ウェスタンレッドシダー(WRC:米杉)が水に強くて高耐久、さらに加工もしやすいのはなぜか?

ウェスタンレッドシダーは、外壁材・ウッドデッキ・内装材としても使われる、使用範囲の広い珍しい木材です。このように使用範囲の広い木材は、あまり無いと思います。
使用範囲の広い理由は、比較的水に強く、かつ柔らかいので加工しやすいことです。水に強い材料は、硬いことが多いので加工がしずらく、水に強くて加工もしやすいという、両方の性質を備えた材料は少ないからです。
今日のブログは、木材の中でも特に万能とされる ウェスタンレッドシダー(WRC:Western Red Cedar通称「米杉」)について、なぜ水・腐朽・変形に強く、加工もしやすいのかを整理し、木造住宅での活用の視点からも分かりやすくご紹介します。
目次
ウェスタンレッドシダーとは、どのような木か?


ウェスタンレッドシダー(WRC:Western Red Cedar)は、北米太平洋沿岸、特にカナダ・ブリティッシュコロンビア州やアメリカ・ワシントン州・オレゴン州等に分布する針葉樹です。
なお、「米杉」という日本語名が使われますが、日本のスギ(Cryptomeria japonica)とは別の種で、スギ科ではなくヒノキ科(もしくはイトスギ属・ヒノキ科相当)に分類されます。
「米杉」というのは「アメリカ産のスギに似た木」という通称であって、実際の分類とは異なります。
ウェスタンレッドシダー(Western Red Cedar、学名 Thuja plicata)の樹高は、通常は40〜60メートルほどに達し、最大で70メートル近くにもなることがあります。
また、直径も2〜4メートルに達するものがあり、北米の太平洋沿岸では「森の巨人」とも呼ばれるほどの巨大な針葉樹です。特にブリティッシュコロンビア州(カナダ)やワシントン州(米国)などでは、古木が大規模に残っており、樹齢1000年以上の個体も存在します。
つまり、住宅建材に使われているウェスタンレッドシダーは、こうした非常に大きく成長する木から伐採・製材されたものということになります。
外壁材とウッドデッキ材の両方で使われる木材が少ない理由と、ウェスタンレッドシダーの優位性
住宅において「外壁材」と「ウッドデッキ材」の両方で使える無垢木材は、実は多くありません。
理由を整理します。
■外壁材としての条件
- 雨や湿気の影響を受けやすいが、板材をほぼ雨水と平行に配置するため、乾きやすくなる設計が可能です。
- したがって「雨に対する強さ」だけでなく、加工性・コスト性・施工性も重視されます。
- 外壁材は面積も広いので、特に加工性・コスト性・施工性が重要になります。
■ウッドデッキ材としての条件
- 地面やバルコニーなど雨水・湿気に近く、かつ雨の方向に対して、板材を垂直に使うため、乾きにくく、変形や腐朽リスクが高めです。
- そのため「雨・湿気への耐久性」「腐りにくさ」「変形しにくさ(寸法安定性)」が特に求められます。
- 外壁材と比較すると、ウッドデッキは狭い面積になることが多く、特に雨に対する耐久性が求められます。予算があれば、硬くて切断や加工はしずらくとも、雨に強く、値段の高い、アイアンウッド等の硬木にすることも多いです。
比較的雨に強く、かつ加工しやすいという両方を満たす木材が少ないのですが、ウェスタンレッドシダーは「耐久性・耐水性・寸法安定性・加工性」のバランスが高く、外壁・ウッドデッキの両用途で使われる数少ない木材と言えます。
例えば、ウェスタンレッドシダーは「軽くて腐りにくい」「寸法変化(反り・割れ)が起こりにくい」という特長があります。
反面、例えば典型的な硬木(アイアンウッド系)は耐雨性・耐久性は非常に高いですが、加工性(切断・釘打ち)が劣るため、外壁のように広い面積を貼る用途には手間・コストが掛かるという事情があります。
その点で、ウェスタンレッドシダーは「加工しやすく」「外壁にもウッドデッキにも適用できる」という意味で非常に汎用性が高い素材です。
また、ウェスタンレッドシダーはさらに内装の壁・天井材としても使われることがありますので、「外壁材+ウッドデッキ+内装羽目板」と住宅全体にわたる素材として検討できる貴重な無垢木材でもあります。
なぜウェスタンレッドシダーは耐久性・耐水性・加工性に優れているのか?
ウェスタンレッドシダーが持つ物性・構造・化学成分の観点から、その優れた性質を整理します。
・天然の防腐・防虫成分を含む
ウェスタンレッドシダーには、例えば「ツヤプリシン(thujaplicins)」や「シジュロール(thujic acid)などの抽出物」が含まれており、菌・腐朽・虫害に対して自然耐性があります。
これらの成分により「防腐・防虫処理なしでもかなり長期間使用できる木材」として認められています。
・耐水性・耐湿性に優しい細胞構造
ウェスタンレッドシダーは乾燥状態でひじょうに軽く、比重(相対密度)が約0.32と低めです。
また、細胞の中に空気を多く含む構造ゆえに、「湿気・水分変化」に対して反応しにくく、結果として変形(反り・割れ)・収縮・膨張が少ないという特長を持ちます。
・寸法安定性が高い
乾燥時・使用時における収縮・反り・ねじれ・割れなどが、他の針葉樹と比べて少ないというデータがあります。
このため、外壁材として用いた際、長期間にわたって「美しい平滑な状態」を維持しやすいと言えます。
・加工性・取扱い性も優秀
ウェスタンレッドシダーは軽く、流れの良い材(まっすぐな木目・均一な質感)を得やすいため、切断・釘打ち・仕上げ加工・塗装(またはオイルステイン等)も比較的容易です。
ただし、鉄釘・鉄製金物を使用すると、ウェスタンレッドシダーに含まれる可溶性ポリフェノール等が鉄と反応して黒ずみが出るため、ステンレス釘・金物の使用が推奨されます。
ウェスタンレッドシダーと他の外装木材との価格比較(おおまかに)

ウェスタンレッドシダー・日本の杉・アイアンウッド(硬木)を比較します。
- 日本のスギ(外壁材・内装材として使用)
→ 比較的価格が抑えられており、内装材・外壁材に適用されることが多い。 - ウェスタンレッドシダー(外壁材・デッキ材・内装羽目板として使用)
→ 日本のスギより価格は高めだが、加工性・耐久性・多用途性の観点から「コストパフォーマンスの良い選択肢」。 - アイアンウッド系(ウッドデッキ・塀・高耐久用途)
→ 非常に耐雨・耐腐朽性が高いが、加工コスト・施工コスト・材料価格がもっとも高い部類となる。
つまり、「価格順」でざっくり整理すると、アイアンウッド (硬木)> ウェスタンレッドシダー > 日本のスギ、という順番が一般的です。
当社のウェスタンレッドシダー外壁・外装施工例





当社のウェスタンレッドシダー内装施工例


ウェスタンレッドシダーの住宅建築への活用と魅力
新築またはリフォームを考えているなら、外壁材・ウッドデッキ材・内装材の選定は「住まいの美観」「耐久性」「メンテナンス性」を左右する重要な要素です。
その中でウェスタンレッドシダーは、自然の温もりと高い機能性を兼ね備えた素材として、次のようなメリットがあります:
- 外壁に用いれば、無垢木材ならではの風合い・木目・色味が、建物の外観に上質感を与える。
- オイルステインで塗装したほうが長持ちはするが、仮に無塗装で使用しても、シルバーグレイ色への変化など、経年変化を楽しめる
- ウッドデッキに用いれば、裸足での使用・庭・バルコニーでの快適な素材感が得られ、かつ耐久性・耐水性にも優れている。
- 内装に用いれば、室内空間に木の質感・温もり・自然素材感を取り入れ、日常の居心地を高める。杉やヒノキとも違う、独特の良い香りがする。
- 長期的に見た場合、メンテナンス・交換頻度を抑えられる可能性があるため、トータル費用・ランニングコストでも優位となることもある。
こうした「見た目と機能性を両立」する素材は非常に魅力的な選択肢です。
ウェスタンレッドシダー以外で外壁&ウッドデッキ両方使える木材は何か?
まず、イペ・クマルーなどの硬木がありますが、これらは硬くて施工性が悪く高価です。それ以外には、先日ブログで取り上げたモカウッドなどの改質木材があります。
まとめ
ウェスタンレッドシダーは、軽くて腐りにくく、寸法変化が少なく、加工もしやすいという特長を兼ね備えた無垢木材で、外壁材・ウッドデッキ材・内装材として幅広く使える「住宅づくりの頼もしい素材」です。
お住まいを新築またはリフォームされる際、特に次のような条件を重視されるなら、ウェスタンレッドシダーはぜひ候補の一つに加えていただきたいと思います:
- 長期にわたり美観を保ちたい
- 雨・湿気の影響を受けやすい部位(外壁・デッキ)に使用したい
- 屋外使用でも快適な素材を希望
- 外装と内装に統一感を持たせたい
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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