杉板外壁材からの雨漏り、原因と解決策
今年、お会いしたことの無い3人の方から、壁からの雨漏りの相談を、メールと電話で受けました。相談内容から、外壁材(1次防水面)の種類と外壁材下の透湿防水シート(2次防水面)について、色々と思うところがあるので、ブログにしたいと思います。
雨漏りの原因の1つとして、近年の大雨が考えられるので、その発生回数も調べてみました。
目次
相談を受けた3軒の雨漏り事例
雨漏り相談のうち2人は、新築時に「米杉外壁材」と「杉板外壁材」を使っており、それぞれ築20年と築15年のお宅でした。相談内容は雨漏りと、杉板外壁材の経年変化に対するリフォームについて。
もう1人の方は電話での問い合わせでした。文章が残っていないので記憶が定かではないのですが、築10年以上経過していたと思います。左官外壁仕上げ材である「しらすそとん壁」から漏水しており、新築時の工務店が何度か手直しをしたが、漏水箇所の特定が出来ないので、見て欲しいという相談でした。この「しらすそとん壁」からの漏水相談は、電話で1-2分話した程度なので割愛します。
雨漏り相談が半年で3軒というのも多いですし、屋根からの漏水でなく、全て壁からという特徴がありました。
3者は、「杉板外壁材 栃木」と「しらすそとん壁 栃木」で検索して、当社に連絡したとのことでした。
しかし最初に、3人の相談者には仕事は請けられない旨を伝えて、メールと電話でアドバイスをしました。リフォーム内容には、とても興味があったのですが、コロナ禍に入ってから忙しくて、仕事を請け負う余裕が無かったからです。
雨漏りする場合、新築後1~3年以内に雨漏りすることが殆どだと思う
新築時の施工が悪ければ、引き渡し後1~3年以内に雨漏りすることが殆どだと思います。
その理由は、日本は雨の降る地域だからです。梅雨や台風の季節には、長雨や強い雨もあるので、新築した家は、1年経過すると、様々な種類の風雨を経験します。雨漏り箇所があるとすると、様々な風雨を3年間経験した家は、雨漏りすることが殆どだと思うからです。
ちなみに栃木県の年間降水日数(1mm以上の雨となる日)は、120日程度あるようです。
相談を受けた3軒のお宅は、どれも新築して引き渡しを受けてから10年以上経過して雨漏りになっています。
なので、近年多くなった、横殴りの大雨が関係しており、かつ外壁材と下地防水材である透湿防水シートの劣化が原因なのではないか?と考えました。
新築住宅の雨漏りに対する瑕疵担保責任は、通常10年間
ちなみに、全ての住宅は、2000年に施行された瑕疵担保責任保険により、住宅の構造耐力上主要な部分と、雨水の浸入を防止する部分の設計ミスや、施工ミスによる欠陥(瑕疵)に関して、住宅会社は、10年間の保証責任(瑕疵担保責任)を負っています。
2007年にこの責任の履行のために、修理費用等の資力確保として「保険」もしくは「供託」のいずれかの措置をとることが義務化されました。地域工務店は「保険」を採用して10年間の瑕疵担保保証をしている会社が殆どだと思います。
ただし、3軒の住宅は、新築後10年以上経過してから雨漏りしていると思われるので、10年間の保証責任の範囲外となります。
次は雨漏り相談のあった住宅の外観について考察します。
雨漏りしやすい特徴のある外観であったのか?どこから雨漏りしていたのか?また雨漏りしやすい場所について書きます。
杉板外壁材の住宅、外観の特徴と雨漏り箇所について
当社の問い合わせフォームには、住所を書いて頂く欄があります。グーグルストリートビューで問い合わせのあった住宅の外観写真を見たところ、2つのお宅の外壁材は、米杉外壁材と、杉板外壁材であることが分かりました。
外観は、どちらもシンプルな切り妻屋根で、屋根の軒と妻側もキチンと出ており、平面形状も凹凸の少ないシンプルなものでした。切り妻屋根とは、道路から見て三角形に見える屋根のことです。キチンと勾配の付いた切り妻屋根と、軒と妻側の出た外観は、屋根が傘のようにも感じられる外観で、どう見ても雨漏りしにくい形状でした。
逆に、雨漏りしやすい家の特徴は、道路から見て箱型に見える住宅です。別名「軒ゼロ住宅」。「陸屋根住宅」とも言われており、三角形の屋根が見えない勾配の緩い屋根の住宅で、かつ屋根の軒が出ていない、もしくは軒の出が少ないBOXに見える住宅です。
軒ゼロ住宅が雨漏りしやすい理由として、屋根勾配が緩いと、屋根に落ちた雨水が排出しにくく、屋根は濡れた時間が長くなるので屋根材は傷みやすくなり、軒の出が少ないと、外壁に雨が掛かりやすくなります。そのような外観は、長い目でみると屋根と外壁の総称である、外装が傷みやすくなります。外装材料が傷みやすくなると、外壁下地も傷みやすくなるので、雨漏りしやすくなると考えるのが普通です。
2軒のお宅は、全く逆の「雨漏りしにくい外観」でした。
ストリートビューで築20年のお宅を見たところ、キチンと勾配の付いた屋根を持つ、総二階の住宅でした。総二階住宅は、1階の屋根である下屋が無いため、雨漏り箇所になりやすい「下屋と2階壁の取り合い部」が無くなります。そのため雨漏りがしにくい。比較的気密工事も簡単になるので、気密性能も確保しやすい住宅となります。漏水箇所について話を聞いたところ、ベランダ手摺も杉板の横張りなのですが、その横張り杉板を取付ける、外壁に取り付けたステンレス金物と透湿防水シートの取り合い部から漏水しているようでした。
一方、築15年の住宅は下屋のある建物で、総二階ではありませんでした。しかし、下屋はあるものの、こちらもシンプルな外観の、かなり雨漏りは「しにくい」外観でした。「雨漏り箇所は下屋と総二階の取り合いあたりですか?」と聞いたところ、当たっていました。住宅が好きな人なら、誰もが知る某有名建築家が設計した住宅は、軒と妻側が充分に出た、美しい切り妻屋根が架かっていた住宅で、雨漏りしにくい外観になっていた為、漏水箇所は、下屋と壁の取り合いくらいしか、考えられなかったからです。
2軒の杉板外壁材の住宅の漏水の原因
どちらの住宅も雨漏りリフォームを請け負ったわけではなく、外観をストリートビューで見て、メールで1~2度やりとりしただけなので、漏水の原因は推測です。
漏水の原因は、築20年と15年まで、外装のメンテナンスをしていなかったということなので、建物の杉板外壁材の経年劣化が原因の1つだと思います。
外壁材は1次防水材と考えられますが、自然素材である杉板外壁材は、窯業系サイディングなどと違い、湿気や乾燥などで、伸び縮みしやすく隙間が開きやすい建材です。だから、新築後早々から、外壁下の透湿防水シート面(2次防水面)の上には、雨水が浸入していたと考えられます。
新築後15~20年間は、透湿防水シート上で雨水は外部に排出されていたが、徐々に杉板外壁材が開いて、雨水がより外壁材裏まで回りやすくなり、下地材である透湿防水シートと防水シートを留めている防水テープも経年劣化して、雨水が透湿防水シート下に侵入した可能性があります。
1次防水材である杉板外壁材と、2次防水材である透湿防水シート面の経年劣化が始まり、かつ、近年の横殴りの強い雨が増えてくると、より雨漏りはしやすくなると思います。
また、杉板外壁を取り付けた金物の施工順序も大切で、金物を付けてから透湿防水シートを施工すると、金物部分で透湿防水シートの切断をすることになるので、そうするべきではありません。逆に、透湿防水シートを施工した上に金物をビス留めすれば、穴が開くのはビス穴だけで済みます。透湿防水シートの切断面は無くなりますから、そうするべきです。特に金物が多く付く場合、施工順序を間違うと、雨漏りしやすい箇所が多くなります。
透湿防水シートと金物の施工順序は、大工もうっかり間違いやすい箇所なので、現場監督が事前によく打合せする必要がある、重要箇所だと思います。
杉板外壁材とガルバリウム鋼板外壁材の住宅を、より雨漏りしにくくするためには
杉板外壁材の場合、窓廻りのシーリングを行わないことが多いと思います。また、ガルバリウム鋼板外壁材、特に既製品でなくオリジナルで折るガルバ外壁材の場合は、シールの接着面が薄くなるので、窓廻りのシーリング等が切れやすいことは避けられません。どちらも1次防水材としての性能は低いと考えるべきだと思います。
そのため、外壁材の下に雨水が廻るのは当然のことと考えて、2次防水面である透湿防水シート面で、キチンと防水することが重要。具体的には、タイベックには高さ3mの透湿防水シートがあるので、それを使うと、防水シートの継ぎ目は少なくなります。継ぎ目が少なくなるのは、防水施工では効果的だと考えて、3mのタイベックを使用しています。
また、以下に書きますが、漏水しやすい箇所は決まっているので、職人任せにしないで、現場監督がしっかりチェックと指導をするべきです。ベテラン職人でもうっかり間違うことはあるからです。
ただ、これも監督が全て見ていることは出来ないし、正直にお話しすると、私も難しい箇所は保険会社で出している「透湿防水シート面の納まり事例の教科書のようなもの」を見ながら大工や板金業者と相談して施工方法を決めていいます。特に付加断熱の住宅は、一般の木造住宅と外壁下地が違ってくるので、簡単に施工箇所できない箇所も多いからです。
できれば、窓・下屋・ベランダ等の漏水しやすい箇所が少なくなると、確実に漏水は減ります。漏水しやすい箇所は、無くせるなら無くしたほうが良いと思います。
当社でよく使っている杉板外壁材とガルバリウム鋼板外壁材は、廃盤になる可能性が少なく、
かつ、メンテナンスコストも窯業系サイディングよりも減らせる上に、見た目も普遍的なので、使っていますが、今回の雨漏り相談を受けて、両外壁材は、1次防水材としての性能は極めて低いので、透湿防水シート面での施工をキチンと行う必要があると、改めて認識しました。
外壁の雨漏りしやすい箇所と、その箇所が雨漏りしやすい理由
地面と垂直の何もないフラットな外壁面には、雨漏りは起こりにくいです。しかし、「外壁材が何かと取合う箇所」で雨漏りは起こりやすくなります。
「外壁が何かと取合う箇所」とは、外壁が窓と取り合ったり、下屋(1階の屋根)と取り合ったり、金物と取り合ったり、ベランダと取り合ったりする箇所のことです。
「外壁が何かと取合う箇所」が雨漏りしやすい理由は、外壁材と同じように、その下の透湿防水シートも切断される箇所なので、そこで雨漏りが起きやすくなります。
「取合う箇所」では、透湿防水シートが切断され、その切断される箇所では、例えばサッシのツバと透湿防水シートを密着させるために防水テープを使うことになりますが、その防水テープも経年劣化することは避けられません。何もない壁と比べると、雨漏りしやすい箇所になるわけです。
窯業系サイディングが雨漏りしにくい理由
窯業系サイディングは、施工体制と材料の特徴から、外壁材の中で唯一と言って良いほど、「雨漏りしにくい外壁材」だと思います。
窯業系サイディングの施工体制の特徴は、窯業系サイディングの施工会社が請け負う施工範囲にあります。
最大施工範囲として、透湿防水シートから始まり→通気胴縁→窯業系サイディング施工(シーリング含む)と、透湿防水シートからシーリングまでを一貫して窯業系サイディング施工会社が担当することに特徴があります。※透湿防水シートと、通気胴縁は大工が行うこともある。
窯業系サイディングの外壁材のシェアは現在80%になっており、何と言っても施工棟数がダントツなので、施工慣れしている職人が多いことが、雨漏りしにくい原因の1つになっていると思います。
一方、当社のメイン外壁材であるガルバリウム鋼板外壁材の場合は、透湿防水シートから通気胴縁までが大工が担当して、ガルバリウム鋼板外壁材のみを板金業者が担当し、シーリングは防水業者に依頼しています。最低でも3つの職方が入ります。
ちなみに当社の場合は、付加断熱が標準仕様ということもあり、透湿防水下地木材の状況を知っている大工が、通気胴縁まで行ったほうが、施工がスムーズで間違いが少なくなるから大工の施工範囲が広いという特徴があります。
窯業系サイディングの材料特徴は、厚さが14mm以上あり、窓廻り等のシーリングを施工するのに14mm以上と十分なシーリングの接着面があること。また、シーリングしやすいように表面に凹凸が少ない外壁材だということになります。
窯業系サイディング同士の取り合いは、「合いじゃくり」で漏水しにくい形状であり、窓などの開口部との取り合いは「シーリング」施工で、雨漏りがしにくい。だから、窯業系サイディングは、1次防水材としては極めて防水性能が高い外壁材と言えます。
窯業系サイディングは、雨漏りや耐火性能も含めた初期性能が極めて高い上に、値段も安いので、ローコストビルダーでも採用されることが多い外壁材です。
しかし、窯業系サイディングは、初期性能は高いものの、外壁材の表層の塗膜がダメになると、貼り替えが避けられない上に、廃盤になる可能性が極めて高く、無垢材や石材に似せたフェイクな見た目なので、使わないようにしている住宅会社も多いと思います。初期性能と防水性能が高い一方で、維持管理性能と持続性能は極めて低い外壁材料と言えます。
窯業系サイディングは1次防水性能が高いので、2次防水の透湿防水シートの施工が悪くても、なんとか雨漏りが避けられている家もあるのではないかと想像しています。窯業系サイディングの「軒ゼロ住宅」で雨漏りが発生していないとすれば、サイディング自体の防水性が高いという原因もあると思います。
近年、横殴りの豪雨が多くなっていることが漏水の増えていることの原因の1つと考えられます。次は、どのくらい大雨の発生回数が増えたのか?について書きます。
近年、どのくらい大雨の発生回数が増えたのか?
近年、横殴りの豪雨が多くなっていることが、漏水の増えていることの原因の1つと考えられます。
気象庁のWEBによると、大雨は間違いなく増えています。今までは大雨が少なく、雨漏りにならなかった事態が、大雨の増加により雨漏りになっている可能性があります。
気象庁のWEB によると、大雨の年間発生回数は有意に増加しており、より強度の強い雨ほど増加率が大きくなっています。
1時間降水量80mm以上などの強度の強い雨は、1980年頃と比較して、おおむね2倍程度に頻度が増加しています。
ちなみに1時間の降水量80mm以上の雨は、車の運転が危険になるほどの雨であり、息苦しく恐怖を感じるような雨です。
以前と比べて、猛暑日はどのくらい増えたのか?
ちなみに、猛暑日はどれくらい増えたのか?も調べておきます。気象庁のデータを見ると、猛暑日も確実に増えています。
表は、全国(13地点平均)の最高気温35度以上の年間日数。最近30年間(1993~2022年)の猛暑日の平均年間日数(約2.7日)は、統計期間の最初の30年間(1910~1939年)の平均年間日数(約0.8日)と比べて約3.5倍に増加しています。
当社で使うことの多いガルバリウム鋼板外壁材は、0.4mm以下と薄い鋼板であり、温度変化を受けやすく、熱で伸びる外壁材です。当社で使うことが多い、自然素材である杉板外壁材も、雨により水分を含むと膨らんで、乾燥すると縮む外壁材。
少なくとも、猛暑の熱により外壁材は延びたりして動きやすくなるから、外壁材とサッシの取り合い等のシーリング(ゴムのように見える防水材・仕上材)は切れやすくなり、シーリングが切れると、雨水は外壁材の裏側に侵入しやすくなります。
逆に窯業系サイディングは、セメント質原料と繊維質原料の混合材料であり、外壁材の厚さも14mm以上が普通なので、窓廻り等のシーリング厚さも14mm以上確保できるので、キチンと接着しやすく、セメント系なので暑さによる変化が少ない、初期性能は極めて高い材料であると言えます。
以下のリンクは、窯業系サイディングについて、分かりやすく書かれています。
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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