家を建てるよりも大切な擁壁の話
今日は家を建てるよりも大切な「擁壁」の話です。
「擁壁」の必要な土地の場合、せっかく「地震に強い家」を建てても、「地震で倒れてしまうような弱い擁壁」を造ってしまったり、「既に建っている擁壁が脆弱だと」、擁壁が倒れて家も傾く可能性があるので、ある意味「家を建てるよりも擁壁を建てる方が大切」なのです。
SH-houseでは「大地震対応型の大臣認定擁壁HDウォール」を施工し、大地震でも擁壁が倒れる可能性が極めて少ない安全・安心な宅地にしました。家は耐震等級3を確保した上で、制震ダンパー「evoltz(エヴォルツ)」を設置します。
今日のブログでは、いまだ施工例の少ない「大地震対応型の大臣認定擁壁HDウォール」の施工写真とコメントも付けましたので、ご覧ください。
擁壁とは何なのか?
擁壁とは、隣地と高低差のある土地の場合に、主に高い土地側の所有者が建てる土留めのことで、コンクリートで造られているものが多いです。
土が崩れないで安定している時の、土の斜面の角度を「安息角(あんそくかく)と言いますが、その「安息角」を超える高低差を地面に(擁壁の場合は敷地同士に)設けたいときに「擁壁」が必要になります。
低い擁壁でも「大地震対応型の大臣認定擁壁HDウォール」にしておくのが安心
新築工事中のSH-houseでは、「擁壁下にマイコマというコマ型の建材を使った地盤改良工事」をして、地盤自体を強くしてから、「大地震対応型の大臣認定擁壁HDウォール」を施工しました。HDウォールを施工するときは、地耐力の規定があるので、かなりの高確率で地盤改良工事をしてから、HDウォールを設置することになります。
HDウォールは、宅地造成等規制法施行令第14条の規定に基づき、国内初で、震度6~7の大地震に対応した大臣認定擁壁です。地震に強い家と共に、安全で安心な宅地を造る為の擁壁です。
高さ2m以下の擁壁は、法的規制が無いので、土地を売る不動産会社、擁壁を建てる土木業者、そこに家を建てる住宅業者も、今までの経験から、なんとなく擁壁を建てているのが現状です。
宅地防災マニュアルにおいては「一般的には高さが2mを超える擁壁については、中・大地震時の検討を行うものとする」とされています。 HDウォールは高さによらず、すべて大規模地震相当の検討がされているものであり、安全・安心に使用できるものとなっています。
できれば擁壁のある土地は、買わないのが無難
栃木県内に多い大谷石の既存擁壁は、材料自体が柔らかく、かなり劣化しているものも多いのでさらに注意が必要で、特に2mを超えるものや、擁壁と建物が近い敷地は買わないほうが良いでしょう。
擁壁が倒れると、建物が傾く可能性があり、擁壁が傾いてしまうと、新築時に施工した、建物下の杭などの、地盤改良工事の保証もなくなることが多いので、注意が必要です。
最初に書いておきますが、新築や中古住宅を買うために土地を買う場合、擁壁を建てなければならない土地、もしくは既存擁壁が建っている土地は、できれば買わないほうが良いと思います。
その理由は、擁壁を造るのは、数百万~数千万円等の多額の費用が掛かることがあり、家の建築にお金が掛けられなくなる可能性があります。また、既存擁壁が建っている場合も、その安全性を確認するのは難しい場合が多いからです。
私が擁壁のある土地に慎重になる理由
私が擁壁のある土地に慎重になる理由は、東日本大震災の時に、新築工事中の家の、既存擁壁が傾き、家も傾いてしまったからです。
当日は、その現場に居たのですが、物凄い揺れに驚き、作業を中止して職人達を帰らせました。現場の進捗状況は、大工工事も終盤で、石膏ボードが貼り終わるころでした。
翌日、大工が床のレベル(高さ)がオカシイと言い出して、室内の床高さを計測すると、床が傾いていました。それも建物全体で50mm以上も傾いていたのです。
当時、沈下修正工事という特殊な工事があることを知らなかった私は、「せっかく建てた家を解体することになってしまう。これから大変なことになりそうだ。」と計測した時に、何度も身震いしたのををいまだに思い出します。
施主が買った敷地は、約2.6mの既存二段擁壁の上に建つ、非常に見晴らしの良い敷地。下が大谷石の擁壁1.5mで、その上に工場生産のL型擁壁1.1mの既存擁壁が建つ敷地で、開発の許可も降りていました。擁壁を造ったのは地元の不動産業者です。
当社では、擁壁を崖地として考え、擁壁から建物を離して建築したのですが、脆弱な擁壁だった為、東日本大震災では擁壁のコーナーが口を開いて傾き、擁壁から約23m離れた、道路に近い建物の駐車場部まで、建物は傾きました。擁壁から23m離れた地点は、盛り土であったとしても完全に安息角に入っています。通常は安定していると考えられる場所の土まで沈下したので驚いたのですが、擁壁の倒れが関係していることは間違いないと思います。
地震後の擁壁の変化は、工場生産のL型擁壁の天端のコーナーが10㎝開いた程度でしたが、建物は最大で51mmも傾きました。建物と擁壁の間の表土は凸凹になり亀裂も入りましたし、敷地の土が表層からは見えにくい部分でも擁壁側に流れたのだと思います。
建物の沈下修正工事は、専門の職人を10人近く東京から呼んで長期間近くに宿泊してもらい、アンダーピニングという、人がモグラのように建物の下に入り込んで、鋼管杭を支持層まで圧入して行う特殊な工事で元に戻し、擁壁もコンクリート製に造り直しました。
施主は多額の費用と時間と心理的負担がかかり、私も時間と費用と心理的負担を被ったので、両者大変だったのです。連続した擁壁だったため、基礎が完成していた隣地の大手ハウスメーカーも傾き、基礎は解体されて造り直しになりました。
2m以上の大谷石擁壁ある敷地は更に注意が必要
別のお宅ですが、大震災前に3m以上の高さの大谷石の既存擁壁の上に建つ、中古住宅を買って大規模リフォームしました。しかし、大震災とその後の度重なる地震で、大谷石の擁壁が孕んで(はらんで)しまいました。
この場合の「孕む」とは、大谷石同士のジョイント部である目地に亀裂が生じ、膨らんでしまい、擁壁面が、何か所もで出っ張った状態です。
東日本大震災を経験して感じたことは、擁壁のある見晴らしの良い敷地は(信頼性を確認できない擁壁の場合)、大地震が起きた時に、眺望の良さと引き換えに、何らかの不具合の可能性があるということです。
高い大谷石擁壁のある敷地に、大地震が起きたのは東日本大震災が初めてだったため、住宅業界人でさえ、高い大谷石擁壁の脆弱性をキチンと認識していなかったというのが、現状だと思います。
SH-houseの敷地に以前建っていたブロック塀擁壁は、隣地にはみ出して倒れていた
SH-houseの敷地は、東側隣地と最大で590mm高低差があり、擁壁の長さは約28M。施主の敷地のほうが隣地よりも高くなっているため、敷地の土が隣地に行かないように建物を建てる前に擁壁を造る必要があります。
以前、この敷地に建っていたお宅のコンクリートブロック擁壁は弱く、土の圧力で写真のように、隣地側にはみ出して倒れていました。弱い擁壁だとこのような状態になります。
擁壁の造り方は2種類
擁壁の造り方は、工場で造られた既製品のL型擁壁をトラックで持ってきて地盤を掘って並べて緊結する方法と、現場で型枠を組んでコンクリートを打設する方法の2種類です。
既製品のメリットは工場生産されるので、コンクリートの品質が天気や気温等に左右されずに均一になりやすいこと。既製品は多くの場所で使われており実績があること。また工期も早いので、コストメリットもあると考えて、既製品のL型擁壁で考えました。
既製品のL型擁壁は主に2種類
最初、鹿沼市に工場のある擁壁製造メーカー、三和コンクリート工業株式会社栃木営業所の佐藤所長に相談したところ、既製品のL型擁壁には2種類あると説明を受けました。
1つが「一般道路用擁壁のSC-LⅡ」もう1つが、「大地震対応擁壁のHDウォール」です。
HDウォールは、東日本大震災の後に出来た、大地震対応型の擁壁であり、値段が高いため、いまだ一般住宅地では、あまり使われていないのが現状とのことでした。
高さ2M以下の宅地用擁壁の場合「大地震対応擁壁のHDウォール」は、まだほとんど使用されておらず、一般道路用擁壁を使っているのが現状のようです。
ただし、「大きな地震が来た時に耐えられる可能性が高い擁壁は、どちらか?」と考えると、「大地震対応擁壁のHDウォール」の1択であり、施主にも大地震対応擁壁をおススメしました。
2つの擁壁の厚さや構造にもかなりの違いがあります。
ちなみに「大地震」とは震度6~7の地震のことですから、震度6~7の大地震にも耐えられる可能性のある頑強な擁壁だと言えます。
後述しますが、この「大地震対応擁壁のHDウォール」を設置できる場所の地耐力(地盤の強さ)は規定されており、規定に達しない地耐力の場合は、擁壁下の地盤補強も行い、強い地盤にした上で、頑強な擁壁が設置されることになります。
地盤の専門家にも意見を聞いた
住宅業界では、擁壁が倒れて家も傾いてしまったという事例も多いので、擁壁の選定と施工に当たっては、地盤の専門家にも意見を聞いた方が良いと思い、研修会で知り合った㈱ソイルペディア 佐藤社長経由で地盤の専門家である出頭(でがしら)さんに相談しました。
擁壁を造ったり、擁壁のある敷地に建物を建てるのは、施主はもちろん、住宅会社にとってもかなりリスクがあるので、慎重に考える必要があります。
「大地震対応擁壁のHDウォール」にして、擁壁埋め戻しも、再生砕石で密実に行うことに決定
ザックリと擁壁と建物の位置を説明すると、SH-houseの擁壁は敷地の東面に築造されました。敷地の東西幅が狭くて、その間に建物が配置され、西側の道路斜線もかかるので、建物をこれ以上西側に配置するのは無理で、擁壁と建物が近くに配置されますから、建物基礎は「安息角」には入っていません。
しかし、安息角自体は擁壁の地上面に、住宅を新築するなどして、新たに荷重負担が増した場合、側方圧が増して、崩壊の危険性を回避するための措置ですので、擁壁の剛性が担保されているものでしたら安息角は基本的にありません。
ということで、今回の既製擁壁で言えばHDウォールで擁壁の剛性を担保するか、もしくは、建物の基礎を深基礎もしくは杭を打って安息角内に建物基礎を入れた上で、「一般道路用擁壁のSC-LⅡ」で土留めをするの、どちらかが良いのではないかという出頭さんの意見でした。
どちらにしても、土留めは必要なので、HDウォールで擁壁の剛性を高めた上で、擁壁上の埋め戻しを再生砕石等で密実に行い、建物基礎は深基礎にせずに通常基礎のままで良いのではないではないかという提案を施主に行い、採用になりました。
住宅部分の地盤改良は必要無しなのに、「大地震対応擁壁のHDウォール」の地盤改良は必要
SH-houseで使った「大地震対応擁壁のHDウォール H1200」を設置する場合の地耐力は、住宅のベタ基礎を設置する場合の3倍以上の地耐力が必要なため、マイコマという独特な建材を使った地盤補強工事を行い、擁壁下の地盤を頑強にした後でHDウォールの設置をしました。
「大地震対応擁壁のHDウォールH1200」を設置する場合、64KN/㎡以上の地耐力が必要でしたが、30KN/㎡程度の地耐力であったので、マイコマという部材で地盤補強を行い75KN/㎡程度の地耐力を確保してから、「大地震対応擁壁のHDウォール」の設置を行いました。
住宅のベタ基礎は20kn/㎡の地耐力があれば地盤補強することなく基礎を造ることが多いので、64KN/㎡以上の地耐力が必要となると、住宅の3倍以上の地盤の強さです。そのくらい頑強な地盤でないと、この擁壁は設置できないことになります。64KN/㎡程度以上の地耐力があることは少ないので、この「大地震対応擁壁のHDウォール」を設置する場合は、かなりの高確率で地盤補強工事もセットで必要となります。
「大地震対応擁壁のHDウォール」は、非常に頑強な地盤の上に設置されることが規定されており、かつ擁壁自体も頑強なので、震度6~7の大地震に対しても、擁壁が倒れる可能性が少なく信頼性が高いということになります。
ちなみに、擁壁業者に聞いたところ、一般的な「一般道路用擁壁」を宅地に使う場合、地耐力も確認されないままで建てられていることが、ほとんどとのことです。
「大地震対応擁壁のHDウォール」の施工法を連続写真でご紹介
1. まず、「やり方」という木材に記した目印に合わせて、擁壁部の地盤を掘削します。赤で染められている木材が「やり方」で擁壁の位置と高さを表す仮設物です。
2. こちらが、地盤改良工事に使うマイコマ。コマの形をしており何となく可愛らしいです。直径500mm×高さ600mm。普通のコマのように廻そうと思いましたがw、重くて1人では持てません。
3. このようにユニックで吊って現場に搬入しました。人と比べると大きさが分かります。
4. マイコマを擁壁下に設置して地盤を強固にします。マニュアルに沿って綺麗に整列させ、高さも統一します。5. マイコマ同士の隙間に、密実に砕石を突き入れて転圧。マイコマが強い地盤の代わりになります。造っていて頑強なのが分かる仕様です。
6. 大地震対応擁壁HDウォールの下は、このようになっています。マイコマ廻りの砕石を「突き棒」と「水締め」で充分に密実にしてから、マイコマ上部の金物に鉄筋を緊結します。
7. 擁壁基礎コンクリート打設。
8. 擁壁基礎コンクリート打設完了。養生期間を置いて「大地震対応擁壁のHDウォール」が設置できる頑強な地盤が出来ました。擁壁工事よりも、頑強な地盤を造るマイコマ工事のほうが、何倍も時間が掛ります。
9. こちらが「大地震対応擁壁のHDウォール」。 「一般道路用擁壁のSC-LⅡ」と比べると、立上りは30mm厚く頑強。擁壁工事会社の社長に聞いたところ「大地震対応擁壁のHDウォール」及び「マイコマ」の施工は初めてだそうです。それだけまだ、一般的ではないのだと思います。「道路用擁壁と比べると、頑強さが全然違う」とのこと。
10. HDウォールをコンクリートの上に並べて、金物で緊結し、砕石を高さ200mmごとに転圧して、密実に埋め戻しします。
11. 「大地震対応擁壁のHDウォール」完成です。大地震が来てもこの宅地は守れると思います。
大地震対応、大臣認定擁壁「HDウォール」のよくある質問FAQ
https://www.hokukon.co.jp/business/development/de03_01.html
最近、建築本はこの2冊を買いました。
特に中村好文さんの本は、プランが確定するまでの経緯が詳しく書かれてあり、参考になりました。
売り切れが続いていた漫画がやっと届きました。第1巻は主人公のやくざが、組織の金をネコババした会計士を追うストーリー。どんでん返しの連続で秀逸。映画化されそうな予感。
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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