23年使い続けて分かった、本当に心地いい珪藻土の話― なぜ塗り壁仕様を鎌倉漆喰から「ケイソウくん フィニッシュワン」に戻すのか ―

当社では2003年から、室内の仕上げ材として珪藻土を使い続けてきました。
現在、新築注文住宅の内装仕上げは、ビニールクロスが全体の約8〜9割を占めていると言われています。
珪藻土をはじめとした塗り壁は、多くて1~2割程度と、全体の中ではまだ少数派です。正確な全国統計データはありませんが、実務感覚としてはその程度だと感じています。
塗り壁の割合は、今後少なくはなれども、多くはなりません。それくらい貴重な仕上げ材と言えます。ますます貴重になる理由として、材料価格の高騰と、左官職人の減少の2つが挙げられます。
当社では、ワンウィルという会社のケイソウくんという珪藻土を使ってきました。2000年代初頭は、今よりも珪藻土という素材が一般的ではなく、施工後にクラック(細いひび割れ)が出ることも珍しくありませんでした。実際に、何度かお客様のもとへ、クラックに対する説明に伺ったこともあります。
正直に言えば、ひび割れの説明に気を遣い、大変な思いをしたこともありました。それでも、私は珪藻土を使い続けています。
合成樹脂を使わず、自然素材をつなぎにした珪藻土ならではの質感と、本物の素材感。のちほど説明しますが、珪藻土には合成樹脂系と自然素材系の2系統があります
ビニールクロスにはない、独特の「質感」と「室内の空気感」が、今でも新築の標準仕様として採用し続けている理由です。
今回のブログでは、
・珪藻土との出会い
・これまで使ってきた「鎌倉漆喰」
・今後、標準仕様として戻す予定の「フィニッシュワン」
この3点について、実体験をもとに整理してみたいと思います。
目次
珪藻土との出会いは、1997年の「オレンジバーン」でした
私が東京でのサラリーマン生活に区切りをつけ、実家に戻って家業を継ぐ決断をしたのが1997年のことです。
その頃、世田谷に「オレンジバーン」という工務店があり、ショールームを併設していました。正式な社名は「オレンジポイント」です。
知り合いのインテリアデザイナーに「今、注目しておいた方がいい工務店や住宅系ショールームはどこか?」と聞いたところ、真っ先に名前が挙がったのが、このオレンジバーンでした。興味を惹かれ、実際に店舗を見学しに行ったのを覚えています。
ちょうど、オレンジバーンがブレイクする直前の時期だったと思います。店内で実物のインテリアや施工写真を見せてもらい、使われている素材の新鮮さに強い衝撃を受けました。
当時、ほとんどの工務店が使っていたのは、新建材のイミテーション仕上げ(木目シートのドアなど)でしたが、オレンジバーンはそうした素材を使わず、本物の素材をシンプルに組み合わせた住宅を提案していました。
具体的には、
・パイン材のフローリング
・珪藻土仕上げの壁と天井
・造作建具
・オーダーメイドのキッチンや浴室
・片流れ屋根+塗り壁+木製サッシの外観
今では珍しくありませんが、当時としてはかなり先進的な構成でした。
施工事例が掲載されたカタログは有料でしたが、購入しました。
オレンジバーンは、当時から意匠性・素材選び・プロモーションのすべてにおいて、はっきりとした個性を確立していました。いわゆる町場の工務店であっても、自社設計・自社施工でここまでのことができるのだと、強く考えさせられました。
また、オーダーキッチンを世の中に広めた立役者でもあります。オーダーキッチンに関する書籍を出版し、「工務店や設計事務所でもオーダーキッチンは造れる」ということを、住宅業界や一般の人たちに伝えていきました。
これらの「素材の選び方」と「形の作り方」を、一般に広く知らしめた存在が、オレンジバーンだったと思います。
残念ながら、オレンジポイントという会社自体は、すでに無くなってしまいました。しかし、あのとき見た内装の珪藻土の質感や空気感は強く印象に残っていて、「いつか自分がつくる家では、必ず珪藻土を使いたい」と思うようになりました。
当時、オレンジポイントが使っていた珪藻土は、神奈川県川崎市にあったサメジマコーポレーションの製品でした。こちらも残念ながら、現在は会社としては無くなってしまったようです。
ヨシダクラフトが、2003年から珪藻土を使い始めた理由

1998年から家業の工務店を継ぎ、1999年には「FPの家」という高断熱高気密住宅のボランタリーチェーンに加盟しました。
ボランタリーチェーンとは、フランチャイズのような上下関係ではなく、部材供給メーカーと比較的対等な立場で協力する業態です。
当時は、高断熱高気密住宅で受注するだけでも精一杯でした。断熱性能を上げると、材料費も施工手間も一般的な木造住宅より増え、どうしても建築費が上がります。そのため、珪藻土や造作建具等の仕上げ材まで標準仕様にする実力はありませんでした。
ただし、造っていた高断熱高気密住宅は、サラリーマン時代に携わっていた超高級住宅よりも、明確に「住み心地が良い」と感じられました。この実感は大きな自信になりました。ちなみに、現在当社で建てている住宅は、FPの家よりもさらに高い性能になっています。
そして2003年、松本民藝家具が好きなお客様の家(MK-house)を建てることになります。重厚な手仕事の無垢家具と、ビニールクロスはどうしても合わない。そう判断し、お客様と相談のうえ、初めて珪藻土を採用しました。
珪藻土はなぜ割れるのか?素材としての正直な話
2003年に初めて使った珪藻土は、ワンウィルの「ケイソウくん」でした。ワンウィルは、1998年に珪藻土の製造を開始し、現在まで作り続けている数少ない珪藻土メーカーです。
その後、リフォーム工事でも使いましたが、当時のケイソウくんは、今と比べるとクラック(細いひび割れ)が入りやすかった印象があります。
また、リフォームで、既存のビニールクロスの上から施工要領書どおりに塗っても、室内の1面から灰汁(下地の汚れ)が出てしまい、もう一度塗り直したこともありました。自然素材の施工は、新建材と比べると難しいので、理解のあるお客様のお宅でないと、使えないと思いました。
話がそれましたが、本題にはいります。
珪藻土は、それ単体では固まりません。そのため、何らかの「つなぎ」の材料を加えることで固まるようになり、建材として成り立っています。
珪藻土の固め方は、大きく分けて「つなき材」は次の2種類です。
これまで使ってきた珪藻土の仕様と、メーカーを変えなかった理由
・合成樹脂系で固めるタイプ
・自然素材系で固めるタイプ
合成樹脂を使った珪藻土は、ひび割れが入りにくい反面、表面がテカテカと光り、質感がビニールクロスに近くなります。また、珪藻土本来の多孔質構造(目に見えない無数の穴)を樹脂が塞いでしまうため、調湿・消臭といった性能が発揮されにくくなります。実際、珪藻土の大手メーカーの多くは、この樹脂系です。
一方、ケイソウくんは、粘土などの自然素材をつなぎに使っています。合成樹脂を使わない分、質感は非常に良いのですが、2003年当時はクラックが入りやすい傾向がありました。
塗り壁なので、多少のクラックは避けられませんが、当時は今より発生しやすく、実際にお客様のもとへ説明に伺ったわけです。
クラックといってもあまり目立たないものであり、補修するとかえって目立つため、そのままにしていただきました。
それでも私が使い続けてきたのが、ワンウィルの珪藻土です。樹脂を使わず、自然素材をつなぎにした珪藻土ならではの質感と、本物の素材感。ビニールクロスにはない「空気感」が、今でも標準仕様として採用している理由です。
ワンウィル社の鎌倉漆喰とフィニッシュワンの違いを整理して比較
| 比較項目 | 鎌倉漆喰 | フィニッシュワン |
| 商品カテゴリー | 珪藻土×漆喰のハイブリッド壁材(左官タイプ) | 珪藻土主体の左官タイプ壁材 |
| メーカー表記 | KEISOUKUN|鎌倉漆喰 | KEISOUKUN|FINISH ONE |
| 基本成分 | 漆喰+珪藻土等の機能性鉱物 | 珪藻土主体(+ゼオライト/シラス/粘土等) |
| 結合材の性質 | 漆喰(石灰系)主体(より硬くなる性質) | 珪藻土主体(自然素材のつなぎで柔軟性) |
| 色味 | はっきりとした白色(漆喰色) | ほぼ白〜少しだけオフホワイト寄り 当社標準仕様は白です |
| 在庫・供給性 | オーダー生産で、納期がかかる場合あり(実体験) | 常備在庫品/標準品として供給が安定 (keisoukun.com) |
| 質感 | 漆喰の持つ“伝統的な白壁の質感” | 珪藻土の“柔らかい自然素材感” |
| 割れやすさ | 漆喰成分が多く硬くなるため割れが出やすい(経験則) | 硬さが適度で、割れにくい印象(経験則) |
| 施工性 | 漆喰の特性+左官施工 | 左官施工:壁紙の上からも塗りやすい |
| 機能性(調湿消臭など) | 珪藻土+漆喰の両方の機能 | 珪藻土の調湿・消臭・高性能機能を中心に発揮 |
| おすすめ利用場面 | 伝統的白壁で空間を引き締めたい時 | 色展開を活かしつつ調湿性と施工安定性を重視したい時 |
※左官タイプとは鏝(こて)で塗るタイプのこと
※「割れやすさ」「施工性」などは、あくまで当社の経験則としての表現で正確です
標準仕様を鎌倉漆喰からフィニッシュワンに「戻す」理由

これまで鎌倉漆喰を使ってきた一番の理由は、その白色が、当社ショールームで使っていた初期のケイソウくん(粉タイプ/下塗り・上塗りとも粉)に近かったからです。
一方で、
・鎌倉漆喰はオーダー生産のため、納期がかかる場合がある
・フィニッシュワンは常備在庫品で供給が安定しているので、こちらの方が良い
という点が、実務上の判断材料になりました。
また、鎌倉漆喰は漆喰成分が多く、硬くなりやすいため、ややひび割れしやすい印象があります。
リフォーム工事においても、
・フィニッシュワンはビニールクロスの上から直接塗りやすい
・鎌倉漆喰は、全面にアンダーコートを塗らないと施工できないので、1工程多くなり、材料費も掛かるので、今後の世の中に合わないと思いました。
という違いがあります。
結果として、施工の安定性・供給性・扱いやすさを総合的に考え、標準仕様を「フィニッシュワン」に戻す判断をしました。
まとめ
珪藻土をはじめとした自然素材は、決して「扱いやすい仕上げ材」ではありません。
クラックが出ることもありますし、伸縮して隙間が開いたりすることもあるからです。ビニールクロスと比較すると、クラックが入ったりするため、お客様に対して充分な説明が必要な材料です。かつお客様の理解が必要な素材です。
それでも自然素材は見た目が良く、長持ちします。
珪藻土については、合成樹脂を使わない珪藻土がつくり出す、あの独特の質感と空気感は、ビニールクロスでは代えがたいものがあります。ビニールクロスは汚れると貼り代えたくなりますが、珪藻土の汚れは「味」として認識できるような違いが大きい。
23年間使い続けてきた中で、
・素材の考え方
・施工性
・供給の安定性
これらを総合的に見直した結果、当社では再び「ケイソウくん フィニッシュワン」を標準仕様として採用することにしました。
流行やイメージではなく、実際に使い続けてきたからこそ分かる判断です。
これから家づくりを考える方にとって、「珪藻土を使う・使わない」を判断する材料のひとつになれば幸いです。
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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