
下は、表の売電と買電を棒グラフにして、分かりやすくしたものです。
Q1.0住宅 小山の家
新しい日本的普遍性が伝わる29.6坪の家
- 仕様
- 長期優良住宅 ・耐震等級3許容応力度計算・省令準耐火
- 熱損失係数Q値
- 0.97W/㎡・K
- 外皮平均熱貫流率UA値
- 0.34 W/㎡・K
- 暖房負荷
- 13.3kWh/㎡
- 冷房負荷
- 14.6kWh/㎡
- 隙間相当面積C値
- 0.5 cm2/m2(合板気密工法)
- 冷暖房
- 床下エアコン1台、吹き抜けエアコン1台
- 給湯設備
- エコキュート
- 所在地
- 栃木県小山市
- 用途・構造
- 専用住宅 木造軸組構法2階建て
- 設計施工
- (有)ヨシダクラフト/ 設計協力: ゆいの杜設計
- 敷地面積
- 234.70㎡(71坪)
- 延床面積
- 97.71㎡(29.6坪)
- 施工床面積
- 104.33㎡(31.56坪) 吹抜けと玄関ポーチ算入
- 制震装置
- evoltz(エヴォルツ)制震ダンパー
- 屋根・太陽光
- ガルバリウム鋼板立ハゼ葺き・太陽光6.6キロ
- 外壁
- 杉板厚さ18押縁仕上げ無塗装
- 室内壁・天井
- 珪藻土
- 室内床
- 杉フローリング幅165厚30、水廻りクッションフロア1.8
- 玄関ドア
- 木製高断熱玄関ドア
- サッシ
- 樹脂サッシ LOW-Eトリプルガラス、LOW-Eペアガラス
- 基礎内断熱
- 立上りA種押出法ポリスチレンフォーム3種100㎜+スラブ上B種同種類断熱材50mm全面貼り
- 壁断熱
- 高性能グラスウール断熱材16K厚105+付加断熱厚105 合計210㎜
- 桁上断熱
- 高性能グラスウール16K厚105×3層 315㎜
- 換気システム
- 第1種全熱交換型換気扇