美容室併用木造3階建て住宅が、普通の木造住宅と異なる具体的ポイントはコレ!!!
宇都宮市の中心市街地で施工中の美容室併用木造3階建て住宅。建物のアウトラインが見えてきました。現在、外部はモルタル下地のラス下という板を横貼りした状態です。この上にもう1枚防水シートを貼り、山形ラスという金物を貼り、モルタルを塗り、塗装します。大工→ラス屋→左官→塗装と4種類の職人が関わり外壁ができます。完成品を貼るだけで終わりのサイディング外壁とは、全く違い工程が多いです。 さて、この住宅は、普通の木造住宅とは違う点が3つあります。1つ目は木造3階建て住宅であること、2つ目は美容室併用住宅であること、3つ目が敷地いっぱいに建つ小さな家であること。難しい課題が3つ重なりました。普通の住宅だと、設計が終わると仕事が半分終わったような感じがありますが、この住宅は全くそういう感覚がありません。設計段階から、施工中の今にいたるまで、ずっと難しいクイズを解いている感じです。普通の住宅と異なる点をザックリ書きたいと思います。
木造3階建て住宅は特殊である
木造3階建て住宅は、都市部(準防火地域)の住宅密集地に建てられることが多いです。そもそも広い敷地なら3階建てでなく、平屋か2階建てです。3階建て住宅は、住宅密集地で敷地いっぱいに建つ小さな家であることが、ほとんどなのです。法規関連では、木造3階建て住宅は、確認申請書にも構造計算書を添付しなければなりません。また、住宅の骨組みである柱や梁の構造体が完成した時点で、中間検査が実施されることも普通の木造住宅とは違うことです。図面の段階から施工中も、厳しく外部からチェックを受けます。 いつものように、協力設計事務所で親戚でもある枝川設計の大塚さんの設計協力のもと設計完了しましたが、施工管理もとても難しいです。その難しさの要因の1つは、木造3階建ての構造(耐震性と耐火性)の厳格さと、店舗併用住宅の柔軟に造らなければならない部分が、相容れないこと。例えば店舗リフォームする場合なら、実質的に法規は関係ないので、おおらかに造れますが、新築木造3階建ての店舗併用住宅は、「おおらか」に造ることが難しいです。「おおらか」に造れないという意味は、店舗だと看板や装飾が必要なので、壁の中などに多数下地を造る必要がありますが、木造3階建住宅は、耐震性と耐火性の法規による下地が厳格なので、下地を付けると、とても複雑で面倒な下地になってしまうという意味です。1階が美容室なので、基礎を隠したいので壁をふかすのですが、耐力壁とふかし壁と装飾下地が相まって、とても複雑な8種類の壁になってしまいました。下の写真が8種類に色分けされた壁です。出来上がると普通の壁ですが、結構難しい仕事になっています。 しかし、その構造の厳格さは、良い意味で、耐震性の高さに表れています。よく、ネット上に木造3階建て住宅は揺れやすい等と書き込みがありますが、この住宅は、2階建て住宅以上に揺れを感じません。金物と構造面材で固められた耐震等級3の住宅は安定感があります。通常30分もかからない構造金物のチェックも、金物の数が多くて半日掛かりました。耐火性は後述します。
木造3階建て住宅は栃木県にはほとんどない
次は、栃木県には木造3階建ては、ほとんど建っていないという話。表は、ウィキペディアの「木造3階建て」からの抜粋です。よくまとまっているので、読んでみてください。2008年のデータですが、東京、大阪等の都市部を除いた全国で、3階建て住宅の着工比率は、なんと全体の1.5%。100軒のうち、わずか1.5軒が木造3階建て住宅という少なさです。それに反して、東京は20%、大阪は26%が木造3階建て住宅となっています。木造3階建て住宅は、ほとんどが東京と大阪で建てられており、地方では建っていないことが分かります。こんなに地域性が分かりやすい住宅も珍しいです。建物は敷地によって決まるということが、よく分かると思います。
お客さんの家を更地にした後、建築確認申請が下りずに真っ青になった話
住宅を建築するときは、役所的機関に建築確認申請をして許可をもらい工事が始まります。確認が下りないと工事を始めることができません。初めに提出した確認検査機関は、木造3階建住宅に慣れていないらしく、確認が下りずに大変な思いをしました。詳細は書きませんが、どう考えても問題のない部分で許可が下りなかったのです。既存家屋を解体し、更地にしてしまっていたので、私は真っ青になりました。お客さんにしたら、「今まで住んでいた家は無いし、新しい家も建たない」危機的状況です。ある部分の構成が仕様書と違っているので、許可が下せないというものでした。どう考えても、仕様書より「ベターになる設計」なのですが、仕様書と全く一緒でないと、許可をおろさないというバカな話でした。仕様書を書いた機関もベターになるなら良いと了承していると建築主事に言っても許可が下りない。仕様書と同じでない場合もあるから、建築主事という役職が必要なわけで、仕様書と同じものしか許可を下さないなら、誰でも出来る仕事になりますから、建築主事なんて必要ないのです。建築主事が判断できずに、宇都宮市役所に意見を求め、市役所でも判断できず、確認は下りないという悪循環。その部分は、デザイン上の肝だったので、困りに困りました。その後、別の検査機関に出し直して建築確認が下りました。確認検査機関で身構えてしまうほど、栃木県では(東京、大阪以外の県では)木造3階建て住宅は珍しいということだと思います。
火事にも強い構造になっている
この建物は準耐火建築物になっています。準耐火建築物とは、準防火地域で木造3階建てを建てる場合に要求される性能の建築物です。街中の住宅密集地に建てられる木造3階建て住宅なので、普通の木造住宅と下地が全く違います。分かりやすく言うと、火災を最小限にするために、お金と手間が掛かった下地になっています。建物全体の部位(外壁・内壁・床・天井・階段・屋根・軒裏・柱・梁)に耐火性能が要求され、特に延焼のおそれのある部分には隣家への延焼や類焼を防ぐために厳しく制限されています。延焼のおそれのある開口部には防火戸等の防火設備が必要です。外壁仕上げによって違いますが、ザックリ下地を書くと、外壁の内側は、12.5㎜+9.5㎜の石膏ボード2重貼り、天井は強化石膏ボード15㎜(強化石膏ボードなんて初めて使った)、間仕切り壁は15㎜石膏ボード。全ての壁(外壁、内壁)の上部には、ファイヤーストップと呼ばれる120㎜×30㎜の木材を全て設置しています。窓と玄関ドアは全て防火戸で、店舗ドアは、シンプルながらデザインして特注防火戸。外壁内側の2重の石膏ボードを施工してから、階段等を造る必要があり、通常の住宅とは施工手順も違います。
狭小住宅なので隙間を縫うように建物を造っている感じです
建物の配置計画は、建物の裏側である西面に設置されるエアコンの室外機が載る架台の厚さによって決められています。店舗なので、生活感の出る設備配管や洗濯物は極力見せない設計になっています。隣地境界線から5㎝程度空きを取ってエアコン架台の奥行を取り、外壁のラインを決めました。隣家の壁と近くエアコンがショートサーキットして効かなくなるのが怖いので、計画前、基礎工事完了後、外壁下地完成後の3回エアコン業者に現場を見てもらい、エアコンが正常運転するかどうか確認しました。 高さ方向も寸法がキツキツです。道路斜線で建物の高さが決まります。1階が美容室なので、なるべく天井高さを取りたい。しかし、2階が居住スペースの水廻りなので、1階天井裏で充分に排水の流れる水勾配を確保する必要があります。かつ木造3階建てなので、2階の床下に隠れている梁成が40㎝近くある。排水管が勾配を取りながら梁下を通ると、1階の天井裏が高くなり、店舗の天井高さが低めになってしまいます。何とか、以前の店舗の天井高さである2.4Mより高い、2.55Mの天井高さが確保出来ました。2階と3階の天井近さは少し低めの2.3Mになっています。平面も立面も隙間を縫うように建物を造っている感じです。
美容室併用住宅なので、オーナーのこだわり多数
美容室併用住宅なので、オーナーの雰囲気やこだわりを分かりやすく建築やインテリアに表現しようと、打ち合わせを重ねてきました。建築の具体的作業としては、使いやすい店内はもとより、建材の素材感や色合い、装飾や看板です。外壁に看板を取り付けるので下地を多く入れています。写真は木製格子下地にするステンレスのL型金物。ぶっといステンレスビスで留めています。ビスが白い防水シートを貫通するので、そこが漏水の原因になったりしますから、ビスを打ったところは黒い防水テープで止水しています。もちろん、L型金物の下には、あらかじめ下地木材が横に入っています。どこにでも金物が付くわけではないのです。先に書いたように、店舗内の壁にも、後で装飾できるように下地を多く入れます。
当社にとっては珍しい、軒ゼロ住宅です
一般住宅に見えないように、北、東、南の3面の壁を陰影が付くようにふかしています。「ふかす」とは壁や天井の一部を厚くしたりすること。配管が通るために「ふかす」こともあるし、今回のように一般住宅に見えないように「ふかす」こともある。このように壁を「ふかし」た凹凸ができる部分も漏水になりやすい箇所になるため、徹底して弱い箇所を補強しなければならない。今回は軒が出せない住宅なので、軒ゼロで納めました。壁から屋根が出っ張っている部分を軒(のき)と言います。「ふかし」部分も上下に板金をいれて、通気層を取り漏水のリスクを回避しています。
施主と頻繁に連絡が取れるので助かる
1週間に1度は、必ず施主との打ち合わせを現場で行い、進捗状況を見て頂き、問題点を話し合っています。電話やラインで直ぐにお互いに連絡が取れて、相談・確認できるので助かっています。
タカラスタンダードはタカラベルモントの子会社だった
この美容室併用住宅の仕事をして初めてタカラベルモントという隠れた有名企業の存在を知りました。タカラベルモントは、特に理容椅子・美容椅子の国内シェアは業界トップ。美容師さん、理容師さんなら知らない人がいない有名企業だ。驚いたことに、ウィキペディアによると、
住宅機器メーカー大手のタカラスタンダード株式会社(旧名日本エナメル株式会社)は1963年(昭和38年)よりタカラベルモントの傘下であった。現在はタカラベルモント傘下からは離れているがタカラスタンダードの主要株主の一つである。
タカラスタンダードがタカラベルモント傘下だったとは驚きました。
他の仕事が進まない状況になっておりまして、 ご迷惑をおかけしております。住宅建築は、考えがカタチになるので、楽しい面もありますが、とても難しい仕事だと再確認している次第です。
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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