キッチンシンク下収納に湿気が出る原因と対策を、キッチンメーカーに聞いてみた

築9年になられるお客様から、「キッチンシンク下の排水部分を見て頂けますか?」というLINEが入りました。
「排水管が詰まっているのでは?」と思い、電話で状況を伺ったところ、詰まりではなく問題は別にありました。
お客様の話では、「キッチンシンク下の収納内部に湿気があり、畳んで収納していた※台布巾が少し湿っているように感じる」とのこと。
お宅に伺って、キッチン水栓から水を流してみたところ、キチンと水は流れておりシンク下配管からの漏水はありませんでした。お客様は「床下の排水管あたりで漏水が起きていて、その湿気が上がって収納内部に影響しているのでは?」と心配されている様子だったので、床下に潜って配管廻りの漏水も確認しました。
先に結論から申し上げると、床下の排水管からの漏水もありませんでした。
ただし、これまで複数のお宅で「キッチンシンク下収納に湿気が出る」「築年数が経つと、シンク下収納廻りから匂いが出るような気がする」という事例があり、その2つがきっかけでキッチン交換になったケースもありました。
そのような場合、キッチンシンク下の湿気と匂いの原因を、ピンポイントで突き止めるのは難しく、目視・触診・匂いを調べても「収納内部全体に湿気がこもっており、シンク下収納内部のどこからともなく匂いもする感じだが、ここだという原因は突き止められない」という印象が強かったのです。
そこで今回、採用したキッチンメーカーであるTOTOの技術相談室に電話して、「キッチンシンク下収納の湿気の原因と対策」についてお聞きしました。
その回答が、「私の経験に合致しており、腑に落ちた!」のでブログとしてご紹介いたします。
※台布巾(だいふきん)=食卓や調理台を拭くための布。台拭きとも呼ばれ、キッチンまわりの水分や汚れを拭き取るのに使われます
目次
キッチンの仕様
キッチン仕様は、TOTO 「ミッテ」シリーズ。シンク部はステンレス製の“スペースアップシンク(※エンボス仕様)”で、シンク裏面にはポリエチレン製の※防露材が貼られています。キャビネット部は木質構造です。
木質キャビネットとは、扉など目に見える部分以外の構造(骨組み)も、合板系の木材で組んだキッチンを指します。
対してキャビネットにはもう1種類、金属キャビネットがあります。金属キャビネットとは、構造がステンレスやホーローなど金属であるキッチンです。金属キャビネットの例としては、クリナップ社のステンレスキャビネット、タカラスタンダード社のホーローキャビネットが有名です。
※ステンレス製シンクの“エンボス仕様”とは、ステンレス表面にプレス機で細かい凹凸模様を施す加工で、傷が目立ちにくくなるという利点があります。ちなみにTOTOの場合、人工大理石シンク仕様は、ステンレスシンクに比べて結露しにくいため、裏面に防露材を貼っていないとのことです。
※防露材(ぼうろざい)とは、冷たい配管やタンクなどに結露が起きるのを防ぐための材料。断熱・保温の役割を果たし、表面に水滴がつくことから生じる、収納内のカビ・建材の腐食・水滴による周囲の濡れなどを防止します
キッチンシンク下収納内部の湿気の現況
お客様の話から状況を整理すると、築9年目となる今年6月ごろから、キッチンシンク下収納内部に湿気を感じ始めたとのこと。具体的には、乾いた状態で畳んで収納していた台布巾を手で触ると、「乾いているはずなのに少し湿っているように感じる」ということです。
漏水の有無を、キッチンシンク下収納内部の配管と床下配管で確認

シンク下の収納扉は、開き戸ではなく抽斗(ひきだし)です。
まずは、シンク下の抽斗を開けた状態で、水栓から水を流して、排水管から漏水していないかを確認しました。3分程水を流してみましたが、シンク下収納内部の排水管から漏水はありませんでした。排水管も手で触ってみましたが、漏水はありませんでした。
その後、床下のキッチン排水管からの漏水も気になるとのことでしたので、キッチン隣の脱衣室の床に設けた床下点検口から顔を入れて、キッチン配管を見ようとしました。しかし、基礎の立上りがあり、キッチンの排水管が見えませんでした。
そこで急遽、排水管を確認するために、床下に入ることにしました。このお宅は、当社から徒歩20秒くらいです。床下に潜ると服が汚れてしまうので、事務所に戻って、床下に入れるように雨合羽を着てから、床下に入りました。ちなみに私は身長178センチ、86キロと身体が大きめなので、床下や天井裏などの狭いスペースに入る場合とても大変です。



床下に潜ってキッチンの排水管を確認して写真を撮り、床下での漏水が無いことも施主に報告しました。
またキッチンメーカーであるTOTOに現況を話して、「キッチンシンク下収納内部の湿気の原因と対策」を聞いてみることを、お客様と約束しました。
TOTO技術相談室に聞いた、キッチンシンク下収納部の湿気の原因と対策

建材・住宅設備メーカーの相談窓口には、一般のお客様向け窓口と、住宅業者向け窓口の2つがあります。TOTOの業者専用窓口が「技術相談室」です。
電話で問い合わせると、担当の女性スタッフが非常に分かりやすく説明してくださいました。主なやりとりは以下の通りです。
●私(当社):「築9年のお客様から、キッチンシンク下収納に湿気があって心配とのご相談を受けました。排水管からの漏水も疑われたため、収納内部と床下に潜って配管を確認しましたが漏水はありませんでした。御社を含め他社製のキッチンでも、シンク下収納に湿気がたまりやすい印象があります。原因として考えられることはありますか?」
■TOTO技術相談室:「シンク下には給水管・排水管が通っていますし、シンク自身も冷たい水を受ける場所なので、収納内部では結露が起きる可能性があります。また、シンク下には、開き戸や抽斗が付くので気密性が高まり、湿気がこもりやすくなります。お聞きしたキッチンの仕様では、ステンレスシンク裏面にポリエチレン防露材が貼られているため結露は起きにくい設計になっています。しかし、シンク下収納は、“湿気が発生しやすい条件”には当てはまります。」
●私(当社):「私のこれまでの経験では、築10年ほど経つと、メーカーを問わずシンク下収納に湿気がこもる場合があり、時には匂いも発生し、キッチン交換の原因になることがありました。具体的に考えられる原因はありますか?」
■TOTO技術相談室:「お話したように、シンク下収納は湿気がこもりやすくなります。その上、木質キャビネットのキッチンは、内部構造が木質(合板)で出来ているため、経年すると、どうしても湿気が木部(合板)に含まれやすくなります。」
補足:シンク下は給水管・排水管があり水が流れ、扉や抽斗があるため気密性も高く、結露が起きやすい。長期間にわたってこのような条件が続くことで湿気が発生・滞留しやすくなります。木質キャビネットの場合、構造材が合板であるため湿気が合板に染み込みやすく、築10年くらいになるまでには、徐々に合板キャビネットが湿気で傷み、多分合板キャビネット部から匂いも表出するようになり、結果としてキッチン交換の原因の1つむになると想像しました。
●私(当社):「なるほど!今まで“シンク下収納の湿気や匂い”が出た事例は、すべて木質キャビネット仕様のキッチンでした。木質キャビネットキッチンの湿気対策を教えてください。(言われてみたら当たり前のことですが、なるほど!と思いました。)」
■TOTO技術相談室:「抽斗や扉を少し開けておくなどして通気を良くすること。また湿気取り剤を入れておくことも有効です。」
●私(当社):「分かりました。ありがとうございました。」
湿気によるキッチン劣化を防ぐには、2つの選択肢がある
キッチンシンク下の収納内部の湿気が原因でキッチンが劣化する事態を防ぐには、大きく分けて 2つの選択肢が考えられます。
- 金属キャビネット仕様のキッチンにする→湿気がこもっても傷みにくい構造にしておく
- 造作キッチン(オーダーキッチン)にして、シンク下の扉や抽斗を無くしオープンスペースにする→シンク下の扉や抽斗を無くして通気を確保し、湿気をこもらせない
以下で、それぞれの対策を詳しくご説明します。
金属キャビネット仕様キッチンを採用して、湿気がこもっても傷みにくい構造にする

国内の既製品キッチンメーカーの中には、キャビネット構造が金属仕様のものがあります。代表的なのが、ステンレス仕様のクリナップ社とホーロー仕様のタカラスタンダード社です。その他のキッチンメーカーは、殆ど木質キャビネットです。
金属キャビネットは湿気に強く、水拭き掃除がしやすいという特徴があります。金属キャビネットのキッチンは、木質キャビネットに比べて一般的に価格は高めですが、湿気・劣化対策としては有効です。
ただし、上記どちらのメーカーもエントリーモデルには木質キャビネット仕様があるため、金属仕様を選びたい場合は、仕様をしっかり確認することが大切です。
余談ですが、キッチン交換時の解体の場面でも木質キャビネットと金属キャビネットでは違いがあります。木質キャビネットキッチンは、ホームセンターで売っているカラーボックスと同じような構造なので、壊しやすく解体と運搬が比較的簡単で嵩張り(かさばり)ません。金属キャビネットは解体できないため、丸ごとトラックで搬出するしかないので、トラックでの搬出回数も増えがちです。それくらい金属キャビネットは強固だということです。ちなみに職人さん宅のキッチンは、この両社のいずれかを採用することが多いような気がします
※ホーローとは、鉄やアルミなどの金属表面にガラス質の釉薬を高温で焼き付けたコーティング素材で、耐久性・耐食性に優れており、調理器具・浴槽・キッチンパネルなどに用いられます。
造作キッチンにして、シンク下に扉や抽斗を付けずオープンスペース化し、湿気をこもらせない


もうひとつの方法として、造作キッチン(オーダーキッチン)にしてシンク下の扉を付けず、オープンスペースとする方法があります。シンク下をゴミ箱スペースとして活用する場合や扉を設けない場合は、この仕様にします。
結果として、扉や抽斗がないことで湿気がこもりにくくなります。造作キッチンは基本的に木質キャビネットですが、扉を無くすことで通気性を確保でき、耐久性向上につながります。
既製品のキッチンは、シンク下には抽斗か扉が必ず付くため、シンク下をオープンスペースにしてゴミ箱を置きたい場合は、造作キッチンの1択になります。一般的に造作キッチンは、金属キャビネットキッチンよりも値段が高くなります。しかし、キッチンの面材を、ドアや家具の扉と同じ材料にするなど、室内の統一感を出せることも利点です。
まとめ
キッチンシンク下の収納内部の湿気が原因の、キッチンの劣化を防ぐには、木製キャビネットのキッチンを辞めて、金属キャビネットのキッチンにするか、もしくは造作キッチンにして、シンク下の扉を無くして、オープンスペースとして、ゴミ箱入れなどにするかの2択だと思います。
ただし、キッチンの大多数を占める木質キャビネットは一般的に値段が安く、質感も悪くありません。木質キャビネットを採用する場合でも、築年数が浅い時期から、シンク下の扉や抽斗を少し開けて、湿気をこもらせないなどの工夫をすることで、長く使える可能性もあると思います。
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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