SS-house
ワンルーム化して収納を増やすことで、家事効率と快適性を向上させたリフォーム
「お客様の声」は、施主にアンケート用紙を渡して答えて頂いたものを掲載していますが、SS-houseのお客様の声は、住宅業界誌に取材されたものを、そのまま掲載します。
掲載誌は新建ハウジングブラスワン2015年6月号vol.691。「住まい手に聞く リフォームの本音」という企画の第25回目。文章は住宅編集者の大菅力さん。
詳細な取材により、住まい手に聞いたリフォームの本音が、掲載されています。是非ご覧ください。
今回は地域密着型の工務店による戸建住宅のリフォームを紹介する。先代が建てた家を、次代が引き継いでリフォームしたという理想的な連携が取られた事例である。
Aさんは60代の主婦。親子4人で3階建の重量鉄骨造に暮らしている。この家を設計施工で建てたのは、栃木県宇都宮市の工務店・ヨシダクラフトの先代だ。「もともとこの土地で父母が肉屋を経営していたが、28年前に店を畳んで、父母と私たち家族の6人で暮らす2世帯住宅を建てた」とAさんは振り返る。
当時の家の使い方は、2階が親世帯のスペース、2階は共用のキッチンと和室、3階は子世帯のスペースだった。「料理は2階で行い、食事は和室で一緒にとっていた」とAさん。間取りは両親の意見で決まり、Aさんの意見は特に反映されていないという。
既存の建物のプランでは、トイレと洗面が各階にあるところや窓が南北に開いていて風通しがいいところが気に入っていた。一方2階のキッチンと和室が仕切られていて、配膳や片付けの動線が悪かったり、キッチンで感じられる、階段を通じて3階から吹き降ろされる冬場のダウンドラフトが不快だった。さらにトイレや風呂が狭いことや、1階と2階をつなぐ鉄骨階段の仕上げである長尺塩ビシートも味気なくて好きではなかったという。
依頼先は最初から決めていた
こうした点を改善しようと、Aさんはリフォームの計画を暖めてきた。そして、今から8年ほど前にそれを実行した。「父が亡くなり、母が入院したことと、子供の1人が大学入学を機に家を出たので、工事をするよいタイミングだと考えた」とAさんは振り返る。加えて夫が2年後に退職を予定していることから、その前にリフォームを済ませたいもいうのも理由の1つだった。
リフォームの依頼先はヨシダクラフトに決めていた。「普段から『水の音が気になる』といった、ちょっとしたことでも相談に乗ってもらっていた」とAさんは説明する。こうした日常のメンテナンスのほか、子供部屋を和室から洋間に変えたり、外壁や屋根の塗り替えなども同社が行なっており、信頼関係を築いていた。「実家の事業の関係で、工務店や専門工事業者の知り合いはいたが、吉田さん以外に相談したり、相見積りを取ることは考えなかった」とAさんは言う。Aさんが同社に依頼した理由は、社長である吉田武志氏の年齢もある。「家のことを相談するには、わがままが言いやすい、自分よりも若い人がいいと考えていた」とAさんは説明する。
Aさんの家と同社社屋は非常に近い場所にあるため、Aさんと吉田氏は何回も打ち合わせを重ねた。その合間に吉田氏の手掛けた近作をAさんは見学した。「1件は新築で、1件はリフォーム。暮らし方はいかにも若い人という感じだったが、床材や珪藻土など材料の使い方が参考になった」とAさん。その一方でAさんは住宅展示場を訪ね、ハウスメーカーのモデルハウスの見学もしている。「一応見てみようという気持ちがあったが、ただ広いだけで現実味がなく、設備もどこも同じで参考にならなかった」とAさんは振り返る。
打ち合わせをはじめて3カ月後、設計プランが固まった。大規模リフォームの場合、この時点で予算とのギャップが生じていることが少なくなく、設計変更を行って帳尻を合わせることが多いが、Aさんはプラン提案をすべて採用することにした。「アレルギーということもあり、値段よりも品質にこだわっていたため、価格調整や値切ることは考えなかった」とAさんは言う。
動線と気流感を解決する
では、実際のリフォーム内容を見ていこう。
懸案の台所と和室と動線については、間仕切りを撤去し、ワンルームとした。その上で両室の間に引き戸を設けて、開け閉めできるようにした。2室がワンルームになり、冷暖房の範囲が広がったことと、間仕切り壁を撤去してエアコンを取り付ける、ちょうどよい壁がなくなったことから、エアコンは天井カセット式とした。
炊事の効率の改善という意味では、両室をつないだことに加え、キッチンの流し台のレイアウトを変更した。以前は壁付けのI型キッチンであったが、長くて使いづらかったので、同じ壁付けのL型に変更した。既製品だと奥行きが合わなかったため、オリジナルのキッチンを製作している。既存のキッチンで使いやすかった、シンク前の窓台については、同様の使い方ができるように計画している。合わせてカウンターを撤去し、ダイニングテーブルを置いて、1室で食事が完結できるようにした。
和室は掘り炬燵を撤去し、床を畳からナラの無垢フローリングに変えて、洋室に変更した。押入れを撤去することで、広がりをもたせた。窓周りはアクリルワーロンを張った吉村障子で覆った。アクリルワーロンは吉田氏がよく採用する素材で、Aさんの手入れの手間を軽減したいという要望から採用した。当初は窓廻りに内窓を取り付けて断熱性能を補うことを考えたが、南面の窓が欄間になっているなど、内窓が取り付けにくい状況であったために断念した経緯があり、それを補う意味からも障子が用いられた。
階段からのダウンドラフトについては、階段室に引き戸を導入し、閉じることで区画できるようにした。冬の不快な気流感を感じさせず、夏場の風通しのよさを残すことができた。建具はサンゴバン社の型板ガラスを採用した。加えて、吉田氏の提案で壁にスタイロフォームを張り、天井にはグラスウールを充填し、断熱性能を向上させた。
浴室はスペースを広げ、突き出し窓を引き戸に替えた。トイレは衛生陶器をタンクレスにすることで、閉塞感を解消した。同時にトイレの建具位置を変え、開き戸から引き戸に変更した。長尺塩ビシートで仕上げた鉄骨階段は、その上から集成材を張って仕上げ直した。また3階の水廻りの給水を増圧ポンプ式から直結方式に変更し、不要になったポンプ室に換気扇を追加して、Aさんの趣味であるステンドグラスを製作するアトリエにした。
玄関周りは収納を充実させた。使用頻度の高い靴を入れる部分には扉を付けないで、取り出しやすさを優先した。収納扉や収納の側面にスリッパ掛けの金物を取り付け、スペースを有効活用できるように工夫した。
このほか2階の書斎の壁の一部を撤去し、襖を引き戸に変えることで、廊下と書斎を一体に使えるようにしたり、掃除用具を入れる収納を充実させるようにするなど、随所に細かい工夫を凝らした。
これらのきめ細かいリフォーム内容は、設計時の丁寧な聞き取りとともに、現場が始まってからもAさんと吉田氏が密にコミュニケーションを取り、細部を調整していくことで可能になっている。
「居ながらリフォーム」は信頼感が重要
リフォームは主に2階だったので、「居ながら(住まいながら)」のかたちで行なわれた。最初に1週間かけて浴室のリフォームを行うことで、生活への支障を最小限に抑えた。Aさんも工事に協力的で、夫の通勤を公共交通機関から車に切り替えることで、日中は駐車場を職人が使えるように配慮した。「隣の地主との関係がよかったので、駐車場として空き地を借りることができたのも助かった」と吉田氏は言う。日中、Aさんが家を空けるときは、吉田氏に鍵を預けていた。「大工さんもよく知っている人だし、心配はしていなかった」とAさん。
Aさんはステンドグラスの製作が趣味ということもあり、ものづくり全般に興味があった。大工をはじめとする職人の仕事に興味をもち、コミュニケーションを取ることで、リフォームへの理解と満足度が深まっていった。「作業する人の生の声が聞けたり、設備のことを教えてもらったり、勉強になった」とAさんは振り返る。こうして3ヶ月の期間を経て、Aさんのリフォームは終了した。
家事効率と快適性が大幅に向上
リフォーム後8年経過し、Aさんはこのリフォームをどのように評価しているのか。
Aさんの評価はまずはキッチンと洋室をつなぐ動線のよさ。そして、幅寸法が短めなダイニングテーブルをオーダーで製作することで、無理無く食事をキッチン内で完結できるようになっている。
間仕切り撤去による空間の広がりも評価の1つ。「圧迫感がなく、広く感じるのがいい」とAさん。引き戸を多用することで、区切ってつかったり、広く使ったり自由にできる点も評価が高い。「引き戸を閉めると完全に仕切れるので、暖房の効きがよく、真冬でもガスファンヒーターを少し使うくらいで済んでいる」とAさん。
そして清掃性も大きなポイントだ。「キッチンパネルを流し台の周辺にも張ってもらったが、これが掃除しやすくて大正解だった」とAさん。このほかワーロンや階段室廻りの建具に用いた型板ガラス、採用した換気扇も清掃性が高いと評価を得ていた。
収納に対する配慮も重要だ。各所に設けられた収納は、収納扉が大きく開く金具を用いる、収納物に合わせて薄型の引き出しを設ける、収納内部の棚を変更できるようにするなど、使い勝手と可変性を重視したつくりとなっていたが、Aさんは見事にそれを使いこなしていた。リフォームの場合、「どう使うか」ということが明確なので、事前に細やかなヒアリングを行なって収納を計画することで、活用のされ方や満足度を確実に高めることができる。
さらに、Aさんの趣味であるステンドグラスを窓廻りや照明器具に配置できるように、周辺を整えたことも、空間の個性化とともにAさんの満足につながっていた。新しく入れた設備では、インターホンの評価が高く、食洗機の評価がいまひとつだった。前者は3階建てということもあり、いちいち1階に下りて対応しなくてもよい点が評価された。食洗機については、「落ちにくい汚れは完全に除去できないので結局手洗いになるので、それほど使っていない」とのことだ。機器選定に際しては、料理の内容と機器の能力を、細やかにすり合わせるほうがよさそうだ。
最後に、これから改善したい点についてAさんに聞いた。まずは階段室に配した建具に嵌めたガラスの寸法。「ダイニングテーブル周りに置いた椅子の背もたれが、ちょうどガラスに当たる位置に来るので気を使う」とAさん。もう少し小さい寸法にすればよかったという。そして、流し台の吊り戸棚の形式。「収納部が下部にスライドするタイプにすればよかった」とAさん。検討はしたものの吊り戸棚の下に照明を設けることを優先したので、その金物は付けられなかった。
もう1つはシンクが浅めなこと。これはシンク下部にあるゴミ箱収納の高さ寸法との兼ね合いできまったものだが、「事前にゴミ箱の大きさを決めておけば、シンクが深くできた」とAさんは振り返る。新築以上に緻密に詰めるほど、暮らしやすさが向上するのがリフォームであることが分かるエピソードだ。
地域密着の強みを活かす
このようにAさんは、家事のしやすさと、間取りや造作との関連を具体的に抽出できる施主である。こうしたタイプの施主とは、何度も打ち合わせを行い、使い勝手などについて相互理解を深めることで、非常によいリフォーム結果が生まれる。
打ち合わせの密度を高めるためには近くに住んでいることが大前提となる。つまり、こうしたリフォームは、地域工務店が最大限に強みを発揮できる。これからのストックビジネスを展開する上で、地域とのつながりを強化することの大切さを改めて認識した。