2025-10-10
研修会・展覧会
高断熱・高気密住宅
高断熱・高気密住宅

2025年 新住協総会@長野に参加して感じたこと── 小さな家のソファーの魅力と、オープンな技術の強さ

全国の会員が集う「新住協総会」

研修会風景

10月1日と2日、新木造住宅技術研究協議会(新住協)の全国総会及び研修会に、2年ぶりに参加してきました。


新住協の全国総会は年に一度、全国各地の支部が持ち回りで開催しており、今年は長野駅前の「シャトレーゼホテル長野」が会場でした。過去2回は香川・青森、遠かったのでオンラインで参加しました。

1日目は総会と講演会、2日目は長野支部会員の住宅を見学するバスツアーという日程です。

新住協とは──開かれた断熱技術で高性能住宅を広める組織

新住協(新木造住宅技術研究協議会)は、特定の営利団体から独立した民間の住宅技術研究団体で、主に省エネルギー性能の高い木造住宅を普及させることを目的としています。

最大の特徴は、高断熱・高気密を基本性能とした技術を、誰でも採用できる「オープン工法」として公開していること


特定のフランチャイズに加盟しないと使えない「クローズド工法」とは異なり、情報が一般化・共有化されて書籍等で公開されており、会費も年間5万円と良心的です。

210mm厚さ以上の外壁の付加断熱の技術は、最も一般的で安価な断熱材である高性能グラスウールを基本としています。

このオープンな仕組みにより、もし依頼した工務店が将来的になくなってしまった場合でも、他の業者が公開されている技術資料を基に、リフォーム対応できるという安心感があります。フランチャイズに加盟しないと使えない「クローズド工法」の場合は、設計と施工の技術が明確に公開されておらず、材料も一般販売されていないので、下地構成が分からない・新築時と同じ材料が使えないなど、リフォームの時にも縛りを受けます。

設立は室蘭工業大学名誉教授・鎌田紀彦先生。以来30年以上にわたり、「Q1.0住宅」などの高性能住宅仕様を提唱し、省エネ住宅の普及を牽引してきました。


現在は全国の工務店、設計事務所、建材メーカーなど902社(2025.9月現在)ており、住宅業界でも最大級のネットワークを誇ります。

1日目: 総会と講演──高断熱住宅・高断熱リフォームの施工事例発表が続く1日

10月1日の総会は11時から17時まで。


午前中は新住協の組織運営に関する正式な総会が行われ、午後は以下のプログラムが続きました。

  • 鎌田紀彦先生による基調講演
  • 長野支部会員を中心とした4社の工務店による事例発表
  • 久保田代表理事による活動目標の発表

各地で実践されている高断熱高気密住宅の設計・施工事例と断熱気密技術を直接聞けるのが、この総会の醍醐味。今年の発表は、時代を反映して高断熱高気密リフォームの事例発表が多かったです。


高断熱住宅という、同じ方向性を持つ会員さんと方向性を共有できる貴重な時間でした。

2日目:長野支部会員の住宅見学バスツアーへ

翌2日は、バスで長野支部会員の住宅を巡る見学ツアーに参加しました。見学先は以下の2軒です。

  1. 株式会社アグリトライさんのモデルハウス「手まりのいえ」
  2. 山本建設株式会社さんの新社屋兼住宅(建築中現場)

最後に「おやきファーム」で昼食をとり、13時頃に長野駅で解散しました。

モデルハウス「手まりのいえ」──総二階、延床27坪に凝縮された造作家具の上質さ

手まりのいえ 南面を見る

最初に訪れたのは、アグリトライさんの総二階27坪のモデルハウス「手まりのいえ」。


外観は杉板にグレーのオイルステイン仕上げ。落ち着いた雰囲気で、家族4人暮らしを想定した間取りです。必要充分な規模の住まいが印象的でした。

外壁は杉板にグレーのオイルステイン仕上げ

家は大きければ良いというものではなく、メンテナンス費用と掃除の手間も、家の大きさに比例して増えます。ですから、私は無駄に大きな家を造らないことが大切だと考えています。


例えば外壁塗装リフォームを行う場合は、外壁面積×㎡単価=塗装費用です。通常の外壁材だと15年に1度くらい、繰り返し訪れる外壁塗装リフォーム時の費用は、大きな家になるほど高くなります。

また、27坪程度であれば、週に一度、半日程度掃除をするだけで十分綺麗な室内が保てますが、家が大きくなるほど、掃除も手間が掛かります。具体的には、高齢になるほど家族が減り、最後は1人暮らしになることが多いのですが、27坪程度であれば1人でも掃除等の維持管理ができる広さです。

将来の暮らしを考えると、「家を無駄に大きくしない」ことと、「長く使える材料で造る」ことが、「実は最大の安心材料であり、将来の不安を無くす方法」なのかもしれません。

LDKの天井高さは2200mm

室内に入ると、1階の天井高さは2200mm。一般的な住宅より200mm低いのですが、これがかえって落ち着きのある空間をつくっていました。


室内建具(ドア)はシナ合板に透明のクリアオイル仕上げ、造作家具はシナランバーコアを用いた造作。やさしい木目と手触りの良さが印象的でした。シナ合板の造作建具とシナランバーを用いた造作家具は、当社の仕様と同じです。造作建具と造作家具は、繊細で上質な※納まりで、勉強になりました。

また、木造住宅の中でも特に超高断熱高気密住宅は、南面の窓を暖房機代わりの日射取得窓として大きくするので、窓が大きくなるほどLDKに収納が少なくなります。しかし、この住宅のLDK廻りには、吊り戸棚・机・テレビボード・造作ソファなどを組み合わせ、収納と居場所を巧みに確保されていました。南面の大きな窓から光を取り入れながら、スッキリとしたLDKを実現しています。

造作ソファーは座り心地抜群でした。背もたれクッションの裏は壁。脇にコンセント付

造作家具の中でも、特に驚いたのは「造作ソファーの座り心地」。名作家具を取り扱う家具屋で売っている既製品のソファーよりも、程よい固さで快適。特にクッション内部のウレタン構造が非常に優れているのだと思いました。

住宅概要説明書の「造作ソファを差別化ポイントとしている」という言葉に納得しました。

当社では今まで、造作ソファーを造ったことが無かったのですが、その理由は座り心地でした。既製品のソファーのほうが座り心地が良かったので、造る必要が無いと感じていたからです。

また、造作ソファーにする場合は、背もたれクッション部分を壁に密着させて壁を背もたれ替わりとして、背もたれの下地木材は造らない必要があります。ですから、プランの段階からソファーを配置する計画が必要になります。逆に、ソファーが壁に密着されておらず、アイランド式になる場合は、ソファー全体が4方向から見えることになってデザインが難しくなりますし、背もたれ木材が必要となり、かつそれは仕上げ材となるので、お金が掛かりすぎる造作ソファーになってしまうからです。

この造作ソファーは、自社でも今後「造作ソファーを提案してみたい」と思うほどの完成度でした。造作ソファーは1.2階に設置されており、2階のソファーは移動できるようになっていました。

シナ面材の造作キッチン(オーダーキッチンとも言う)
造作洗面台

キッチンと洗面台もシナランバーの造作家具で統一され、素材感と使い勝手のバランスが良く、暮らしの質を高めていました。

主寝室 天井の低い部分は1650mm
2階フリースペースを見る。奥の角に造作ソファーが見える。移動できる造作ソファー


2階は勾配天井で、高い部分が2583mm、低い部分は1650mm。最初、1650mmは低すぎるかと思いましたが、時間が経つにつれてその“低い天井の落ち着きと居心地の良さ”が感じられました。


冷暖房は、1階LDKと2階フリースペースに1台ずつ、合計2台の壁掛けエアコンで全館空調を実現。エアコン1台設置ではない、2台設置に共感しました。2台設置であれば、どちらかのエアコンが壊れた場合でも、共用部にエアコンが1台あれば、復旧するまで何とか暮らせる可能性が高いからです。エアコン1台で家全体を冷暖房している場合にエアコンが壊れると、復旧するまでの1か月程度は、暑さもしくは寒さで生活が大変になります。

※住宅建築における「納まり」とは、
材料同士を「構造的・機能的・美的」に矛盾なく組み合わせるための、主に接合部分の考え方と、その設計・施工技術のこと。図面上で「納まり図」を描くのは現場で迷わず美しく・確実に仕上げるためと言えます。

山本建設さんの新社屋──「燻煙された木の外壁材:モカウッド」で長く使える家づくり

工事中の外観

続いて訪れた山本建設さんの社屋兼住宅は、工事中の現場見学でした。

現場では、断熱・気密施工を間近に見ることができ、実践的な断熱気密技術交流の場になりました。

窓廻りの断熱気密工事。ピンクの断熱材と気密シート。
燻煙加工した「モカウッド」外壁材。超高耐久外壁材

外壁材は無垢の木材仕上げ。


信州カラマツをノンケミカルの熱処理で燻煙加工した「モカウッド」が使われており、芯材まで燻されているため超長期の耐久性を持ちます。新築時の塗装と、完成後の塗り替えリフォームが不要で、木の外壁材としてはもちろん、他の種類の外壁材と比較しても理想的な仕様です。匂いを嗅ぐと、燻された匂いがしました。

ただし、このような超高耐久外壁材は、住まい手側にとっては外壁塗装リフォームがほぼ無くなるので良いのですが、造り手側にとっては、普通の外壁材であれば繰り返し訪れる外壁塗装リフォームが、無くなるという側面があります。


当社でも、ガルバリウム鋼板外壁・杉板外壁・しらすそとん壁などを採用しており、いずれも長期使用に耐えるため、最も一般的な外壁材である窯業系サイディングであれば、15年程度ごとに発生する、外壁塗り替えリフォームは、ほとんど発生しません。


超高耐久外壁材をお客様に提案することは、お客様にとってはメリットである一方、工務店にとっては「外壁塗装リフォーム工事が無くなってしまう(もしくは外壁塗装リフォームスパンが長くなる)、自分の首を絞める」選択でもあります。

窯業系サイディング等の、定期的に外壁塗装リフォームが必要な外壁材を採用している、大手ハウスメーカーを含んだ住宅会社は、営利企業として会社を存続させるには、全く正しいと思います。

しかし、「完成後、お金の掛かりにくい長持ちする家を造る」という理念にはやはり共感します。

まとめ──「オープンな技術」と「小さな家」の価値

観光施設 おやきファーム

今回の総会と見学ツアーを通じて感じたのは、「オープンな技術を共有する文化」と、「等身大の住まい造り」こそ、新住協の強みだということです。

加盟する工務店同士が、上手く行っている技術と失敗事例も含めて情報を共有し合うことで、より良い家づくりの基盤が広がっています。


そして、無駄に家を大きくせず、手の届く範囲で上質な暮らしを実現する──。これからの住宅に求められる価値を、改めて実感できた総会でした。

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

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