2025-01-13
アンビルト 実現しなかった住宅
土地・地盤
敷地・擁壁
高断熱・高気密住宅
高断熱・高気密住宅

アンビルド Q1.0住宅SH-house

南東から建物を見る

アンビルト=実現しなかった住宅です。

2021年3月に設計契約し、土地探し→打ち合わせ→基本設計が完了。

しかし実施設計前に、急遽施主が転職して、栃木県を離れることになりました。

実現しなかった高断熱・高気密住宅の、土地探しから基本設計完了までをレポートします。

総二階の延床面積26.5坪、施工延床面積:28.5坪(吹抜け・玄関ポーチ含む)のQ1.0住宅です。

土地探しから同行して、擁壁の無い平らな土地を取得してもらった

右側が擁壁。敷地高低差があり、土を抑えているのが擁壁です

同行して、4か所目で理想的な土地を見つけることが出来ました。

最初に施主から案内された土地は、隣家と高低差がありました。施主が買おうとしていた土地は低い方で、隣家の古くて高い擁壁に接していました。買おうとしている土地、もしくはその隣地に、図面で安全性が確認できない擁壁がある場合は、何としても、その土地を買わないようにする必要があります。

そのような擁壁は、地震・大雨・経年劣化等により、既に傾いていたり、ひび割れがあったり、今後傾いたりする可能性があるからです。古い擁壁は図面が無い場合が多く、仮にあったとしても安全性が確認できる可能性が低いです。昔の擁壁は、地耐力調査もせずに造られているものが多いと思います。

そのような、隠れた瑕疵のある擁壁のある土地や、そんな擁壁に接する土地を買ってしまうと、長年に渡って、自分の土地(擁壁)の瑕疵に苦しむ可能性があります。擁壁が少しでも倒れた場合、土地の土砂が低いほうに流れるので、高い方の土地を買ってしまった人は、隣接敷地への補償も発生します。迷惑を掛けた隣接敷地が複数の場合は、全てを補償することになります。

自分の土地の地面が崩れている上に、他人への補償も発生するので、大変困難な事態となります。さらに、その脆弱な擁壁が、何軒分も一体化されて連なっている場合は、輪をかけて厄介です。新築する自分の土地の範囲だけ、古い擁壁を撤去して、新設することはできます。しかし、新しい擁壁と古い擁壁の「取り合い」部分は、十分な補強が出来ないので弱点となり、そこから土が流れることがあります。1つの擁壁が何軒分も連なっている場合は、自分の土地の擁壁部分を造り変えることで、他人の土地の擁壁を壊してしまうことになるので、厄介なのです。

擁壁の瑕疵が起こる時期は、購入後すぐなのか、擁壁を造り変えた後すぐなのか、平穏な生活が続いた後の20年後になるのかは、分かりません。ただし、昨今の大雨や地震で、脆弱な擁壁が問題を起こす時期は、早まっているように感じます。

どちらにしても、脆弱な擁壁がある土地の瑕疵は、建物をいくら頑強にしても挽回できません。

私が口を酸っぱくして「擁壁のある土地は買わないでください」と言ったので、施主も理解してくれて、擁壁の無い平らな土地を選びました。

土地の南側に公園があると、日射熱利用はしやすいが、騒音の可能性もある

その上、南道路でその南側には、今後児童公園の出来る敷地でした。南の窓を大きくすれば、窓からの日射熱が、暖房機代わりになります。日射熱が十分取得できる、Q1.0住宅レベル2以上の高断熱・高気密住宅を建てれば、ほぼ終生、暖房時間が最小となります。日射熱を十分取得できる、こちらのお宅では、極寒の日でも、暖房用の床下エアコンは、ほぼ動いていません。冬と夏の、温湿度が1年で一番厳しかった1日の、各部屋の温湿度データと光熱費を掲載していますので、ご覧ください。

日射熱を利用できる高断熱・高気密住宅を建てるには100点に近い土地でした。通勤はもちろん、子供の学校や買い物にも不便は無さそうでした。

しかし、日射熱を利用して、暖房費用を最小限にできるのは大きなメリットですが、近隣に公園があるデメリットも認識して土地を買う必要があります。子供の遊び声や、サッカーやテニスのボールを打つ音を騒音と感じて、ストレスになる場合もあるからです。

基本設計前打ち合わせ

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設計契約後、いつものように要望書を書いて頂いた上で、お住まいのアパートを訪問し、基本設計前の打ち合わせを行いました。現状の生活を、よく見せてらった上で、不満な点や使い勝手の良い点を聞いて、設計に反映させました。

人は、現在の生活を、ある程度心地良くしていることが多いです。その状態を見て、よく話しを聞くことが、大切だと感じています。

コンセプト

この住宅も、「小さな家で、過不足なく、快適に長く暮らす」がコンセプト。

夫婦と子供2人が暮らす、延床面積26.5坪の住宅です。3畳の吹抜けと、0.5畳の玄関ポーチを含めた、施工延床面積は28.5坪。

LDKの共用納戸を含めて、収納量を十分確保した使いやすい住宅になっていると思います。外から使える、2畳分の物置も建物に組み込みました。

建物中央の吹抜けを、冷気と暖気を移動させるダクト代わりに使うことで、家全体の室温を、均一にしやすい間取りになっています。6畳程度の床下エアコン1台と、吹抜けエアコン1台で生活することを想定しました。

昼間は個室のドアを開け放して、なるべく室温を均一にしておいた上で、2階の各個室には、パイプファンで冷暖気を送ることで、最小限のエアコンと冷暖房配管で生活できるようにしています。夏は、南窓の外側で日射遮蔽をして、エアコンを少ないエネルギーで連続運転するように計画しました。

コンセプトの中の「快適に長く暮らす」の意味は、イニシャルコストは掛かっても、長く使える建材を使い、高断熱・高気密にすることで、冬も夏も身体が楽で、ランニングコストが少なくなります。無垢材や造作建具や漆喰など、質感が良く、長期使用出来て、廃盤になりにくく修理が効く材料を使うことで、建替えや大規模リフォームが発生しにくくなります。それが「快適に長く暮らす」の意味です。

逆に、イニシャルコストは安くても、冬寒く夏暑い上に、メンテナンスコストや、光熱費などのランニングコストが高ければ、身体と財布に負担が掛かります。また、木目がプリントされた既製品の新建材は安いですが、木目が剥がれてきたり、廃盤になると修理が効かず交換になるので、建替えや大規模リフォームの原因になりがちです。

建替えや大規模リフォームが発生しにくいのは、住宅会社にはデメリットになることもありますが、施主にはメリットがあると思います。

概要

■敷地面積:約204㎡ 接道間口約12m×奥行約17m

■延床面積:26.5坪

■施工延床面積:28.5坪(吹抜け・玄関ポーチ含む)

■屋根・庇・破風:ガルバリウム鋼板立平葺き シルバー

■太陽光

■屋根雪止め:タニタスノーアングル シルバー

■外壁:ガルバリウム鋼板角波スパンドレル ホワイト。玄関ドア廻りのコの字:杉板170×18鎧張り

■雨樋:タニタ半丸マットホワイト

■南面外付け電動ブラインド:ホワイト

■南面外付けロールスクリーン:枠材シルキーホワイト、生地ライトグレイ。1階庇を凹ませて設置

■玄関ドア:木製断熱ドア

■省令準耐火仕様

■室内床:杉フローリング

■室内壁・天井:漆喰壁

■造作建具・造作家具

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

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