2017-06-02
住宅探訪

笠間の家/設計伊藤豊雄は、キッチンと回遊できるバックヤードが使い勝手抜群の住宅

36年前の住宅ですが、片流れの立面は最近の住宅を先取りした様子。建物がアールになっているのが分かる。

 

新住協、関東支部の研修会で、茨城県のかすみがうら市に行った時に、すこし早出して笠間の家を見学してきました。日本を代表する建築家である伊藤豊雄氏設計の「笠間の家」は、陶芸家の里中秀人氏(故人)のアトリエ兼住居として1981年に建てられ、日本建築家協会新人賞(1984年)を受賞。

 

笠間市が里中氏の遺族から寄贈を受け、伊藤豊雄建築設計事務所の協力のもと、2013年に原型に近い形で修復が行われ一般公開されている築36年の住宅です。「笠間の家」は伊藤氏の出世作と言われています。

 

小高い丘の上にある敷地の高低差を生かした眺望の良い住宅は、軒の出の無い、白っぽいシンプルモダンな外観の住宅。写真で見た外観の印象からは、使い勝手のあまり良くない生活感の無い住宅なのかと思っていました。

 

しかし、案内してくれたNPO法人の若い女性スタッフ曰く、キッチンを含めた水廻り動線が非常に使い易いとのこと。「笠間の家」の2階はカフェとして営業しており、女性スタッフはコーヒー等を出すのでキッチンを頻繁に使っています。いわば、住まい手の声に近い感想が聞けました。

 

北面のエントランス。カフェとしても営業中。見学は無料です。

表札が掛けられている。お住まいになっていた住宅に入るということで、ドアを開ける時に背筋が伸びます。

 

結論から書くと、水廻りの間取りと収納がとても使い易く造られていました。水廻りを含むバックヤードが回遊型になっており非常に使い易そうである上に、キッチン収納もとても使い易く大容量。収納はローコストでスッキリとモダンに造作されており、凄いと思いました。

 

その他にも、敷地の高低差の生かし方が上手いとか、建物同士が交わる玄関ホールの天井と屋根の納まりや基礎のアールが施工するとき大変だっただろうとか、フレキシブルボードを外壁に使うとこうなるのかとか、シンプルにインテリアを造ると36年経っても古くならない、とかいろいろ感想はあるのですが、使用者絶賛の水廻りについて書きたいと思います。

「笠間の家」のキッチンと回遊できるバックヤードは使い勝手抜群

居間からバックヤード方向を見る。グレーのストライプの壁の奥が水廻り

 

私が、現在カフェスペースとなっている、居間の周りを見ていると。

●女性スタッフ「キッチン廻りも、グルっと廻れて、とても使い易いんですよ」

■私「そうなんですか、見学させていただいてもいいですか?」

●女性スタッフ「どうぞ」とキッチンに案内してもらう。

「この窓からの眺めが良いんです」

大きな窓が明るい、眺めの良いキッチン。建物をアールにしている理由は眺望をある程度集中させるためだろう。窓は南側を向いている。

 

■私「眺めの良いキッチンで気持ちがいいですね。収納も適切な場所にたくさんあって使い易そう」

 

キャビネットと扉は15ミリ厚のベニア。棚板は12ミリベニアでダボ可動式。ローコストに造られているが、グレーのペンキとフラットバーの納まりが上手く、扉を開かないとベニアだとは分からない。

背面家具も大容量。扉の開き勝手も使い易そう。

●女性スタッフ「とても使い易いです」

■私「収納は扉もキャビネットもベニアなんですね。とても薄いベニアだけど、扉の上下にアルミのフラットバーがビス留めされているからか、扉は薄いのに反りかえっていないですね。フラットバーが扉の補強になって、かつデザインにもなっている。再塗装もしてない感じ。」

●女性スタッフ「そうなんですね。」

 

レンジ廻り。扉の開き勝手や収納の高さも充分検討されているのが分かる。

キッチンの隣は清掃用流しや収納のあるスペース→トイレ、洗面→居間に繋がる回遊式動線。

 

■私「塗装も上手いから、扉を閉めるとベニアとは思えないです。」

●女性スタッフ「シンクの高さも吊戸棚の高さも、とても使い易いです。」

■私「2人で作業しても狭くないし、カフェの営業用に造ったようなキッチンですね。施主は料理が好きな人だったのかな?ありがとうございます。」

●女性スタッフ「1階は寝室と仕事場になっています」と、1階も案内して頂く。

※バックヤードとは、飲食店では厨房や材料置場などが該当する。住宅の場合は、普段お客さんには見せない水廻りやそれに付随する納戸や収納等を言う。

1階寝室収納の開き戸を開けるとトイレ

普通の収納

開き戸を開けるとトイレが隠されていた。窓も付いており、普通に使えそうでした。

●女性スタッフ「扉を開くと、トイレになってるんですよ。」

■私「ホントだ。収納のように見せているんですね。問題なく使えそうですね。」

作業スペースの流し台も収納の中に入って、室内はスッキリしていました。

 

冬の寒さと夏の暑さは強烈

■私「水廻りの動線が使い易くて、各部屋の収納もたくさんあって使い易い住宅なのは分かったのですが、使いにくい点はあるのですか?」

●女性スタッフ「使いにくいところは、無いです。」

■私「ホントですか?使いにくいところが全くないのは凄いですね。」

●女性スタッフ「ただ、冬の寒さと夏の暑さは強烈です。」

■私「36年前の建物だと、断熱するとか、気密工事をするという考えは、ほぼ無い時代ですから、それは仕方ないですね。」

女性スタッフの方が、とても丁寧に案内してくれました。ありがとうございました。

 

最後に

一流の建築家が設計する住宅は、水廻りの使い勝手、動線、収納も非常に使い易いのが分かりました。また、内、外装も、とにかく廃盤になりやすい既製品建材を極力使わず、造作でシンプルに造っておくと、年月が経っても古く見えないし、長く使える。ブログを検索したら、伊藤氏の設計した建物は8年前にもsumikaプロジェクトで見学しており、感想を書いていました。

【更新】SUMIKA プロジェクト見学

 

 

 

 

 

 

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

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