北海道の地域工務店と建築家が創った、「小さめでカッコイイ高断熱住宅」の住宅展示場を見学してきた
7/19木曜日、日帰りで北海道に住宅展示場の見学に行ってきました。
場所は札幌市内から高速で35分くらいの農業の町、南幌町。「みどり野きた住まいるヴィレッジ」と名前が付いています。
この住宅展示場は、北海道庁住宅局によって企画され、6社の地域工務店と6人の地元建築家の協働で創られた、6つの住宅が建っています。今回はそのうち5軒の見学が出来ました。
平屋あり2階建てあり、意匠も家の大きさも様々ですが、寒い冬の北海道でも快適に過ごせるハイスペックな断熱性能の家になっている。
もちろん、高いのは断熱性能だけではない。
長く暮らせる建材の選択や、少子高齢化に適応した小さく豊かに暮らす工夫が盛り込まれた、持続性と意匠性も高い住宅の展示場になっています。
6軒の平均延床面積を計算してみたら36坪程度(吹抜けを入れるともっと広い)。ハウスメーカーの住宅展示場より小さく現実的で、展示後は売りに出される。非常にクオリティの高い住宅が安めの値段で提供されるので、札幌近隣で家を建てる方は見ておくべきだろう。
当日だけでも、全国から100名以上の住宅建築のプロやマスコミが集まったことからも、注目の高さが伺える。
プロの注目が高い理由は、日本の高断熱住宅の発祥地であり・中心である北海道の住宅であること。また高断熱住宅と意匠性の両立している様子を見たかったからです。
自分の考えを整理するために、気が付いたことを箇条書きにしてみます。
きた住まいるヴィレッジの住宅展示場見学会に、100名を超える設計者・施工者・建築マスコミが集まった理由
この20年、住宅業界の一番の革命は高断熱住宅(住宅の高断熱化)でした。高断熱住宅にすることで、冬と夏の住み心地と燃費が驚くほど上がった。
私の住む宇都宮市の場合、キチンと断熱性能が担保されている家なら、真冬でも30坪程度の家はエアコン1台のみで半袖で暮らせるようになる。その現実を確認できたことは、造り手である私が一番驚いたことだ。
また、高断熱住宅は間取りも大きく変えた。
それまでの家は、大きな吹抜けを設けると冬寒くて仕方なかったが、高断熱住宅にすることで、むしろ吹抜けはマストアイテムになった。
例えば、Q1.0住宅と言われる超高断熱住宅に吹抜けを設けることで、家全体がワンルームに近くなり、家の隅々まで暖かくなるからだ。
冬は家の隅々まで暖かく、夏も日射遮蔽すれば家の隅々まで涼しいことは、小さな家でも広い家として使えるということである。
逆に、大きな家でも断熱性が低く寒ければ、暖房している部屋しか使えないので、それは「大きいけれど、狭い家」となる。大きな家は、外壁塗装等のメンテナンスコストも高額になる上に、寒い家だと暖房している部屋しか使えない。これはとても不経済な家だ。
高断熱住宅は室内の温度差が少ないので、北側にLDKを設けたりできて平面的な間取りの自由度も上がる。今までの寒い住宅なら、LDKは暖かい南面に持ってくるのが普通でした。
快適な上に光熱費も安くなるし、小さな家でも隅々まで広く使える上に、分厚い断熱材で囲まれた住まいは、外部の騒音が入りにくいので、とても静かでよく眠れるようになるのも高断熱住宅の利点。
冬はどこでも暖かいのでヒートショックになる可能性が極端に低く、夏も本州ではエアコン1台程度でどこでも涼しい。だから室内で熱中症になる心配も低い。
高断熱住宅は、コスパが高い健康住宅と言える。
高断熱住宅の日本の発祥地は、一番寒い北海道であり、全国の高断熱住宅を志す設計者と施工者は、北海道の住宅を手本としている。だから今回100名を超える住宅の専門家が集まったのだ。
長く、丁寧に暮らせる家とは、家族数の変化に対応できて、長期使用できる仕上げ材で造られた、小さめの家
住宅展示場の基本コンセプトの1つが「長く、丁寧に暮らす」。
それぞれの住まいは、子供が巣立ち家族数が減ることに由来する、暮らし方の変化に将来対応できるように、間取りの変更や増築のしやすさなど、長く住み続けられる工夫が施されていた。
内・外装の仕上げ材は、大手ハウスメーカーの住宅のように、いずれ廃盤になって交換できなくなったり、接着剤の寿命が来ると表面の木目シートが剥がれるような新建材は採用されていないのも、大きな特徴だ。
工務店や建築家の見せ場は、やはり無垢材と造作部材の使用にある。
地域の無垢材と地域の職人による造作建具、家具で造られているので、年月を経るほどに味わいが増して、修理も効きやすく長く使えるのも手作り系工務店住宅の利点。
地産地消の住宅は、修理が効きやすいので更新性が高く、新建材住宅と比べると基本的にリフォームコストは下がる。
しかし、無垢材や造作建具は長持ちして更新性も高いのですが、イニシャルコストは上がるので、全国的には新建材の仕上げ材を多用している工務店や設計事務所が多いのが現実です。
また冬の北海道は、北欧のように早く暗くなるので、室内で快適に過ごせる配慮がなされる。その代表例として、玄関と繋がった多用途に使える広めの土間空間や、美しい建築化照明(間接照明)が印象的でした。
この、長く丁寧に暮らせる住宅群は、展示場として使われた後、一般販売されます。
建築家の設計コンセプトのプレゼンの後に住宅見学できたので理解しやすかった
このプロジェクトのリーダーである武部建設 武部社長の意向で、住宅を見る前に各建築家から設計コンセプトの説明があり、住宅を見学した後に意見交換をするという段取り。最初の説明は見学者と感想を意見交換したいとのことで設けられたプレゼンタイム。
かつ見学には工務店経営者と建築家も同行し、質問応対してもらえたので充実していました。
ただ、非常に内容の濃い住宅群だけに、プレゼンや見学のタイムスケジュールが押してしまい、見学後の意見交換まで出来ずに終了したのは残念でした。見学者の感想や質問、それに対する造り手の意見も聞いてみたかった。
小さく豊かに暮らす家のメリット
もう1つ共感した基本コンセプトが「小さく豊かに暮らす」。
頂いた小冊子には、「心理的な広さのある住まいと暮らし」とある。
北海道のような土地の広い地域で、「小さな家に暮らす」というコンセプトは一見すると意外である。
しかし、少子高齢化が全国的に進んでいること。高断熱住宅なら30坪程度の家でも家族4人が家の隅々まで広く使えることを考えると、小さめの家に暮らすことは、時代の流れに沿うと言える。
外装メンテナンス等のリフォーム費用も、新築同様、基本的には「施工面積×単価」で算出されるので、大きな家にしないほうがリフォーム費用も安く済むし、これらの住宅のように、新築時に良い仕上げ材で造られていれば、リフォーム費用も安いのです。
ちなみに6軒中5軒に、外壁材として無垢の木材が使われている。更新性が高くメンテしながら長く使えるからだ。
木造のカーポートは、格好が良く利便性が高い
6軒中5軒の住宅に、車をすっぽりと覆う木造のカーポートが付いていた。車社会であり、かつ雪の多い北海道では、車庫に屋根が無いと、毎朝車に雪が積もってしまい大変なのだ。出勤時に車に雪が積もっていないことは、非常に重要である。
雨の中、車で買い物等から帰ってきて、荷物を持って直接濡れずに家に入れる構造は利便性が高い。また木造のカーポートに、1~2畳の物置も付いているとさらに使いやすい。
木造で、木の質感を出したカーポートは植栽の緑と合っている。この木造カーポートと植栽があるだけで、家は素敵に見える。
それに対して、本州のカーポートは、ほぼ100%既製品のアルミのカーポートである。アルミカーポートは、手作り感のある木造カーポートと比べてしまうと、判で押したような画一感が残念に感じる。
建物に車庫を組み込んだインナーガレージ住宅は何度か造ったことがあるが、無垢材の質感を生かした、木造の屋根付きカーポートは、まだ造ったことが無いので早めに造りたいところだ。
半屋外的な玄関土間空間は多用途に使える
見学出来た5軒中3軒で、各種作業や子供の遊び場としても使える大きな玄関土間があった。玄関土間とは、床がタイル等になっており、外部と接している半分屋外のような空間のこと。
雪が多く、早く暗くなる北海道では、温暖地域のように外に居る時間が少なくなるので、北欧と同じように室内で快適に暮らす文化進んでいる。
半屋内的玄関土間もその1つだ。
暖房は温水式床下暖房
夏のエアコン冷房が必要ない北海道の住宅では、エアコン暖房という選択肢はなく、5軒中4軒が、ガスを熱源とした温水式床下暖房であり、同じボイラーを使っていた。
シンプルなのが採用理由だと思う。
換気システムは、第一種換気ステムでなく自然換気+補助的に第3種換気と、ダクト式第3種換気が半々。
第一種換気システムは、給気・排気とも機械換気で強制的に行う換気方法で、機械換気の中で最も確実な給気・排気が可能だが、機械に頼らない、よりシンプルな換気システムが志向されている様子。
素晴らしい5軒の住宅の中でも、特に印象的だった2軒の住宅が、「てまひまくらし」と「南幌まちなかの家」なので、今後の自分の設計に生かすために感想を書いておく。
「てまひまくらし」は、配慮が行き届いた武骨な美しさのある住宅
てまひまくらしは、4間×4間の真四角な合理的間取りに、1階は玄関土間、2階は広いバルコニーが出っ張りとして付いた平面プラン。
1階のキッチンを中心とした回遊できるプランはとても広く感じた。正方形の間取りはキッチン→洗面→トイレ→ダイニングと、ぐるりと回遊できるようになっており、歩くごとに引き戸を開けたりして場面展開するので、とても広く感じるのだ。
絞って配置された窓や、間仕切り壁の一部を開口にしていることや、スケルトンの階段で「効果的に視線の抜け」を造っているのも広く感じさせるコツ。
階高(1階と2階の高さ)等の高さ寸法も、かなり検討したとのことで、使いやすさと安全性は室内の落ち着きに直結している。
建物を低くすることで、階段の蹴上寸法(1段あたりの高さ)が17.5㎝になっていたが、とても昇降しやすい。
階段が昇降しやすいということは、安全性が高いということであり、昇降にストレスがないことは室内を広く使えることと同じである。結論として「階段が昇りやすい家=広く使える家」だと分かった。踏面寸法(ふみづらすんぽう:階段の足が載る部分の奥行)測り忘れた~残念。とても昇降しやすい階段でした。
階高を調整して低めにしたことは、外観のシルエットの美しさにもつながる。ハウスメーカーのCMでは天井高の高い家が良い家だと謳われるが、全て部屋の天井が高い家は、室内にいると全く天井が高いと感じない、光熱費の掛かる残念な家である。人は天井の高低差により高さを認識するからだ。
また、玄関は玄関ドアでなく、引違いの大きな窓に鍵が付けられていた。玄関ドアでなく玄関窓から入る仕組み。玄関窓を入ると正面にも大きな引違窓があり、土間はタイル。LDK側には障子の引き戸が左右に2枚。開放的でゆったりと感じてしまうのはこういう「しつらえ」があるから。この真四角より突き出た部分も効いている。
玄関前の木製ベンチは、2階の屋根の下になっているので、不在時に宅配便が置ける他、花台、子供達の遊び場と多用途に使えるスペースだ。
2階の夫婦寝室は屋根勾配なりの天井。外壁側の低い部分は1.5M。勾配天井で、かつこれだけ低い部分があると、落ち着きと開放性を両立できる。同じ空間に高低差があると、非常に広く感じる。
「これは便利!」と思ったのは、1階の洗面脱衣室の天井を吹き抜けにも出来ること。2階の個室から洗濯物が落とせる仕組みだ。普段は1階の洗面脱衣室の天井は格子になっており天井があるが、2階側から格子が簡単に開閉できる仕組みになっている。そのスノコの丁番を畳んで開閉すると2階から洗濯したいシーツや衣類をそのまま投げ落せる。
1階は人が回遊できるし、2階と1階は洗濯物まで立体的に回遊?できるように設計されている。2階は、夫婦寝室以外は間仕切りが無く簡単に仕切りが造れるようになっていた。
工務店の設計者等が、有名建築家の設計を真似たような住宅は、とにかくディティールや外観や建材を真似しようとしており、その部分ばかりが目についてしまうのか「薄っぺらく本質的でない」と感じてしまう。
しかしこの住宅は、「住まい手が実際に住んでいるのではないか?」「今にも施主が帰ってきそうだ」と感じさせる建築家の想像力を感じました。実際に住んでいる家にお邪魔させてもらっているように感じてしまうほどシックリくる住宅。これが本質的だと感じる原因だ。
そう感じてしまうのは「生活を想像するという本質的でオリジナルな配慮」が、設計として各所に現れているから。
配慮が行き届いており、かつシンプルで武骨な美しさもある住宅でした。
木造の屋根付きカーポートあり。
設計:アトリエmomo
施工: 武部建設
「南幌まちなかの家」はバタフライ屋根と縦貼りの木製外壁材が印象的
バタフライ屋根と縦貼りの木製外壁材の外観は、住宅展示場のランドマークになっている。
その特有な屋根形状は、屋根から雪を落としにくくする機能性と地域性から生まれたカタチ。バタフライ屋根は、北海道に多い特有な屋根形態とのこと。
ただし、バタフライ屋根の設計施工のポイントを知らない本州人が、格好だけマネをすると、痛い目にあう典型だと思った。普通の屋根は雨水を外壁側に落として処理するが、バタフライ屋根はその逆で、雪を屋根に溜める形であるから、知らないでやると漏水しやすい。
雪の多い北海道でも屋根の恩恵を受けて暮らせる「半屋外空間」も充実している。ベランダにもきちんと屋根が掛かり、2階LDKはより広く使える。また、ベランダに繋がる大きな窓の外側にはローコストの電動日射遮蔽材も付いている。屋根付きカーポートも2台分と広く、建物と合っており使いやすそうだ。
冬の北海道は暗くなるのが早い。そのためとても美しい間接照明(建築化照明)が配置されている。昼間でも美しい照明なのだから、夜は格別だろう。
また、階段部材、床ガラリなど、家具屋が造ったとしか思えない室内の木質部材も美しい。
キッチンも木製のオーダーキッチンかと思ったら、クリナップのキッチンの面材だけを、美しい白木のべニアに交換したものでビックリでした。
2台分の木造の屋根付きカーポートあり。
設計:山本亜耕建築設計事務所
施工:アシスト企画
どの住宅も素晴らしかったです。ただ時間が足りなさすぎました。また宇都宮市から札幌日帰りはハードでした。帰りは宇都宮線の終電になり、あやうく上野のカプセルホテルに泊まることになりそうでしたw。危なかったです。
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有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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