たった1軒の古民家リノベカフェ「SHOZO CAFÉ」から始まり、人が集う市立図書館「みるる」が出来るまで——黒磯駅前が人を惹きつける街になった理由

1988年に開店した「1988 CAFE SHOZO(しょうぞうカフェ黒磯本店)」は、栃木県那須塩原市・JR黒磯駅から徒歩10分程度の場所にある、全国の古民家リノベカフェの先駆け的存在です。
昭和時代の1988年(昭和63年)、創業者の菊地省三さんが、シャッター通りにあった古アパートを丁寧に改装して作ったこのカフェは、レトロな木造住宅の木の温もりと、洗練されたセンスが同居する心地よい空間となり、多くのファンを惹きつけてきました。
SHOZO CAFÉ の開店から22年程経った、2010年くらいから、このカフェに触発された人達が、近くでアンティーク雑貨店や古家具のセレクトショップを開き始めました。
建物を新築して店を開くのでなく、SHOZO CAFÉと同じように、既存の古い建物をリノベーションして、街並みの雰囲気を揃えたことで、黒磯駅周辺はカフェ好きやアンティーク好きが訪れる、観光の目的地の1つになっています。
さらに2020年には、黒磯駅前に市立の「那須塩原市図書館みるる」が開館。本を借りるだけでなく、人が集い、交流できる“居心地のよい図書館”として、地域の魅力をいっそう引き立てています。
目次
店舗のリノベーションと住宅のリノベーションとの違い
リノベーションすると、既存建物を生かすことになるため、開店時から味わいのある店にすることが可能になります。店舗のリノベーションには、新築には無いオリジナリティが得られることと、新築と比べてローコストで開店できるのも利点です。
かつ、店舗は人が暮らさないため、住宅のリノベーションと比べて、お金の掛かる断熱リフォームや、耐震リフォームを重点的に行う必要はありません。店舗のリノベーションは、目に見える、内外装の仕上げ工事に重点的に予算配分されて、見た目と雰囲気重視の仕上がりとなります。店舗は、人が暮らさないため、温熱的快適性に繋がる、「サッシと断熱材の吟味と、断熱施工」の予算配分は、特に二の次になります。気密工事を行っている店舗リフォームなんて、聞いたことがありません。
SHOZO CAFÉの魅力は、空間と美味しさの“掛け算”にある

SHOZO CAFÉの魅力として、真っ先に思い浮かぶのは、古い建物をリノベーションした独特の空間です。新築では体感できない、味わいのある無垢材の床や古い建具(ドア)、大谷石の壁など、レトロで居心地の良い内装が、多くの人を惹きつけています。
複数の建物が合わさって増改築が行われて、完成しているようです。床に高低差がありますし、高い天井や低い天井もあり、それが迷路のような魅力にもなっています。初めて訪れたとき、他では体感したことのない、そのレトロで味わい深い雰囲気に、感動した方も多いはずです。
しかし、この過疎地の街はずれに出来たカフェが、37年もの間、多くのリピーターを引きつけ続けている理由は、空間の良さだけではありません。本質的な魅力は、提供されるコーヒーとケーキ、焼き菓子の美味しさにあります。
丁寧に淹れられたコーヒーと、素朴ながらも洗練されて、コクとしっかりした甘さのあるスイーツは、初めて訪れる人にも、何度も足を運ぶ人にも、変わらない満足感を与えてくれます。
「どこで作っているのですか?」と尋ねると、「このお店で決まった人が手作りしています」とスタッフが答えてくれました。ケーキ屋さん以上に美味しいケーキは、この店舗のどこかで作られているようです。その誠実な姿勢もまた、長く愛される理由の一つです。

実際、筆者が初めて訪れたのは1998年頃。当時はまだ周囲に他の店はなく、SHOZO CAFÉのみが1軒あるだけだったと思います。しかし、日曜の店内は、ほぼ満席でした。
つまり当時から、名所旧跡等のない街に、SHOZO CAFÉ1軒のみの魅力で、多くの人が訪れているのです
SHOZO CAFÉの魅力は、「雰囲気ある空間」×「美味しいコーヒーとスイーツ」という掛け算の魅力。どちらか一方ではなく、両方が高いレベルで共存しているからこそ、37年間も愛され続けているのです。
栃木県内には、SHOZO CAFÉのファンがたくさんおり、わざわざ1時間掛けて、コーヒーとケーキと、店の雰囲気を味わいに行く人も珍しくありません。
SHOZO CAFÉのファンは、古い無垢材の床、漆喰の壁、造作建具などの、古くて味のあるインテリアが好きな傾向です。自宅の新築やリノベーション・リフォーム時に、SHOZO CAFÉの雰囲気を取り入れる人も居ます。
当社にも、SHOZO CAFÉのファンから、リノベーションの依頼があり、世界観を取り入れたリノベーションを行いました。今では、濃い茶色や白で着色した無垢材、造作建具で造られたインテリアは普通になりましたが、このようなインテリアを造った一因はSHOZO CAFÉだと思います。
SHOZO CAFÉ周辺の魅力的なアンティークショップたち
近年、黒磯駅近くには、SHOZO CAFÉの世界観に共鳴するような魅力的なアンティークショップが点在しています。その中でも特に印象的なのが「タミゼ」と「ROOMS」という2つの店です。

「タミゼ」は、落ち着いた佇まいの中に、国内外のアンティーク雑貨や生活道具が丁寧にセレクトされたショップ。店主の審美眼によって選ばれた品々は、どれも時を経た美しさがあり、空間全体に静けさと品格が漂っています。昭和の商店街の一角にあったタクシー会社をリノベーションしたようですが、味があり、かつ凛とした雰囲気を持つお店です。

一方「ROOMS」は、もう少しカジュアルで遊び心のあるセレクトが光るお店。こちらも古い建物を活かしてリノベーションされており、アンティークの家具や雑貨、さらにはアートなども扱っています。各種「熊の木彫りの置物」が印象的でした。かつては、どの家庭にもあった「熊の木彫りの置物」が魅力的に見えました。
どちらのお店も、黒磯駅周辺の風景を壊すことなく、むしろその良さを引き出すように存在しており、街並みと調和しています。単にモノを売るだけではなく、まちの空気をつくる一部として機能していることが魅力です。
古いものに新しい価値を与えながら、統一感のあるまち並みが生まれているのは、SHOZO CAFÉの美意識が周囲にも浸透して、影響を与えたからだと思います。
歩ける範囲に、SHOZO CAFÉと同じように、コーヒーとケーキを出す店があるか?グルっと回ったのですが、ジェラートやイタリアンの店はありましたが、同じような店はありませんでした。二匹目のドジョウを狙う気も起こさせないほど、SHOZOブランドが確立されているのだと思いました。
出店時の37年前は、廻りに何もない、人の往来も少ない、飲食店をするには難しい地域だったのだと再実感しました。不毛の地に種をまくように出店し、苗を育てるようにブランド化して、商売を続けていらっしゃる姿に、業界は違えど、同じく商売をしている身として、改めて菊地省三さんは凄い方なのだと思いました。
那須塩原市図書館「みるる」は、町の新たな交流拠点

インターネットや電子書籍の普及により、「本を読む」「情報を探す」といった機能は、パソコンやスマホで、家庭でも可能になりました。新しい図書館は、本を貸すだけではなく、人が集まり、学び合い、つながる場所としての役割を強めています。
2020年、黒磯駅前に新しく開館した「那須塩原市図書館みるる」も、単に本を借りる場所ではなく、人々が集い、居心地よく過ごせる“まちのリビング”のような存在になっていました。仕上げ材を極力排除して、かつ安めな仕上げ材を使って、ローコストで上手く設計していると感じました。


1階は大きなガラス窓から光が差し込む開放的な空間で、雑誌を読んだり、会話したり、パソコンを広げたりと、自由な使い方ができます。

2階はより静かで落ち着いた雰囲気があり、読書や勉強に集中したい人にぴったり。小上がりの畳スペースもあり、靴を脱いでゆっくりと本を読めます。

館内のあちこちに、寛いだ状態で本が読める、人にやさしい設計が散りばめられていて、つい長居したくなります。そんな図書館が、駅前の新たな拠点として定着しつつあります。

那須塩原市図書館「みるる」の居心地と心に響く言葉たち

「みるる」は空間の心地よさだけでなく、本と人をつなぐ“言葉の演出”がとても印象的です。
館内には「ことばの小道」と名付けられた本棚があり、その棚には「迷ってもいい。立ち止まってもいい。」「思いがけない本に出会える場所。」など、優しく背中を押してくれる言葉が、大きな看板のように、散りばめられています。このような言葉の展示は見たことが無く新鮮でした。
本を紹介するPOPも、まるで短い詩のようで、言葉を大切に扱う姿勢が伝わってきます。こうした細部の演出が、利用者の気持ちを和らげ、読書への入り口を自然に作っているのです。
「図書館は静かに本を読む場所」という従来のイメージを超えて、みるるは“言葉と人とがゆるやかにつながる場”として、多くの人に愛されているのだと感じました。
アフォリズムとは、「短く印象的な言葉で、人生・社会・文化等に関する自分の考えを表したもの」です。本棚に展示された言葉は、アフォリズムだと思い、同じ栃木県出身の相田みつを氏の「人間だもの」を思い出しました。
ちなみに、バカリズムという芸名は、アフォリズムから付けたのかもしれません。(知らんけど)
展示の言葉は黒いので、一瞬アイアン(鉄)かと思い、触ってみましたが、発砲スチロールでした。発砲スチロールは、ローコストで軽いので、言葉を入れ替えやすいです。


JR黒磯駅前には無料駐車場があり、街歩きに便利
黒磯駅前には市営の無料駐車場があり、街歩きに訪れる人にもとても便利です。駅を中心に歩ける範囲に、SHOZO CAFÉや周辺のショップ、図書館みるるなどが集まっているので、クルマを停めたらそのままゆっくりまち歩きを楽しめます。
特に週末や休日は、カフェでお茶をした後にアンティークショップを巡り、図書館でゆっくり読書をするなど、一日かけてじっくりと楽しめるエリアになっています。
このように、駅前の無料駐車場がまちの回遊性を高め、人の流れをつくっていることも、黒磯の魅力のひとつです。
栃木県内の魅力ある街と建物を探訪しています

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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