2017-02-07
住宅設計

施主が工事や建材を、別の業者に直接発注すると、不具合が起きた時に工務店も施主も大変なストレスになることがある

擁壁

画像出典

注文住宅建築のQ&Aサイトの質問に答えましたが、良い質問だと思うので、ブログに掲載します。

 

擁壁工事で工務店が相談に応じてくれないという質問です。

 

敷地は盛り土であり、これから擁壁も建つので、住宅会社にとってもリスクの高い土地です。

 

かつ、施主が工事を直接発注すると、不具合が起きた時に、工務店も施主も大変なストレスになることがあります。

 

では、見てみましょう。

 

【質問】擁壁工事で工務店が相談に応じてくれない

 

現在、すでに土地は購入済であり、そこに家を建てるため工務店で間取りプラン相談をしていることろです。その土地は、道路から1m盛ってあるのですが、道路側から手前2m部分は土地購入時点から盛られておりませんでした。(アプローチや駐車場を想定して土は滑らかに削られてありました。)工務店とのプラン設計で駐車場は作らないことにしました。そこで道路との境界線すぐに1mの擁壁を作り削られた部分へ盛土をしたいと考えました。盛土の一部に家も建ちます。擁壁工事は独自で知人の土木業者へお願いしようと思いました。しかし、その土木業者は、『家が土地のどの辺りに建ち、階段はどの位置にするかによって道路側の擁壁の長さや玄関へ向かう階段脇の擁壁の位置や長さが決まります。事前に工務店と相談していただかないとあいまいにはできません。工務店は不親切では?』と言われました。確かにその通りだと思います。家の建つ位置や階段のデザインによってどのように擁壁するかが変わります。擁壁と建物の建つ位置や外構デザインと連動していると思います。

工務店は、『擁壁あってそれから家・階段ですから、まず擁壁をお客さんの方で進めて下さい。』と全く相談の乗る気がありません。工務店としては、自分の委託業者でなく注文主が独自で土木業者に依頼することが面白くないのでしょうか。工務店の対応は適切なのでしょうか?

 

【回答】敷地は盛り土であり、かつ擁壁も建つので、住宅会社にとってもリスクの高い土地です

 

栃木県宇都宮市で注文住宅とリフォーム・リノベーションを行う工務店、ヨシダクラフトを経営している吉田と申します。質問を読ませて頂きました。

 

まず質問文を読む限り、敷地全体が盛り土であり、かつこれから擁壁も建つので、工務店にとっても非常にリスクの高い土地です。

 

リスクが高いという意味は、盛り土や擁壁のある敷地は、普通の敷地と比べて弱く、地震で擁壁が倒れたりして家が傾く可能性もあるからです。

 

工務店は施主が買った敷地を見て、「良くない敷地ですね」とは言いにくいです。

 

私は擁壁のある盛り土敷地に建つ住宅は、経験上リスクが高いので、基本的には造りたくないと思っています。

 

地盤調査をして、住宅下の地盤補強等も施工しないといけないでしょう。

 

施主が土木業者に擁壁工事を直接発注するという話ですが、工務店と擁壁業者は、何度か、技術的なことを話し合う必要があると思います。

 

工務店にとっては、リスクが高い土地の上に、打ち合わせ等を全て無料で行い、重い責任が発生するのは私だったら嫌なので、ハッキリと理由を話して擁壁工事も当社の請負にしてもらえないかと、言うと思います。

 

それが出来ないので、この工務店は「擁壁あってそれから家・階段ですから、まず擁壁をお客さんの方で進めて下さい」と言っているのかもしれません。ハッキリ聞いてみてください。

 

人間はお金を払う人の言うことを聞くので、施主が工事を別の業者に直接発注してしまうと、各業者は施主の言う事は聞くが、支払い主でない住宅会社の言うことを聞きません。

 

施主が工務店を通さずに工事を直接発注すると、不具合が起きた時に、工務店も施主も大変なストレスになることがあります。

 

擁壁のある住宅では、地震等で擁壁が倒れたことが原因で、家も傾斜するという事故も起きています。

 

万が一事故が起こった場合、擁壁を造った業者と住宅建築をした工務店が同じ住宅請負業者なら、責任の所在は1社です。

 

しかし、擁壁業者と住宅建築業者が違う場合。擁壁が倒れたことが原因で、家が傾斜した時に、家が傾いたのも擁壁業者の責任だと認めれば良いですが、「擁壁が倒れたのは自分のミスだが、家が傾いたのは建築業者が適切な地盤補強をしていなかったからだ」と、住宅が傾いた責任を負わない可能性が高い。

 

擁壁を撤去して直し、住宅も沈下修正することになると、何千万円もしくは何億掛かるのか分からないので、擁壁業者は自分の責任は最小限にすることが多いです。

 

その場合は、施主と擁壁業者、もしくは擁壁業者と住宅建築業者(工務店)が裁判等で争うことになります。擁壁業者側に完全に責任があるでも、裁判で施主もしくは住宅業者が自分の正当性を確実に証明することは難しい場合があります。グレーの者は罰せずで、擁壁業者が責任を逃れると、施主も工務店も損害額は膨大になります。

 

また、決着が付くまでは、誰の責任か分からないので、傾斜した家を直す費用は、施主の負担となるでしょう。

 

これは擁壁工事だけの話ではありません。

 

例えば、施主が外壁塗装工事を住宅会社を通さずに、別の塗装専門業者等に直接発注してしまうと、塗装に不具合が起こった場合は住宅会社の責任ではありません。

 

建築物は様々な建材が「取合って」「密着して」構成されるので、不具合の原因が、塗膜にあるのか、下地に原因があるのか、分からないことが多いです。

 

分離発注してしまうと、どこに責任があるのか、とにかく分かりにくくなるのです。

 

また、施主が分離発注する理由は、「そっちのほうが安いから」ということがほとんどなので、「安い=品質が悪い」ことも多いです。

 

安くするには塗装工程を省いたり、塗料を薄めて使ったりするかもしれません。

 

その不具合は直ぐには分からず、何年後かに現れるので、余計にたちが悪いです。

 

だから、住宅建築は、施主が各工事を分離発注などせずに、できれば住宅会社1社で請け負うのが、施主も工務店も安全かと思います。

 

また、建材も施主が買って支給する場合。建材自体が悪くて不具合が出た場合、お金を払っていない住宅会社の言い分を、建材商社は聞かないでしょう。

 

施主が工事や建材を、別の業者に直接発注すると、不具合が起きた時に工務店も施主も大変なストレスになることがあります。

 

施主は工務店にとってもリスクの高い仕事になることを認識し、工務店とよく話をする必要があると思います。

吉田武志

有限会社ヨシダクラフト 代表取締役・一級建築士栃木県宇都宮市を中心に、手作り感のある「暖房を止めて寝ても朝寒くない快適な注文住宅」と既存を生かした「リフォーム・リノベーション」を手掛けている。創業118年の工務店(2017年現在)。

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コメント
猫好き

こんにちは いつも勉強になる記事をありがとうございます。 現在、新築のプランニング段階ですが、地盤改良についてご意見お願いいただきたくお願い申し上げます。 土地購入時におおよその位置で地盤調査をし改良が必要なのはわかっています。 その時は砕石パイルでの工事が可能とのことでした。 建築予定の工務店では付き合いのある改良業者が砕石パイル工法は扱いがないらしく、柱状改良になるようです。 柱状改良は土壌汚染や将来撤去する時の費用を考えて、避けたく思います。 この場合、工務店に頼めば改良業者は施主側で選択できるのでしょうか? お忙しいところお手間お掛けいたしますが、ご回答お願いいたします。

2017年02月11日
yoshidacraft

こんにちは。猫好きさん、書きこみありがとうございます。 最近聞いた話なのですが、砕石パイル工法は、沈下を起こしている事例もあるようです。 穴を掘って、砕石を入れるまでには多少のタイムラグがありますが、地盤の状態によっては、穴の側面の土が崩れて予定どおり砕石柱状が造れていないのかもしれません。 私が砕石パイル工法を行った時は、沈下事例があることを知りませんでした。今後は、沈下事例もあったということも考慮して工法選択します。 それに対して、柱状改良は歴史があります。地盤改良以外にも当てはまりますが、あらゆる工法・材料には長所と短所がある。 工務店も様々な要素を考慮して柱状改良を勧めているので、信頼している工務店なら、忌憚なく工務店に相談したらいかがでしょうか?

2017年02月11日
猫好き

おはようございます。 早々にご回答いただきありがとうございます。 やはり何でも100%ということは無いですよね。 ご助言で考え直してみることができました。 ありがとうございました。 あとひとつ、お聞きしたいのですが、基礎の高さは現在30センチの設計ですが、この高さで人は難なく潜れるのでしょうか? 再度お忙しいところ恐縮ですが、お願いいたします。

2017年02月13日
yoshidacraft

基礎の高さは現在30センチとは、床下の人が腹這いになって進む部分の有効高さですかね? 私は、身体が大きく体重90キロくらいあるので狭くて嫌ですが(笑)、普通の体格の人なら、なんとか入って行けると思います。

2017年02月13日
猫好き

お忙しいところありがとうございます。 そうですよね、30センチではやはり心配になります。 ローコストではない注文住宅なので、少し考えてみる必要を感じました。 素人である施主がプロの工務店を疑問をぶつけるのもなかなかエネルギーがいるもので、家造りはなかなか大変なものだと感じております。 ありがとうございました。

2017年02月13日
yoshidacraft

誤解の無いように書きますが、30センチだからダメだという話ではありません。30センチにしている理由があると思いますので、工務店と話をしてみたらいかがでしょうか? 一番大切なのは、猫好きさんがお宅を造る工務店と、腹を割って話ができることかと思います。注文住宅建築は、カスタマズした住宅を現場で造るので、人間同士の相性が大切だと思います。

2017年02月13日
猫好き

お礼が遅くなり失礼しております。 長い付き合いになる以上、相性も考えていこうと思います。家のテイストは好みだが話がやや一方通行な感があり悩みます。 たくさんアドバイスありがとうございました。

2017年02月16日
yoshidacraft

返信ありがとうございます。 完璧に自分と合う人間や会社も無いと思いますし、 相性は、猫好きさんの感覚で判断するしかないかと思います。 戸建注文住宅は、他に同じものが1つとして無く、様々な要素が絡み合う ので、住宅会社側もお客さんから質問等をされたときに、 1つの答えを出すと、必ず良い面と悪い面が出てくるのが難しいところです。

2017年02月21日