造作ドア(造作建具)にすると決めた理由は「吉田さんの造る住宅はダサイ!」と言われたからでした
住宅の室内ドアの話です。
個室の入口のドア、トイレの引き戸、収納の両開き戸などなど。室内には様々なドア(扉、建具とも言う)があります。
住宅の室内は、床・壁・天井のみで構成され、とてもシンプルなのが普通です。ですから室内におけるドアの占める面積は大きく、そのデザインと材料が与える印象も大きい。また、室内ドアは、人が手で触って開いたり閉じたりする部分なので、印象はより大きくなります。
現在、私の造る家の室内ドアは、自分でデザインして金物も決めて、建具職人に造ってもらう造作ドア(造作建具:ぞうさくたてぐ)です。
そこに落ち着くまでに、日本の大手建材メーカーの既成品ドア、アメリカやスウェーデンの無垢材の既製品ドアと、いろいろと使いました。
結果として、お客さんの話を聞いて自分でデザインして、地域の建具職人に造ってもらう造作ドアが、様々な面から一番良いという結論です。
今日は、造作ドアを基本仕様にした理由と、造作ドアと既成品ドアのメリットとデメリットを書きます。
造作ドア(造作建具)にすると決意した理由は「吉田さんの造る住宅はダサイ!」と言われたことでした
同業者が完成見学会に来ました。同業者といっても工務店ではなくて、専業の設計事務所をやっている友人です。
●同業者「吉田さんの造る住宅がダサイ最大の理由は、室内ドアに既成品のドアを使っていることですね」
■私「(ダサイと言われて、ショックで食い気味に)世の中の住宅会社の、98%は既成ドアを使っているでしょ。じゃあ、ほぼ全ての住宅会社の造る家はダサイってことになるよ!」
※98%かどうかは分かりませんが、多くの住宅会社は建材メーカーの既成品のドアを使っています。ちなみに、その多くが新建材のドアです。
●同業者「ダサイでしょ。住宅雑誌やインテリア雑誌に載っている住宅で、ウッドワンとか、パナソニックとかの既成品のドアを使っている写真ありますか?
※当然、既成部材の新建材を多用している大手ハウスメーカーの住宅もダサい住宅に入ります。ハウスメーカーの造る住宅は、広告以外で住宅雑誌に掲載されていません。
■私「使ってないね。雑誌で取材されている住宅のドアは、全て造作ドアだ」
●同業者「既成品ドアを使うとありふれた室内になり、シンプルさや統一感もなくなくなるから、雑誌に載せられないのですよ!」
■私「ローコストビルダーも既成品のドア使っているからイメージも良くないし、大手ハウスメーカーも既成品のドアだから、正直、彼らとの差別化も出来ないんだよね。無垢の床材と既成ドアを組み合わせると、室内がチグハグになってしまい合わないことも分かってる」
●同業者「吉田さんの住宅も、室内ドアを既成ドアじゃなくて、造作ドア(造作建具)にするだけで良くなりますよ。ハウスメーカーとローコストビルダーを代表とする工業製品を使った量産型住宅会社に対して、工務店と設計事務所を代表とする手造り系住宅会社の分かりやすい違いは、室内ドアを手造りしてるかどうかですから!!」
■私「それは分かる!」
●同業者「また既成ドアは高級ラインも含めて金物も良くないでしょう。手が触れるレバーハンドルとか。プラスチックにメッキ塗装したようなものを使っているから、時間が経つと剥がれて安っぽくなる。触って目に付くハンドルが安っぽいのはダメなんです。既成ドアだと、金物も安っぽいから、印象も悪くなるし、装飾も多いから室内がシンプルに見えない。そういう細かい部分が大切!」
■私「それも分かる。いつかは、というか早めに造作ドアを標準仕様にしなくちゃいけないのは分かっているんだけど。造作ドアにすると、ドア1箇所あたりの価格が、既成ドアと比べてザックリ2.5~3倍くらいになるでしょう。工程も多くなるから管理も大変だし。あと、工務店が建材メーカーも兼ねることになるから責任も大きくなる。メンテナンスも建材メーカー任せにできず、全部工務店だ。設計事務所はいいなあ、図面描くだけで、不具合が出てもメンテナンスするのは工務店だから、思い切ったことが出来て。」
●同業者「文句言ってないで、やるしかないでしょ!」
こんなやり取りだったと思います。それがキッカケの1つとなり、造作ドアを標準仕様にしました。自分のことをハッキリと批評してくれる友人は大切なのです。
住宅業者が造作ドアに出来ない理由は何なのか?
慣れれば、難しいことは無い造作ドアですが、既成品のドアばかり使っている住宅会社にとって、造作ドアを採用するのはハードルが高いです。理由を見てみましょう。
造作ドアに出来ない理由の1つ目は値段が上がること。既成ドアから造作ドアにすると値段があがります。ザックリですが、1箇所あたり、2.5~3倍くらいになるでしょう。既成ドアで3万円とすると、造作ドアが2.5倍の値段だと7.5万円になります。差額は1箇所あたり、4.5万円。1軒あたりの建具の数を15カ所とすると、既成ドアから造作ドアへの変更差額は、ザックリ4.5万円×15か所=67.5万円になります。造作ドアにすると、窓枠や床材も無垢材にしないとおかしいので、実際はもっと、家全体の値段は上がります。
家の値段を上げることは、実力が無いと出来ません。施主に対して価格を上げることができずに造作ドアを断念しているパターンが一番多いと思われます。また、工務店に多いのが温熱環境にこだわりを持ち、サッシや断熱材、気密部材にはお金を掛けますが、既成ドアを入れてしまっているパターン。温熱性能は良いが、ローコスト住宅に見える住宅を造っている住宅会社は、高断熱・高気密系のFCやVCに加盟している工務店に多いです。
※FCとはフランチャイズ、VCとはボランタリーチェーンの略。本部から指導を受けてサッシ、断熱材、気密部材等を購入して温熱性能の良い躯体はできます。温度差の少ない暖かい住宅ですが、サッシ、断熱材、気密部材、本部や支部に駐在する人件費にお金が掛かってしまい、造作ドア等の仕上げ材まで予算が廻らず、既成ドアしか採用できないことが多いです。私もそれで温熱系VC辞めました。
2つ目は図面作成と打合せが多くなること。造作ドアにするには、建具表と建具図面を描いて、施主と打ち合わせしなければなりません。材質、金物種類、寸法(大きさ、厚さ)、デザインも決めて施主と打ち合わせするので手間が掛かります。そもそも、建築が好きでないと、造作ドアで住宅を造ろうとは考えないと思います。上記図面のように全てのドアの仕様を決めて図面を描きます。
逆に言うと、ずっと既成ドアを使っている造り手は、建築やインテリアが嫌いなんじゃないか?と思います。後記しますが、自分の個性及び手作り感を出せるのは造作ドア(造作家具含む)だけですから、建築が好きなら絶対に造りたくなる部分なんです。造作ドアを使って、新築やリフォームをしたいそこのあなた!造り手に上記のような図面を描いてもらって、打ち合わせしないとダメですよ!金物のカタログと木材のカットサンプルを見せてもらうのも忘れずに!
建具表はもちろん必要ですが、展開図(各部屋の東西南北面のインテリアを描いた図面)も描いてない工務店が多いのが実情です。展開図が無いと、施主とのインテリアの打ち合わせや、手摺の位置や高さ等の機能面の打ち合わせも出来ませんから!
3つ目は工程が多くなるので、現場管理に手間が掛かることになります。既成ドアの場合は、枠とドアと金物が一体になっており、建材メーカーのカタログから選んで、現場に来た塗装済のモノを、大工が取り付けるだけの1工程で完成です。
対して、造作ドアの場合は、現場監督が、ドア枠の材料となる無垢材の寸法を積算して材木屋に注文し、木材を大工の加工場に搬入して、大工が機械でドア枠材に削り現場に搬入し、現場でドア枠を組み立てた後、建具職人にバトンタッチ。建具職人がドア枠を採寸し、建具職人の作業場でドアを造り、現場にドアを搬入して調整しながらドアを設置、その後、塗装職人にバトンタッチ。塗装職人がドアを塗装して、ガラスが入る場合は、再度建具職人がガラスを取付て完成という流れです。
工程が長いでしょ。既製品のドアと比べて、メッチャクチャ手間が掛かるのが分かると思います。その代り、既成品のドアより、造作建具のほうが長く使えますよ。後述しますから、最後まで読んでください。ちなみに現場監督は、全ての工程の管理を行うので大変なのです。
既成ドアなら、出来ているものを大工が取り付けるだけなのに、造作ドアの場合は、材木屋、大工、建具職人、塗装職人と最低4者が関わるので、工務店の現場監督は各職人が行き違いのないようにキッチリ管理する必要があります。要するに多くの職人が関わると間違いが起きやすいので、きちんと現場管理をする必要があるのです。既成ドアと造作ドアの工程は、こんなに違うんです。価格の差があって当たり前でしょう!
4つ目は、思いがけないクレームが起こることになります。初めて室内ドアを造作ドアにした現場での話です。完成引渡しの直前、施主の両親が建物を訪れて、ドアのハンドルが気に入らないので、全て無料で交換しろとクレームがありました。ドアのハンドルがシンプルすぎるので、無料交換しろとスゴイ剣幕でした。ご両親は、地鎮祭の時にお会いしましたが、現場に来たのはそれ以来です。図面にドアハンドル仕様は書いてありますし、施主にはレバーハンドルの写真も見せて、了解を取ってあります。施主も毎日現場に来ており、毎日の作業内容も、ハンドルも確認済み。そもそもご両親は契約者でなく、現場に来たのも2度目です。
意味のわからない無料交換なんて絶対にできないので、ハンドルは交換せずにお引渡ししました。既成ドアを使っていれば、こんなクレームが来ても、「既成品のドアなので、レバーハンドルはこれだけです」で終わりです。
そのお宅は、その後も様々なクレームがメチャメチャ多かったのです。造作ドアや無垢材が向いていない御家族だったのだと思います。住宅雑誌やインテリア雑誌には、造作ドアや無垢材で造られた家の写真しか載っていないので、それに憧れる方も多いですが、造作ドアや無垢材は、既成ドアや合板フローリングに比べて、経年変化したり隙間が開いたりしますので、それも「味」だと感じられる方でないと使ってはいけないのです。
また、建材の匂いに関するクレームもありました。建材には匂いがあるので、その匂いが気に入らないから、何とかしろと言われても対応は出来ない。建築前に体育館みたいな場所に、全ての建材を用意して施主に匂いを嗅がせて、ご意見伺うなんて出来ないですもん。
ですから、神経質な方には、造作ドアや無垢材は向いていません。というか、神経質な方の住宅は造りたくない。自分の常識の斜め上のクレーム言われると、対応できないからです。価値観が似ていることが大切。それを契約前の段階で住宅業者側が見極めて判断しないと、大変なクレーム対応をしなくてはいけないという事例でした。話が少しそれましたので戻します。
造作ドアに対してクレームが発生した場合は、工務店自身が建材メーカーも兼ねていますから、全ての責任は工務店(設計者の場合も)になります。工務店の現場監督と建具職人が現場に行って直します。
既成ドアのクレームの場合は、工務店がお宅に伺わなくても、建材メーカーの担当者に電話すると(例えばウッドワンに電話すると)、ウッドワンの担当者が直接修理に行くので、チョー楽なのです。
室内ドアを造作ドアと既成ドアにした場合のメリットとデメリット
室内ドアを造作ドアにした場合のメリットは、ローコストビルダーやハウスメーカーが造ったような、ありふれた室内にならないことです。
雑誌に載るようなシンプルな室内や、カフェのような室内にしたいなら、造作ドアの1択です。既成ドアという選択肢はあり得ません。また、既成ドアと無垢の床材の組み合わせは合いません。無垢の床材にする場合も、造作ドアの1択になります。
WEBを見ていると、減額案なのか、LDKのある1階だけ造作ドアにしたり、1階だけ無垢の床材にしているお宅もありますが、建物が「ちくはぐ」になるので、辞めた方が良いと思います。
既成ドアは、ドアと枠が一体になり塗装までされて仕上がっています。既成ドアは短いと3年程度でモデルチェンジし、いずれ訪れるリフォームの時期には、同じ製品が存在しないことがほとんどです。そうなると、ドアを交換する場合は枠と周囲の壁も壊して造りかえることになります。既製品ドアを使うと新築時の値段は安いですが、見た目が悪い上にリフォームする時には、余計にお金が掛かる可能性が高くなるのです。
逆に、造作建具は廃盤になることが無いので、修理をして長く使うことが出来ます。壊れたり古くなったりしたら、地域の職人がドアの部材、部品のみ部分交換することが可能です。また、ドア枠は無垢材なので、耐久性があります。ドアが破損したら、ドア枠はそのままで、ドアだけ交換することが可能です。ドア枠はそのままで、ドアのみの交換はよく行っています。ドア枠は無垢材ですから古くなると経年美化していきます。
また造作家具は、シナランバーコアという主に21㎜厚の白っぽいベニアのようなもので造ることが多いです。その材料は、造作ドアの定番のシナフラッシュ戸と同じ材料なので、室内に統一感が生まれます。逆に既成ドアを使って、シナランバーコアの家具を使うとチグハグになってしまうのです。
もう1つ、造作ドアには大きなメリットがあります。それは狭い特殊な寸法のドアや、逆に大きな寸法のドアも造れることが利点です。また、リビングにトイレが接している場合など、トイレドアから音が漏れないように防音効果のあるドアにすることも可能になり、かつ、他のドアや家具とデザインの調和も図れます。
既成ドアだと、上記のような細やかな対応が出来ません。造作ドアにすることで、デザインの調和はもちろん、機能、性能面でも住まい手の都合に近づける対応が出来るようになります。
ただし、造作ドアは、一品生産品なので、少し大きいと反りが出たりして、既成ドアのような完成度になっていない部分もあるかもしれません。また、書いたように既成ドアよりも値段が高いです。
住宅業者は「造作ドア派」と「既成ドア派」の2派に分かれ、住宅業者を選ぶ時の判断の決め手になる
住宅業者は、大きく分けて「造作ドア派」と「既成ドア派」に分かれます。この2派には、上記したように家づくりの過程で大きな違いがあり、住宅業者を選ぶ時の判断の決め手になります。両者の金額比較をしても意味ないです。上記したように「造作ドア派」のほうが値段は高いですから。
そもそも、「造作ドア派」は、私も含めて他社と金額比較されたり、相見積されるのを拒否する傾向があります。だって、きっちり図面描かないと金額出ないし、打ち合わせと図面作成を繰り返した後で、「やっぱり辞めます」なんて言われたら、「仏のたけしも、大魔神に変身します」※私の名前、たけしって言います。
またプロの私でさえ、他社の見積書を見て完成を想像するのは至難の業です。素人じゃ絶対分からないと思います。自分で現場管理して下地からチェックして完成させないと、見積書と図面見ただけでは、住宅の本当のクオリティは分からないのです。
逆に「既成ドア派」は、自分の造る住宅に対して「こだわりが無い」ですから、金額比較や相見積に対応する可能性が高いです。お金が無い人は「既成ドア派」の1択になります。そのかわり、既製ドアは、リフォームの時にはお金が掛かりますよ。廃盤になっていて、部品交換や部分補修できる可能性が、ほぼ無いですから。
「造作ドア派」の代表は、手造り系地域工務店と建築家。「既成ドア派」の代表は、大手ハウスメーカーとローコストビルダーと普通の工務店と設計事務所になります。
現在の住宅を造る過程で、室内の手造り感を出せるのは、ドアと左官の塗り壁の2箇所くらいになっています。その部分まで、既成ドアや窯業系サイディングを使ってしまうと、ローコストビルダーやハウスメーカーに対して、分かりやすい差別化が出来なくなるので、こだわりたい部分でもあるのです。
造作ドアについては、こちらもご覧ください。
【会話】建具職人が造った造作ドアは、時を経ても別の建具職人が修理出来る!しかし既成品ドア (既製品建具)は古くなると修理が効かない可能性が高い!という職人との会話
有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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