一般的な室内ドアで火災に強いのは、どれなのか?
今月号の「建築士」という業界誌に、住宅でよく使うシナ合板フラッシュ戸とガラスの框戸、どちらが火災に強いのか?が載っていました。一般的な住宅のドアは、主にこの2種類なので新築・リフォームする方の参考になると思います。掲載文から、室内ドアと火災の関係等、興味深い箇所を抜き出してコメントしたいと思います。
雑誌「建築士」とは
雑誌「建築士」は、各都道府県の建築士会に入会していると月1で郵送されてくる雑誌で、書店では売っていません。「木の燃焼と防耐火」というコラムが連載されており、文章は安井昇さんが書いていらっしゃいます。ドアの種類と火災との関係以外にも、京町屋などの伝統的な建物は、実は火災にも配慮して建てられていたなど、とても面白かったです。
日本では1日あたり80件の火災が起き、3.5人が火災で亡くなっている
設計時に火災が起こることをイメージするのは難しいかもしれないが、全国で年間30,000件(約80件/日)の火災が起こり、1,200人(約3.5人/日)の尊い命が無くなっている災害であることを皆で意識して、対策をしていきたいものである。
火災の通報から消防隊が来るまでの時間
本文によると、火災が起こった場合、119番通報から、消防隊が火災現場で放水を始めるまでの時間は早くて5~10分。遅くとも20分。この出火後の5分~20分の間に出火源周辺しか燃えず、建物全体への激しい延焼にならないように工夫されていれば、火災被害は最小限に抑えられる。
建物内の延焼は、開口部(ドア)を介して起こることが多い
出火室から廊下や他室への延焼(えんしょう:燃え広がること)は、開口部(ドア)を介して起こることが多い。延焼は壁でなく、壁より薄く開口になっているドア部分で起こるようです。消防が来る10分程度、燃え抜けないドアが付いていると、他室や廊下への延焼を抑制でき被害を最小限に食い止められそうです。
ドアは閉めておくと、延焼は抑制できそうですが、火災時のモノが焼ける匂いも入ってきにくいので、気が付くのが遅くなりそうです。2006年から全ての新築住宅には住宅用火災警報器を取り付けることになっていますが、それ以前の住宅にも設置しておいたほうが良いです。
住宅が火災になった場合の室内温度変化
住宅で火災が発生すると、通常、室内の温度は火災発生5~10分程度で500℃に達します。さらにフラッシュオーバーと呼ばれる現象が起こると、瞬く間に室内温度は1000℃にまで達します。文章と表は吉野石膏さんからお借りしました。
※フラッシュオーバー
室内で火災が発生し可燃性のガスが生まれ、そのガスに炎が引火して一瞬のうちに炎が広がる現象のこと。
住宅でよく使うシナ合板フラッシュ戸とガラスの框戸では、どちらがどれだけ火災に強いのか?
シナ合板は可燃物、ガラスは不燃材料なので、ガラスのほうが火災に強いと考えがちだが、実はシナ合板フラッシュ戸のほうが火災に強い。
シナ合板は厚さ4~5.5㎜の合板が両面に張られているため、両面のシナ合板の厚さは、8~11㎜となる。加熱を受けると表面に着火するものの、表面に炭化層を形成しながら、1㎜/分程度しか燃え進まないので、加熱開始から10分程度燃え抜けない。
すなわち、出火可能性の高い部屋の出入口の扉をフラッシュ戸や板戸(厚いドアのほうが燃え抜け時間が長くなる傾向がある)とすれば、火災初期の火災や煙の拡散を一定期間抑制できる可能性が高く、容易な手法で被害を最小限に食い止められるだろう。
フラッシュ戸(板戸含む)をしっかり締めておけば、10分程度燃え抜けないから消防隊が到着する可能性が高い。
それに対して、ガラス框戸のガラスは、室内でフラッシュオーバーが発生し室温が「急激」に800℃を越える状態になると簡単に割れてしまう。「急激」というのがポイントで、じわじわ温度が上昇する場合には割れにくくなるが、急激にあぶられるとガラス中央部と縁部(木材に被覆されているので温度が上昇しない)に温度差が生じ、その結果、応力差が生じて割れる。
火災時、ガラス框戸よりフラッシュ戸のほうが有利。3~4分燃え抜けるのが遅い
上の表を見ると、出火後6~7分後くらいに800℃になっているので、この時にガラス框戸のガラスは割れて、火の通り道になる可能性がある。ガラスの無いフラッシュ戸や板戸なら、加熱開始から10分程度燃え抜けないから、ガラス戸よりも1箇所あたり3~4分は時間が稼げて消防隊が到着する可能性がある。
シナ合板フラッシュ戸とガラスの框戸の値段
シナ合板フラッシュ戸とガラス框戸(普通の透明ガラス框戸)では、ザックリ1.3倍から1.5倍程度ガラス框戸のほうが高いです。シナ合板フラッシュ戸が、高さ2.2mモノで35000円だとすると、ガラス框戸は、45000円から53000円くらい。ガラス框戸は値段も高いので、最小限にしたほうが良いです。ちなみにこれは造作建具のドアのみの値段で、枠や塗装は入ってないです。
また、裸火を使う喫煙者の部屋は、ガラス戸にしないで、フラッシュ戸にしたほうが良いと思われます。
室内のドア(造作建具)についてはこちらもご覧ください。
造作ドアにすると決めた理由は「吉田さんの造る住宅はダサイ!」と言われたからでした
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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