平屋のような2階建て、宇都宮の小さなQ1.0住宅/SH-house
宇都宮市の古い住宅街に建つ平屋のような2階建て。SHさんの住まいは、延床面積24.5坪の小さなQ1.0住宅です。
当社ホームページを見てご連絡頂き、敷地購入の相談から始まり、打合せを重ねてきましたが、基本設計が完了したのでブログで紹介します。
南北に細長い敷地の特徴を生かし、冬の日射を暖房機代わりにできる温熱環境の良い住宅にすること、駐車場も含めて内外部の「生活をしやすいプラン」すること、小さな家でも普遍的な外観にすることの3つをポイントに、「老後は1階のみで全ての生活がしたい。」という施主の要望からこの外観になりました。平屋のような2階建ての住宅です。
24.5坪と小さな家ですが、1~2階が吹抜けで繋がり、寝室にもドアが無い、家中がほぼワンルームの開放的な間取り。冬でも暖かく、家全体の温度差がほぼ無い高断熱Q1.0住宅の性能は、室内のどこでも居場所にできるので、小さな家でも室内を広くつかえる必然要素です。1階と2階の両方にリビング的なスペースができた理由も、断熱性能の高さに由来しています。
施主の要望、敷地の特徴と配置計画、ファーストプランの模型と決定プランの模型がどう変わったか?を書くと、ザックリこれまでの計画の流れが分かると思います。
施主の要望とSI-house見学
施主のSHさんからは、最初のメールと共に「住宅に関する要望リスト」が送られてきました。整理された要望書は、優先順位の付いた、とても理解しやすいものでした。
その中で、一番現実的でありがたかった要望は、「家は小さくて良いが、収納を多めに造りたい」という項目。
家の大きさは、建物の金額に直結します。一番効果のあるコストダウンは家を小さくすることなので、最初に予算から家の大きさを想定するのが普通です。
逆に、施主の要望が「建物の広さ」である場合、そのまま計画が進むと、広く内容が薄っぺらい家になるばかりか、予算オーバーとなり最終的に仕様を落とすことでは足りず、ゲームオーバーか計画のやり直しに「なりがち」です。
同じ金額を掛けるなら、家を小さくして坪単価を高くして造ったほうが仕様が良くなるので、デザイン性・耐久性も上がるに決まっています。
また前述したように、Q1.0住宅クラスの断熱性能は家中の温度差が少ないため、小さな家でも隅々まで広く使えるので、小さな家と高断熱住宅は相性が良いのです。
経験にもとずく個人的見解ですが、人は70歳を過ぎると徐々に身体が動かなくなります。そうなると、ご夫婦2人で無理なく掃除や片付けができる広さは、2LDK~3LDKのマンション程度になります。
マンションに例えると広さの把握がしやすいのでそうしてみますが、2LDKの標準的広さは、約60㎡=18坪=36畳。3LDKの広めなマンションは、80㎡=24坪=48畳になります。家族向けマンションの広さが、2LDK~3LDKとほぼ決まっているのは、「誰でも管理しやすい広さであり、中古でも流通しやすい」という理由があります。
ですから、新築時の延床面積は、子供が居たとしてもできるだけ延床面積30坪未満、できたら20坪に近い方が良いのです。広い家は、老後身体が動かなくなった場合、大家族を除いて、定期的にお手伝いさん的役割の方に来てもらい、掃除と片付けをしてもらわないと管理しきれません。また家が小さければ、15~20年に1度訪れる外装リフォーム等のメンテナンスコストも少なくて済みます。ちなみにこの住宅は、延床面積24.5坪になっています。
要望の2番目には、冬暖かく夏涼しい家・暖房や冷房になるべく頼りたくない・ランニングコストの低い家という項目がありました。また長く使える家にしたいので長期優良住宅にしてほしいという要望もありました。
当社で施工したQ値1.35のSI-houseを見学して頂き、室内を体感してもらい、SIさん、SHさん、私とで住み心地等について話をした結果、SI-houseと同じように、Q値は1.35程度、暖房は床下エアコンにすることに決まりました。高断熱住宅といっても「ピンキリ」なので、快適と省エネを両立したいなら、断熱性能は「ヒート20のG2」か「Q1.0住宅」レベルと考え、断熱・気密施工の間違いない依頼先にアポをとるべきでしょう。
敷地の特徴と配置計画
南北に細長い敷地は、幅員4Mに満たない西側道路に31M接しています。配置計画は、最初に、敷地で唯一T字路がぶつかる敷地北側に2台分の駐車場を設けることから始まりました。
ここは北関東。毎日車を使うので、「駐車場の出入りのしやすさ」は「生活のしやすさ」とイコールなのです。特に前面道路が狭い敷地や、往来の激しい敷地の場合は、駐車しにくい場合が多いので、駐車場の配置には注意が必要です。
狭い道路に面した敷地でも、T字路部分に面して駐車スペースが取れれば、何度も車を切り返す必要がなく駐車しやすい。その南隣に建物を配置し、なるべく南側を空けて冬の日射取得が出来る計画としました。
今回の新築時には工事は行いませんが、将来ガレージを増築する予定もあります。また、玄関脇の大きな庇は、2台分の自転車を濡らさないためのものです。
ファーストプランの模型
これが最初に提案したプランの模型です。樹木と格子塀があるのが南側。将来、屋根に太陽光パネルを載せたいという要望があったので、南側に大屋根を掛けて、普遍的でシンプルに見える外観としました。
老後は1階のみで全ての生活がしたい、2階の書斎は別々に欲しい、各部屋に収納を多めにしてウォークインクローゼット的なスペースも欲しい等々。施主の要望をほぼ満たした上で、1階LDKと寝室に7畳のウッドデッキを付け、物干しを兼ねて2階のベランダも不要とし、老後も1階で全てが完結する平屋のような2階建てとしました。デッキを室内の延長とした、延床面積24坪でも広がりを感じさせるプランです。
決定したプランの模型
ファーストプランがSHさんの要望をほぼ満たしていた為、手ごたえを感じていました。しかしプレゼンの翌々日、2階の部屋を北側から南側に配置転換して、2階の2箇所の書斎も、個室にせずにワンルームのようにしたいという要望が来ました。
日当たりの良い敷地環境と、高断熱住宅の性能をより生かした間取りにするために、太陽光パネルは辞めるという話でした。
ファーストプランでは、太陽光を載せるために南側に向かって大屋根にしたので、2階の個室は南側に面することなく、日当たりが悪くなっていたのです。
2階個室を北側から南側に移して間仕切りを取り払いリビングのようにして、日射を充分取り入れられるプランに変更、かつ「大屋根に代わる普遍性と落ち着き」を感じさせる外観にしました。
1階部分は、ファーストプランとほぼ変わっていませんが、寝室の3本引き戸も無くなり、水廻りが回遊性のある動線となり、1階もよりワンルーム化しました。ちなみに2階には天井の低い2畳の書斎があります。水廻り以外では、唯一入口にドアの付いた個室です。1階も2階も「潔い(いさぎよい)ワンルームのような住宅」になりました。
外壁はあずき色の小さな家
新建材が嫌いだというSHさんだからこそ、当社に依頼してくれたのだと思います。室内はいつものように、無垢の床材に造作建具と造作家具。今回は久しぶりにシンプルな造作キッチンも造る予定。新建材には無いインテリアの普遍性と長期使用できることを目指しています。現在の住まいを見せて頂くことで、室内の雰囲気、必要な収納量、好みの照明の明るさ等が、ザックリ分かりました。
実は、新築住宅の外壁材の約8割を占める窯業系サイディングは、初期性能が高く、値段が比較的安いのでよく使われる外壁材です。しかし、見た目が安っぽい上に、廃盤になる可能性とメンテナンスコストが高めになることはあまり知られていません。ですから、当社では現在、窯業系サイディングはなるべく使わない方針です。理由はこちら。
また、室内の建具(ドア)も既製品の建具も、意匠と持続性の問題があり、ほぼ使わないようにしています。理由はこちら。
造作ドア(造作建具)にすると決めた理由は「吉田さんの造る住宅はダサイ!」と言われたからでした
外壁は、ファーストプランは全面杉板貼りで提案していましたが、違和感があるとのことで、あずき色のガルバリウム鋼板と一部杉板のコンビになりました。
内外部の仕上げ材の選択も、意匠性やメンテナンスコストを左右する最重要項目になるので、意匠性と断熱性の共存は、当社のテーマです。
これは『随筆集 一日』が文庫化されたもの。西村賢太さんの随筆集はとても面白いのですが、小島慶子さんの解説はこの文庫本のみ掲載。これがまた素晴らしい。小島慶子さんの著作も読みたくなりました。
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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