築25年の木造住宅ベランダ防水リフォーム|塩ビシート防水から「シート防水+ウレタン塗膜防水の複合防水」にした理由

今回のブログでは、25年前の2000年に当社で新築した、木造住宅の外装リフォームについてご紹介します。
リフォームの内容は、屋根・外壁・軒天・雨樋・土台水切りといった外装部分の塗装と、ベランダの防水工事です。
築25年、今回が2回目の外装リフォームとなります。
1回目の外装塗装リフォームは、当社ではなく他社に依頼されました。ベランダ防水リフォームは、完成後、今回が初めてです。
このブログでは、1回目の外装塗装工事を他社に依頼した経緯に加え、ベランダの「シート防水(塩化ビニールシート防水)」のリフォーム工事について詳しくお伝えします。
木造住宅のベランダ防水には、現在、主に4種類の方法があります。
新築時に施工した「シート防水」は、当時の新築木造住宅では一般的な防水仕様でした。しかし、その直後くらいから、「FRP防水」に主役の座を譲りました。現在、新築木造住宅の7〜8割が「FRP防水」だといわれています。
今回は、新築木造住宅では少なくなった「シート防水」のベランダのリフォームについて、どのような防水仕様にしたのかを、詳しくご紹介します。
結論からお伝えすると、今回採用したのは、以前のブログでも紹介した「シート防水+ウレタン塗膜防水」の複合防水工法です。
この工法は、既存の防水層を剥がさずに上から施工できるため、工事中に急な雨が降っても雨漏りのリスクが少なく、安心して進められます。
シート防水とウレタン塗膜防水の、それぞれの利点を生かした工法で、出隅・入隅・排水ドレーン廻りなどの複雑な形状にも対応できます。防水層も種類を変えて2層になるので、私は安心感のある工法だと感じています。
目次
リフォームの積み重ねが、今回の外装リフォームにつながった
このお宅の外装塗装は、築10年くらいに1回目を行なっており、今回が2回目です。
1回目の外装塗装は、当社施工ではありません。当時、近所で外装塗装リフォームをしていた会社に、依頼されたとのことです。
しかし「いい加減な外装塗装リフォームをされたので、不信感が残った」とのことです。
そこで、見積前と足場を架けてからの2回、他社が行った外装塗装リフォーム状況を見ました。疑問符の付く箇所は、2か所程ありました。しかし、私が確認したところ「いい加減なリフォーム」とまでは言えない状態でしたので、そのように報告しました。
反論が出来ない同業者の悪口を言って、自分の価値を上げるのは、「客という立場を生かしたクレイマーと同類」になった気分になり違和感があります。また誰でも完璧に仕事をするのは難しいと思うからです。
奥様に、「他社が行った外装リフォーム工事の、どこが気になったのか?」を聞いたところ、「説明が、ほぼ無かった」とのことでした。私は、住まい手と造り手のコミュニケーション不足も、リフォームの印象が悪くなった原因だと感じました。
そこで、当たり前のことですが、職人達には作業前と作業後の施主への挨拶を、うっかり忘れないようにしてもらいました。挨拶をすると、お互いに話しやすくなるからです。
私は、施主に対して工事前の説明に加え、工事中は工程ごとに、写真を使って施工状況を報告しました。施主が気になったところがあれば、その都度、私に話してもらうようにしました。通常のリフォーム工事よりも、少しだけ施主と話をする機会を増やしました。完成後は、施主と一緒に建物を回って外観を確認しました。
見積前の現地調査で外壁を触ると、※チョーキング現象があり、塗り替えの時期になっていました。また外壁目地のシーリングもひび割れが入っていたので、シーリングを打ち換えてから、外壁塗装をしました。
外壁のチョーキング現象とは、外壁の塗装が劣化して、表面が粉状になる現象のことです。外壁を触ると、チョークを触ったように、手に白い粉が付着するため、塗り替え時期のサインとして知られています。外壁や屋根の塗装リフォームが遅れると、塗膜下の基材まで劣化する恐れがあります。そうなると、外壁材や屋根材の貼り替えが必要になることがあり、塗装リフォーム費用よりも何倍も高くなってしまうため、適切な時期に塗装リフォームをする必要があります。
このお宅は、当社で2023年に下記ブログの「既存樹脂サッシの室内側に樹脂内窓を付けるリフォーム」を行い、2024年にキッチン交換を行いました。その2つのリフォームの印象が悪くなかったので、3年連続で、今回の外装リフォームの依頼に繋がったのだと思います。
断熱気密性の良い、樹脂サッシ(アルミ樹脂複合サッシではない)の内側に、樹脂内窓を付けたリフォーム事例はこちら。
樹脂サッシが経年劣化して隙間風が入ってきたので、内窓を付けた話

外壁塗装リフォームの時期を逃した、窯業系サイディング外壁材の貼り替え事例はこちら。
外壁材の下に貼る「透湿防水シートの表裏を貼り間違えると、全く防水シートにならない」という実例写真
外壁塗装前にシーリングを打ち換えるべき理由
外壁塗装前に外壁目地のシーリングを打ち換える理由は、シーリング表面に細かいひび割れや劣化が発生した状態だと、外壁材まで劣化する可能性があるからです。
外壁目地のシーリングのひび割れに汚れが溜まり、かつひび割れがあると雨水が侵入して、シーリングの水はけも悪くなります。そうなると、シーリングに接する外壁材の端部にも水が溜まりやすくなり、外壁材の劣化に繋がりやすくなります。そのため、シーリングにひび割れ等の劣化があれば、外壁塗装前に外壁目地のシーリングを打ち換える必要があります。
とくに窯業系サイディング外壁材の耐久性は、表面の塗膜に頼っているので、上記のようになるリスクが高いため、塗装前に外壁目地のシーリングを打ち換えるのが基本です。
劣化したシーリング材の上に塗装をした場合、シーリングは硬化しているので、地震の動き等についていけず、塗膜が早期に割れたり剥がれたりするリスクがあります。
シーリング部分は建物の動きによって伸縮するため、塗装前に柔軟性のある新しいシーリングにしておく必要があります。
窯業系サイディングの目地シーリングの劣化事例はこちら
新築木造住宅のベランダ防水は主に4種類
チャットGTPで調べたところ、新築木造住宅のベランダ防水の仕様は、主に以下の4種類です。
防水仕様 | シェア(目安) | 備考 |
FRP防水 | 約 70〜80% | 圧倒的に多い。特に住宅会社・工務店の標準仕様として採用されやすい。 |
ウレタン塗膜防水 | 約 10〜15% | 柔軟性があり、細かい納まりにも対応可能。 |
シート防水 | 約 5〜10% | 大きめのバルコニーやRC造での採用が多く、木造では少数派。 |
板金防水 | 約 1〜5%未満 | 特殊事例。設計力・施工力が必要なため、地域の工務店や建築家設計住宅で限定的に採用。 |
「FRP防水」のシェアが70~80%だということに異論はありませんが、私の印象が、上記の表と違っているところが以下の2点です。
- 「ウレタン塗膜防水」が、新築木造住宅に使われているのを、他社も含めて見たことがありません。ウレタン塗膜防水は、今回のように、複合防水としてリフォームで使われることが多いと思われます。
2.新築木造住宅のベランダ防水の仕様で、「FRP防水」が普及してきたのは、2000年前後だと思います。「シート防水」は木造では少数派となっていますが、「FRP防水」の普及以前は、「シート防水(塩ビシート防水)」が多かったと思います。
新築木造住宅のベランダ防水仕様の特徴とメリット・デメリットを比較
以下は、チャットGPTに作ってもらった、木造住宅新築時のベランダ防水仕様の比較表です。下記のシート防水欄を見て頂くと、メンテナンス頻度は10~15年に1度となっています。
この住宅のシート防水は、新築後何もせずに25年経過していたので、長持ちした方だと言えます。ベランダにモノを置かずに、キチンと掃除していたので、ゴミや埃が溜まりにくかったことも長持ちした理由だと思います。
防水工法 | メリット | デメリット |
FRP防水 | – 軽量・高強度で耐久性がある- 継ぎ目がなく、漏水リスクが低い- 硬化が早く工期が短い | – 硬くて割れやすく、木造の動きに追従しにくい- 紫外線に弱く、出来ればトップコートの定期補修が必要(5〜10年) |
ウレタン塗膜防水 | – 柔軟性があり、下地の動きに追従しやすい- 凹凸や複雑な形状にも対応できる- 比較的安価 | – 厚みムラが出やすく、施工者の技量に依存- 紫外線に弱く、定期メンテ(トップコート)必要(5〜7年) |
シート防水 | – 耐久性が高く、メンテナンス頻度が少ない(10〜15年)- 紫外線や熱に強い- 施工後すぐ使用可 | – 継ぎ目の処理が要<- 複雑な形状に不向き- 費用がやや高め- 下地が硬い構造向き |
板金防水 | – 紫外線や経年劣化に強く、長寿命(20年程度)- 排水性能が高い(適切な勾配条件下) | – 水を“止める”のではなく“逃がす”ため、設計が重要- 平らな面には不向き- 歩行時の音・滑りやすさあり- 技術的ハードルが高い |
■補足
· FRP防水:現在の木造住宅では最も標準的な工法。施工性とコストのバランスが良い。10~15年に1度防水リフォームが必要
· ウレタン防水:リフォームや複雑形状に強み。新築ではあまり一般的ではないが、意図があれば採用される。
· シート防水:屋上に多く、大きなバルコニーにも使われる。戸建木造住宅では、以前ほどは使われていない。
· 板金防水:勾配・納まり設計が命。屋根と同じ材料であり、耐久性が高い。
新築時の塩ビシート防水から「TVJシートW工法」にした理由
見積前の現地調査時、ベランダ入隅の塩ビシートが浮いており、隙間が出来ていました。これは、既存防水シートの一部の接着剤が剥がれて、浮いてしまっている状態です。
築25年ということもあり、ベランダ防水リフォームは必要であると判断しました。既存の塩ビシート防水を出来るだけ剥がさずに行いたいと考えました。
その理由は、既存防水を剥がしてしまうと接着剤によって、防水下地も壊れてしまう可能性があるからです。防水シートが浮いていない部分は、今もしっかりと防水性能があるため、剥がす必要がありません。施工中、急に雨が降ってきた場合でも、既存防水シートがあれば、雨漏りしずらいからです。
後日、防水業者と再度現調に訪れました。防水業者と相談した上で、「シート+ウレタン塗膜の複合防水」にすることにしました。
「シート+ウレタン塗膜の複合防水」は、TVJシートW工法という防水仕様です。床面や立上りの、比較的広い面は、既存防水を剥がさずに、TVJシートが貼れるので安心感がある上に、シート上にウレタン塗膜を全面塗布します。ただし、TVJシート防水は、シートを貼るため、複雑な形状には不向きです。対して、ウレタン塗膜防水は、とろみのある防水材を塗って防水とするため、出隅・入隅・排水ドレン周りなど、複雑な形状部分にも適しています。TVJシートW工法は、防水が種類を変えて2層になり、かつお互いの利点を生かした防水仕様のため、安心感があります。
※この場合の防水の入隅とは、防水の床面と立上りの取り合い部分のことです。
TVJシートW工法によるベランダ防水のリフォーム工程
- 既存塩ビシート防水を高圧洗浄して汚れを落として乾燥させる。汚れを落として乾燥させないと新規シートが、キチンと接着しないため
- 既存塩ビシート防水の浮いている入隅部分を撤去
- TVJシート貼り厚さ1mm
- ウレタン塗膜防水塗布厚さ1mm塗布
- トップコート塗布






今回使った防水仕様、TVJシートW工法は、過去にもリフォーム工事で複数回施工しており、安心感があります。以下のブログの文末に、TVJシートW工法写真と説明文があります。
シート防水+ウレタン防水の複合防水、TVJシートWの材質構成について

· ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム層
· ガラスクロス層(補強布)
· 非加硫ブチルゴム粘着層(ベースはブチルゴムとジエンゴム)
ベランダを設けない住宅が増えている7つの理由
- 花粉症の人が増えているため、外で洗濯物を干したくない
- 家族人数が少なくなっているため。ベランダに干すほどでなく、室内干しで充分
- ガス乾燥機「乾太くん」が普及傾向で、洗濯物の仕上がりは外干しより良い
- 高断熱・高気密住宅が増えて、室内で洗濯物が乾きやすくなっている。室内の温湿度が安定して、特に冬は乾燥気味になるので、洗濯物を室内で干すことは高断熱住宅と相性が良い。洗濯物が加湿器の一部となる
- 布団干しは、日当たりの良い吹抜けがあれば、室内の吹抜け手摺等で行える
- 新築時のベランダ作成コストとベランダ防水リフォームコストの削減。定期的にベランダ防水リフォームが必要
- ベランダが無い場合、雨漏りの可能性が少なくなる。ベランダがあると、ベランダ本体と壁との取り合い等が雨漏り箇所になることがある。ベランダが無いほうが、雨漏りの心配は少ない
ベランダについて詳しく書いた過去のブログはこちら
ベランダは設計施工が難しい場所です。
「ベランダを造るのか?造らないのか?」の判断が必要になる場所でもあるので、いろいろとブログを書いています。
私は、「できればベランダは造らないほうが良い」と考えています。

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。
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