里山住宅博inつくば、一番の見どころは堀部安嗣さんと伊礼智さんが設計した、2軒のヴァンガードハウス
7月4日と5日出張し、同業者総勢300人と里山住宅博inつくばを見学してきました。
里山住宅博inつくばには、一流の建築家が設計した家から茨城の地域工務店が設計施工した家まで、期間限定のモデルハウスが約20棟建ち並んでおり、注文住宅の現状が分かります。
今年の11月30日まで一般公開されているので、これから住宅を建てる人は見学すると勉強になると思います。常時オープンではないので注意が必要。全棟一斉オープンの日もあるようです。
webを貼っておきます。
里山住宅博とは
里山住宅博inつくばとは、地域工務店が造るモデルハウス20軒程度を集めた住宅団地を、期間限定で一般公開している。いわば地域工務店の住宅博覧会。
2016年に開催された里山住宅博in神戸の関東バージョン。
住宅総合展示場との違い
里山住宅博がハウスメーカーの住宅総合展示場と違うのは、期間限定モデルハウスとして公開され、その後住まい手に売却されること。
ハウスメーカーの総合展示場よりも手の届く価格の住宅が並んでいるのが特徴だ。
ハウスメーカーの展示場モデルハウスは、最上級仕様で大きな家の場合が多く、「自分が住む建物」とは違う場合がほとんどで、実際に街角に建つ住宅は、安っぽいことが多い。
もう1つの総合展示場との違いは「本物の町」だということ。それも景観協定があり、建物の高さや面積、外壁仕上げ材等に共通ルールがあるので、街並みの統一感がある。
中でも「里山コモン」と名前が付けられた、広い共有の庭があり、住民が自ら管理するというのが最大の特徴である。
終生、共同で広い庭を自治管理するなんて、考えるだけで大変そうだから、レベルの高い住まい手が集まってきそうだ。
一流建築家が設計したヴァンガードハウスと、出展している他の住宅との違い
里山住宅博inつくばの、一番の見どころは堀部安嗣さんと伊礼智さんが設計した、2軒のヴァンガードハウス(先進的な普通の家)である。
このヴァンガードハウス2軒と、里山住宅博に出展している「その他の家」とを対比できるので、設計の違いが明確に分かる住宅博覧会になっている。
設計の違いとは、外観や内観、間取りはもちろん、使用している材料や、その使い方(ディティール)のことである。
その違いを見てみよう。
仕上げ材料が違う
今回は、2軒のヴァンガードハウスを中心に見学したので、それ以外の住宅を見学したのは5軒程度だったが、そのうちの2軒がウレタン塗装した無垢フローリングでした。
ウレタン塗装したフローリングのメリットは、現場塗装する必要がなく、かつ汚れと傷が付きにくいので、初期クレームを避けられるのがメリットだ。
しかしウレタン塗装は、フローリングの表面が塗膜に覆われるため、表面が「テカテカ」してしまい、新建材のカラーフロアのように見えてしまうので、とても安っぽい印象になる。
自分の設計する住宅では、ウレタン塗装した無垢フローリングは使ってはいけないと再実感した。
さらに説明すると、ウレタン塗装した無垢フローリングは、使い方にもよるが20~30年でウレタン塗膜が劣化して剥げてくる。
再塗装する場合、塗膜を機械で全て剥がしてから再塗装となるので施工手間がかかる。
実際には、塗膜を剥がす時のサンダーがけで室内が粉だらけになるので、大規模リフォームの時以外は再塗装しにくい。私は何度かリフォームで、フローリングのウレタン塗装を剥がしてから、塗装し直した経験がある。再塗装に使った塗料はオイルステインで、ウレタン塗装はしない。
フローリングの塗装は、新築時もウレタン塗装でなく、木に染みこむ「オイルステイン」の1択だ。
オイルステインは塗膜を作らない塗装なので、ウレタン塗料と比べると汚れやすくはなるが、それも「味」だと感じる施主でないと使ってはいけないだろう。
2軒のヴァンガードハウスは、室内の建具(ドア)と家具はもちろん、階段の手摺等、室内の木部は全て造作で、室内にも屋外にも既製品のメーカー建材の気配がない。
違和感のない仕上がりだ。
メーカー建材を使っていないということは、廃盤になる建材を使っていないということなので、交換や修理をしながら長く使えて普遍的だということにつながる。
室内の壁、天井は、漆喰もしくは板貼り。
一方その他の住宅は、建具・フローリング・クロス・階段の手摺等でメーカー建材のモノが混ざっていた。
1箇所でもメーカー建材を見てしまうと、ハウスメーカーやローコストビルダーの安っぽい住宅で使われているという既視感があるので、建物全部が安っぽく感じてしまう。
この材料の違いは大きいと感じた。
ディティールが違う
ディティールとは「細かい部分」という意味で、建築で使われる場合は、例えば「ドア枠と天井が接合する部分」や「造作窓が壁の中に引き込まれる部分」の形態を言ったりする。
ディティールは「造りたい家(空間)を表現するための仕様や取り合いのこと」だが、これも既製品のメーカー建材を使っていると造れない。
部材の断面寸法や取り合いも含めて、ディティールがとても綺麗に違和感なく納まっていた。
自分の造っている住宅の、階段の造作手摺の断面も、もっと細くて良いかもしれないと思った。
窓が少ない
窓の少なさもヴァンガードハウスと、その他の住宅との明確な違いである。
ヴァンガードハウスは窓が少なく、その他の住宅は窓が多め。
各住宅の平面図を見ると、2軒のヴァンガードハウスの個室には、東西南北の1面にしか窓がないが、その他の住宅の個室には、ほとんどが2面に窓が付いている。
一番最初の堀部さんの外観写真を見てもわかるように、ヴァンガードハウスは、本当に必要な場所にしか窓を造っていない。
窓の少なさは、壁の存在感と室内の落ち着きと断熱性の向上につながり、窓が無い分、価格も安くなる。
意味なく窓が多い家は格好が悪い上に、室内がやたらと明るくなるので、室内に入った時に家具等の陰影が出てこない。
ヴァンガードハウス以外の住宅は、玄関を入っていきなり明るかった。
普通の設計者だと、施主から個室の2面に窓を設けることを求められることが多く、玄関を含めて室内が暗いとクレームを受けて、壁を壊して窓を設ける等取り返しのつかないことになるので、それが怖くて窓を多めにしてしまう。
特定の施主が居ない今回のモデルハウスでも、買い手がつかなくなってしまうから、窓を今まで通り設けて明るめの室内を造ってしまったのかもしれない。
対して、一流の建築家に依頼するのは「彼らのファン」なので、「室内が普通の住宅のように明るくないことも作風の1つ」と感じており、クレームにはならない。
例えば、暗めな玄関を通ってリビングに行くと、大きな開口部から「雰囲気の良い庭」が見えたりすると、そのギャップが空間の変化となる。
室内全てが明るいと、「のっぺりした単調な印象」になりがちだ。
今回の里山住宅博は、普通の住宅と、それより暗めの住宅を比べる良い機会でもある。
私は室内が明るくないほうが、落ち着いた雰囲気で良いと感じた。
南側の大きな木製窓
必要な場所に最小限で窓を設けているヴァンガードハウスは、一転して南面の窓は大きく、その窓を開けると、室内は外部(庭)と繋がる。 それも木製窓である。メリハリが付いている。
照明が少ない
2軒のヴァンガードハウスの室内は、その他の住宅に比べると室内が暗め。
窓と共に照明も最小限なので室内が暗めなのだ。
その他の住宅は窓が多く、照明も直接照明だから明るい。
室内が暗いと施主からクレームを受けるので、一般の設計者は窓と照明器具を多くして、照明は天井に付けがち。
天井に照明が多数付くと、室内がゴチャゴチャした印象になってしまう。
一方ヴァンガードハウスでは、照明がどこに付いていたのか記憶にない。
撮った写真を見返したら、天井に付いた照明はほとんどなくてスッキリしている。
間接照明主体で、照明の数も最小限で目立たないところに付いており、かつ主張の少ない照明であった。だから、どこに照明があったのか気が付かなかったのだ。
まさに「欲しいの照明でなく、灯り」なのである。
明るい普通の家と、少し暗めのヴァンガードハウス、どちらが落ち着くか比べられる良い機会である。
室内が暗めだと、室内の家具が陰翳をつくり、室内がより落ち着いて格調高く感じる。
暗ければ、スタンド照明で対応できるから、私も照明は最小限にしたい。
里山住宅博の立地はコンパクトシティの考え方とは逆で、違和感がある
立地の特徴として、「里山」という言葉が付くように郊外型の住宅地である。
Wikipediaによると、「里山(さとやま)とは、集落、人里に隣接した結果、人間の影響を受けた生態系が存在する山をいう」とある。
郊外化の進展は、既存の市街地の衰退以外にも多くの問題点を抱えている。
自動車中心の社会は移動手段のない高齢者など「交通弱者」にとって不便である。
私が住む宇都宮市でも、最近中心市街地に建ったタワーマンションに、郊外の戸建住宅から引っ越してきた、富裕な年配者が多数住み始めているようだ。
郊外型住宅地は、車が無いと病院や買い物、公共機関に行けないから、車に乗れなくなるような高齢者には、住みにくい住宅群だということは間違いないだろう。
少子高齢化で人口減少が進む日本では、税収にも限りがあるので、郊外型住宅地までの道路や上下水道等のインフラの整備をいつまでやってくれるのか疑問である。
郊外の住宅地よりも、市役所や県庁や駅のある中心市街地のインフラ整備が優先になるはずだ。
また、路線バスの経営の厳しさは全国的な問題であり、地方はより顕著なので、車に乗れなくなったらバスを使うということにならない可能性がある。
今はバスが通っていても、将来バスが来なくなる可能性もあるからだ。
地域工務店が集まって世間にアピールする方法としては、里山住宅博のような企画が効果的なのは分かっているが、時代の流れとは逆だという違和感もあった。
この本買いました。施工例ごとに写真と図面がセットになっておりとても分かりやすいです。
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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