2019-12-20
住宅設計

氾濫した田川の今後の治水対策について、栃木県土木事務所の方に話を聞きました

台風19号直後の田川

先日マンツーマンに近い形で、1時間程度、栃木県宇都宮土木事務所の方に、台風19号で氾濫した田川の、今後の洪水対策(治水対策)について、お話しを聞きました。

 

今日のブログは、台風19号で氾濫した田川の、今後の治水対策について書きます。

 

私を含め台風19号で被災した方達にとって、今後の治水対策は特に関心の高いことだと思います。

 

天災とはいえ、栃木県で管理している田川が氾濫して、多くの住民が水害にあっているので、被災した住民が、これ以上自らのお金や時間を費やして何かをするという前に、行政に根本的な水害対策をしてもらうのが妥当だと思います。

 

現在の田川は、72年前の「カスリーン台風」クラスの台風が来ても、洪水にならないという設計だった

現在の田川の設計は、72年前に起きた「カスリーン台風」で洪水にならないという設計であり、今回の台風19号はそれ以上の規模であったため、洪水になってしまったとのこと。

 

カスリーン台風70年の特集サイト

 

田川は、平成27年の豪雨時も、あと数十センチで洪水になりかけた。

 

近年、大型台風が発生する周期は短くなっている傾向なので、洪水になる可能性も高くなっており、根本的な治水対策が必要だと考えるのは普通のこと。

 

田川の洪水で水害にあった自治会(町内会)は行政に陳情書を出している

なぜ、土木事務所の方が当社まで来てくれたかというと、陳情書に対する説明のためでした。

 

水害にあった近隣の各自治会は、自治会長が町内の被害状況を取りまとめて、今回の台風被害の陳情書を宇都宮市役所に提出しています。

 

その陳情書が宇都宮市を経由して栃木県のほうに廻り、担当の方が、自治会長をしている私の父まで現状の説明に来てくれたので、私も一緒に話をお聞きしました。

 

宇都宮駅周辺で田川の水害に合った押切(おしきり)・小袋(こぶくろ)・千波(せんなみ)の各自治会からは、陳情書が提出されています。

 

陳情書の内容は、田川の氾濫による各ご家庭の被害状況と、田川の洪水対策として、例えば防水壁を造って欲しい等の要望が書かれたものです。

 

私の家は、床上浸水35㎝だったので、被害状況を陳情書に書きました。

 

現在、氾濫した田川は、大きな重機が川に入り、川底の砂利を取り除く、短期的な洪水対策が始まっていますが、根本的な対策はこれから考えるとのことです。

 

県の担当の方は、話せる範囲で丁寧に説明してくれました。

 

田川の治水対策(氾濫させない対策)は主に5つ

田川の管理をしている県の担当の方に話を聞いたところ、田川の洪水対策は主に5つ。

 

お聞きした洪水対策は国土交通省が出している治水対策とも合致していました。

 

キーワードは川の水位を下げること。

1.川底の砂利を撤去して流量を多くして水位を下げる。

 

短期的な手法で、現在既に始まっている。効果は多少あるが、また堆積するので短期的な方法である。一番お金の掛らない方法だが、大規模に行う場合は相当お金が掛る。何年かに1度、規模は小さいが川底の砂利撤去は行ってきたとのこと。

 

2.防水壁を造り(築堤)、水の流れる断面を大きくして水位を下げる。

 

私の住む押切自治会と他の自治会が陳情書に要望したのもこの方法。現在のアルミ縦格子の手摺を、コンクリートの手摺に造り替えることを提案していた。

 

治水対策の中では、比較的お金の掛らない方法。

 

ただし、川が氾濫しないように防水壁(築堤)を造ると、逆に雨水が川に流れなくなるので、内水氾濫する危険性が高まるとのことです。防水壁により氾濫は無くなるが、市街地に降った雨水が川に流れにくくなり、地中の排水管が整備されていないと、市街地が洪水になる可能性が高まる。

 

内水氾濫とは、市街地に降った雨が、短時間で排水路や下水管に一挙に流入し、雨水処理能力を超えてあふれる、あるいは川の水位が上昇して雨水をポンプで川に流せずに、市街地の建物や土地、道路などが浸水することを言う。

 

「台風19号 内水氾濫」で検索したところ、堤防(防水壁)による内水氾濫の被害は都市部を中心に起きている

台風19号の建物浸水被害、6割は「内水氾濫」原因…排水能力オーバー

 

「川に防水壁を建てる場合は、内水氾濫しないように、土中にある排水路や下水管を太くする必要があるだろう」とのこと。排水路や下水管は宇都宮市の管理区分。

 

県と市で管理区分が違う上に、排水路や下水管をやり直すのは、時間とお金が、かなり掛かりそうである。

 

3.川幅を広げて、断面を広くして水位を下げる。

田川の表側の遊歩道を無くして、川幅を広げるという案も出ている。

 

しかし遊歩道を無くすと、その上の擁壁まで崩れるので、全面的に護岸工事をやり替える必要があるとのこと。

 

4.川底と川幅を掘削して水の流れる断面を大きくして水位を下げる(河道掘削)。

一番良い方法と思われるが、上記のことがある上に、川底を掘り下げると、川底から建っている橋の基礎を深くする必要もあり、一番お金が掛かりそう。

 

5.遊水地を造る。

遊水地を造っておき、洪水になりそうな場合、遊水地で一時的に水を貯めて、川の水位を下げる方法。「遊水地を造れそうな広大な土地があるのですか?」とお聞きしたところ、無いとのことでした。

 

国土交通省が出している治水対策はこちら。上記の絵はこちらからお借りしました。

 

治水対策も住宅建築と同じで、メリットがあればデメリットがある

堤防を築けば氾濫は防げるが、内水氾濫の恐れが高くなる。というメリットとデメリットがある。

 

より根本的な解決をするほど、お金もかかる。

 

また、田川を含め河川は下流で他の川に合流するため、田川で流せる流量は決まっている。

 

田川だけ多くの流量にしてしまうと、接続する川が溢れる可能性が高くなるので、自分の地域だけ良ければOKとはならないのだ。これは河川の原則であるとのこと。

 

住宅建築も何かを選択すると、メリットとデメリットが発生するのは同じである。

 

例えば、壁や天井に塗る珪藻土や漆喰は、クロスよりも質感が高く見た目も良く、湿気を吸放出したりするというメリットがある反面、湿式なのでひび割れが発生しやすく、手間が掛るので値段が高いというデメリットがある。下地や他の建材とも、密着するからその影響も受ける。

 

治水や住宅建築に限らず、「モノとコト」には全て良い面と悪い面があり、その関連個所から影響を受けるのは、当たり前の話である。

 

昨日、土木事務所の方に治水の話を聞いて、それを再度意識した。

 

土木事務所の方の話では、栃木県のweb等で、水害を発生させた河川の治水対策について、情報発信していきたいとのことです。

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

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