2025-10-12
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暮らしに馴染む「造作ソファー」の魅力──モデルハウスで見つけた快適空間のヒント その1

2階フリースペースの造作ソファー。居心地が良さそう

はじめに:モデルハウスを通して見る仕様の価値

10月初め、新住協の全国総会に長野県まで行き、長野支部会員さんの建てた住宅を見学してきました。2軒見学させていただいたうち、1軒目はモデルハウス、2軒目は住宅会社の社屋兼モデルハウスでした。

モデルハウスは、その工務店の価値観・設計力・施工力を表現する場所です。工務店がこれまで採用してきた信頼ある仕様を採り入れるだけでなく、新仕様や設備を試す場でもあります。他社のモデルハウスを見学することは、新たな仕様を体感し、自社に合ったものを取り入れる大きなヒントになります。

2軒のモデルハウスを見学して、取り入れることを検討したい仕様がいくつかありました。新住協は、Q1.0住宅という、省エネルギー性能の高い、高断熱高気密住宅を普及させることを目的とした団体ですが、「厚い木材を使った、目透かし縦張り木外装構法」で防火構造大臣認定を取得するなど、超長期使用できる外壁材も推奨しています。

2軒のモデルハウスを見学した中から、私が良いと感じた3つの仕上げ材を順番に紹介します。

今回のブログでは、株式会社アグリトライさんのモデルハウス「手まりのいえ」で採用されていた「造作ソファー(ぞうさくソファー=造り付けソファー)」について書きます。

想像以上に座り心地が良く、造作ソファーに対する考え方が大きく変わりました。

以下、工務店としての視点を交えて、造作ソファーの考え方・設計・メリット・注意点などを整理してお伝えします。

先日書いた新住協全国総会@長野市はこちら

造作ソファーとは?家と一体化する家具の特徴

  1. 造作ソファー(造り付けソファー)は、住宅の設計段階から配置・寸法・構造・仕上げ材を設計に組み込んで設置される、家と一体化するソファーです。
  2. 家具として後から置く「既製品ソファー」とは異なり、壁や床、建築下地と一体化させて設置されることが多いです。
  3. コンセント・収納などをソファーと同じ家具内に組み込むことも可能で、空間に無駄を出さず、インテリアとの調和を意識した設計ができます。

驚くほど快適だった造作ソファーの座り心地

  1. 1階LDKのテレビボード対面に設置された造作ソファーに腰かけてみると、「北欧の名作椅子を扱うような家具屋の既製品ソファーより、こちらの方が心地よい」と感じられるほどでした。
  2. 具体的には、座面クッションの内部ウレタン仕様が優れており、少し硬めに感じられるけれど、疲れにくい反発感を持っていました。
  3. 後で建築概要書を見たところ、「造作ソファーを差別化ポイントとしている」と明記されており、その意図に納得しました。
  4. 過去、他社モデルハウスでも造作ソファーを体験してきましたが、多くは既製品ソファーの方が快適に感じられたものでした。今回のような心地よさを持つ造作ソファーの制作が可能なら、当社も標準仕様として採用したいと強く思いました。

空間と調和する、造作ソファーのデザインと居心地の良さ

  1. 「手まりのいえ」のLDKは、南側の大き窓と周囲に配した造作家具群(テレビボード、吊戸棚、造作机など)が自然につながり、開放的なのに居場所感のある空間を生んでいました。
  2. 造作ソファーは違和感なく納まり、存在感を主張しすぎず、身体を受け止める安心感を持っていました。硬すぎず柔らかすぎず、適度な反発感がありました。
  3. 背もたれクッションの裏を壁に接した設計とすることで、ソファーが建物と一体化した印象が強まり、身体を包み込むような感覚が得られていました。

造作ソファーと既製品ソファーのメリット・デメリットを比較しました

比較項目造作ソファー既製品ソファー
空間フィット性建築寸法にぴったり合わせられ、デッドスペースを削減できる。ただし動かせないことが多い既製品の規格寸法に従うため隙間が出やすい。ただし動かせる
デザイン自由度造作建具・造作家具と材質・仕上げを統一できる既製のデザイン・仕様の中から選ぶ
構造一体性背もたれ裏を壁と一体化させることが基本置き家具。独立しており据え置く
収納・機能付加棚・コンセント・収納などと統合可能(ただしコスト増)後付けや追加設置が必要、統合性で劣る
搬入・配置制限完成時に据えつけ、後からの移動は困難移動・交換が容易
コスト既成品ソファーと比べると、打ち合わせ・設計・施工と手間が増えるため、コスト上昇の可能性がある大量生産で単価を抑えられることが多い
劣化・修理クッションは交換可能クッション交換・家具屋での修理がしやすい
資産性・魅力度造作家具が建物の魅力を高める可能性あり家具として建築とは切り離される価値になりやすい
造作ソファーと既製品ソファーのメリット・デメリット比較

設計意図・予算・メンテナンス性を重視して、どちらを選ぶかを判断することが重要ですが、造作ソファーを上手く設置できれば、室内空間の価値は高まると思いました。

造作ソファーは誰が作る?大工か家具職人か?

造作ソファーを誰が手がけるかには、主に次の2パターンがあります:

  1. 大工が座面クッション下の木部を造り、クッション部材はクッションメーかーや家具屋へ発注して、届いたモノを現場監督が設置する方式
  2. 家具職人(造作家具屋)に一括で製作を依頼する方式

どちらも、設計者が造作ソファーの設計をして、現場監督が制作を統括する点は共通ですが、それぞれに特徴があります。

職方特徴メリットデメリット
大工建築構造・下地専門構造との整合性が取りやすく、現場調整が柔軟家具専用の道具が無いことが多いので、精密な仕上げや取り合いが苦手な場合もある
家具屋(造作家具専門)木工加工・精密仕上げに特化緻密な造作・仕上げ精度が高い建築下地との調整にコスト・手間がかかる可能性。壁と床が完成してから設置に来るため
造作ソファーは大工が造るのか?家具業者が造るのか?

シンプルな造作ソファーであれば前者でコストを抑えつつ十分な品質を出せることもあります。複雑な仕様や意匠性を重視するなら後者の方が優位になることが多いです。

造作ソファーがもたらす6つのメリット

造作ソファーを採用することで得られる長所を、下記のように整理できます:

  1. 空間の有効活用
     壁際・部屋のコーナーを生かし、無駄な隙間を減らせる。
  2. 統一感と素材感の一体化
     床・造作建具・他の造作家具と統一した素材・仕上げで空間に調和を与える。
  3. 機能統合
     コンセント・収納などと一体化した設計が可能。
  4. 動線と視線の制御
     家の完成時には、造作ソファーは完成しており、後から家具として置かないため、室内の動線を邪魔せず、視線の抜けを確保しやすい。
  5. 耐久性と更新性
     クッション部分を交換可能に設計すれば、長く使える。
  6. 資産性・魅力度の向上
     暮らしの質を高める造作家具付き住宅という点が、差別化要素となる。

なぜ造作ソファーの背もたれクッション裏は、壁と一体化しているのか?設計意図を解説

造作ソファーの背もたれクッション裏は、壁が基本となる。座面下の木部にコンセント付

モデルハウス「手まりのいえ」では、背もたれクッション部分を壁に直接密着させ、家具側に背もたれの下地を持たせない設計が採用されていました。以下の理由により、造作ソファーは基本的に、この構造になります。上記写真のように、造作ソファーが部屋の入隅に配置されると、クッションが移動しずらいので良い。

  1. コスト・手間の削減
     家具側に、背もたれ木材下地を設けると設計・材料・加工・取り合いコストが増える。壁をそのまま、背もたれクッション下地として使うことで部材を削減できる。
  2. 納まりの簡潔化
     壁と家具間の取り合いや隙間調整を最小化できる。
  3. 一体感とスッキリ感
     壁と家具が視覚的に一体化し、すっきりとした見た目を生む。

ただし、この設計を成立させるには、造作ソファーの位置を設計の最初期段階で確定しておく必要があります。ソファー位置の変更余地が無くなるため、プランニング段階でお客様と詳しく意図を共有することが必須です。

造作ソファーの座り心地は「座面のクッション構造」が命

造作ソファーにおいて、座り心地を決める最重要な要素は、特に「座面クッション内部の構造」です。どれだけデザインが優れていても、座り心地が悪ければ、撤去しずらいガラクタになる可能性が高いからです。

実際に、当社で造作ソファーを造る際には、実績のあるクッション屋さん(家具メーカー)と打ち合わせをして、実際のクッションに座った上で、座面クッションの下地構成を確認することになると思います。

座り心地の良いソファーは、座面下地のウレタンを複数層にして仕様を替えるなど、工夫しているのだと思います。

座面のウレタン構成が書いてある資料を頂いたので、造作ソファーを造るときの参考にしたいと思います。

このモデルハウスの造作ソファーも、内部ウレタン構造が非常に緻密に設計されている印象を受けました。

造作ソファーは、読書とコーヒーと相性が良さそう

造作ソファー、読書、コーヒーは相性が良い

ソファーは「座る」ための家具であると同時に、「くつろぐ」ための装置です。特に、読書しながらコーヒーを飲むという行為は、「静かさ・安定感・心地よさ」が重要です。

造作ソファーならではの魅力を交えて、その相性について考えてみます。

  • 安定感と包み込み感
    壁との一体感を持たせた造作ソファーは、背面に壁があることで、適度な「こもるような安心感」を感じさせます。壁との一体化や周囲の家具とのつながりによって視線の抜けをコントロールでき、居場所感を確保できます。「こもるような安心感」が、読書時の集中感やリラックス感を高めます。また、背面が壁と密着していると、身体に背もたれを預けても、振動や動揺を感じにくいため、読書に集中しやすくなります。
  • 照明・手元関係の機能統合
    造作ソファー設計時に、後からスタンドライト等の読書灯を繋ぐためのコンセントを設けておきます。また、造作ソファー前に、コーヒーを置く低いテーブルを置くことで、くつろぎの空間が完成します。
  • 素材の温もり感
    造作ソファーの質感が床・造作建具・造作家具と調和していると、視覚・触覚における一体感が生まれ、リラックス性が強まります。コーヒーを香らせながら、木の温かみを感じる空間で過ごす時間は、五感の満足度を高めてくれるでしょう。

こうした点を造作ソファー廻りの設計に織り込んでおけば、読書とコーヒーという「暮らしの贅沢時間」にぴったりの空間が生まれます。

まとめ:造作ソファーで設計初期段階から居場所を造る

造作ソファーを採用するなら、設計初期段階で配置を決めておくことが重要です。

  • 背もたれを壁と一体化させる設計は、コスト削減・納まりの簡素化・視覚的一体感といった利点があります。
  • 何よりも、座面クッション内部の構造が座り心地を左右します。ウレタン選定・積層構成・カバー色などにこだわることで、長く愛されるソファーになります。

造作ソファーは既製品のソファーのように、ただ家具を置くのではなく、その周りも含めて居場所を造ることになるのだと思います。

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

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