2015-12-17
住宅設計

世間の考えるミニマルと建築業界人の考えるミニマルが全く違っている話

ミニマル

 

最近、ミニマリストと呼ばれる男性の書いた本が話題になっています。断捨離の次はミニマリストだそうです。

 

ぼくたちにもう物は必要ない

 

スゴイ103件もカスタマーレビュー付いてる。

 

著者の佐々木 典士さんの 部屋はこちら。修行僧か、塀の中の人のように見える。

 

佐々木正典さん

 

出典

「ミニマリスト」でグーグル検索するとこちら。佐々木さんの部屋と同じような中古賃貸マンションの入居前のような、生活感のない写真ばかりが並びます。

 

世間ミニマル

 

この写真は、私の考えるミニマルとは違う。というより、建築メディアで紹介されてきたミニマルな部屋とは、全く違います。

 

ミニマルというより殺風景。中古賃貸アパートの入居前の写真のようです。

 

建築業界人の多くは、魅力を感じない部屋だと思いますが、現在、世間がミニマルな部屋と言われて想像するのは、上記写真のような部屋なのかもしれません。多くの人がマネできるのは、等身大でお金の掛からない、こちらのミニマルなのです。これを「世間ミニマル」と名付けましょう。

 

「世間ミニマル」の写真からは、モノは買わないし置かないぞ!現状にそのまま住むぞ!という強い意思が感じられ、リフォームする場合もDIYリフォームで、建築のプロに依頼する可能性は少ないでしょう。

 

私たち建築業界人からすると、「世間ミニマル」信仰者とは接触する機会が無さそうなことも、魅力を感じない理由だと思います。建築の仕事を通して関係は結べないでしょうし、一緒に食事に行っても腹八分目のミニマリストで、楽しくなさそうです。www

 

一方、建築業界人の考えるミニマルに近いのは、こちらのような部屋。「世間ミニマル」の画像とは全く違います。「ミニマル インテリア」でグーグル検索しました

建築業界ミニマル

 

どう考えてもこちらが魅力的。物が少ないことは共通ですが、洗練されています。こちらはお金が掛かりますから、誰でもマネのできるインテリアではありません。これらを「建築業界ミニマル」と名付けましょう。

 

ジョン・ポーソン

私がミニマルで思いつくインテリア ジョン・ポーソン出典

 

違いは、環境に合わせ個別カウンセリングされた設計と選び抜かれた建築材料と数少ない家具の質にありそうです。両者を比較して、建築業界人が関わりたいのはこちらのインテリアを嗜好する(できる)人です。

 

朝日新聞2015年12月15日耕論に記載された、辛酸なめ子さんの「世間ミニマル」に対する論評。素晴らしいので記載します。私が感じていたことも同じようなことでした。彼女のように読解力が無いので、上手く言葉にできなかったのです。

 

 

 

辛酸なめ子

出典

 

ミニマリストの男の人たちが書いた本を最近、よく見かけます。そこに載っている自宅の写真を見ると、物がなさ過ぎて、まるで修行僧の生活のようです。

ある本では「マットレスも、テーブルもテレビも手放した」と書いてあります。物をなくし、いずれ自分もなくす、無我の境地になっていく。そんな印象です。

別の本は帯で、バスタオルは必要ない、と言い切っています。すごいです。でも、バスタオルの会社の人が見たら悲しむだろうな、と思ってしまいました。

 

これも要らない、あれも要らないと書いているのを読むと、自分はいろいろな物の運命を握っている、ジャッジすることが楽しい、そんな印象も受けました。

「自分は取捨選択する強い存在である」みたいな。

 

これは強く感じますね。バスタオルの話は面白いです。シンプルな生活してるのに傲慢ぽいのは、威張っている坊さんみたいで違和感あります。上手い、さすが!

 

持ち物のリストを見ると、iPadとかiPhoneとかMacBookとか、デジタル関係が多いですね。そしてそれぞれの充電ケーブル、ケーブルを収納するケース、アダプターが2、3種類。電源タップまで持ち歩いているんですね。物よりもデータ、物から離れたかわりにデータに執着してしまうのかもしれないですね。

日本でミニマリスト的な暮らしができるのは、家の中に物がなくても、ちょっと外に出ればコンビニもあるし、ネットで何でもすぐに手に入ることも大きいのでは。わかっていないと叱られるかもしれませんが。

 

物から離れた代わりに、テータに執着してるでしょう?という話。

 

せっかくきれいな部屋にしたのだから、たとえばちょっとした骨董(こっとう)品とか絵とかを買って家の中を飾るとか。文化を応援するような方向もあるといいですね。

 

とやんわり提案します。

 

辛酸なめ子さんの旦那さんや彼氏はツライ。何でも御見通しです。

 

 

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

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